最終話 海と翼
「せんせ~」
「どうした」
海の死から10年が経った。
毎年夏になると、先生と老人の家を訪ねることが恒例行事となっており、それは今も続いている。
その間に俺は教育学部を卒業し、現在は高校教師として日々忙しく過ごしている。
明るい生徒が多く、むしろ騒がしいぐらいなのだがそれなりに楽しい。
「質問してもいい?」
「授業に関わることならな」
「そのヘアゴムって誰のなの?」
質問をしたいと手を挙げた生徒は俺のカッターシャツの胸ポケットを指さした。
そこにはあの時のヘアゴムが入っている。
「最初は誰かから没収した物だと思ってたけど、ずっと入ってるから先生の私物なんでしょ?」
「でも先生の髪短いよね~」
好き勝手に言う生徒たちを見回して溜息をつく。
言及されると面倒なことになるのは目に見えていた。
「なになに恋人とか?」
「えー!先生の恋愛話聞きたーい」
「恋人じゃないし、俺のことに興味を持つな。授業続けるぞ」
教科書を持ち直せばクラス中からブーイングが起こる。
高校生というのは本当に元気だ。
あと、しつこい。
「じゃあヒントちょうだい!」
「気になって夜しか眠れないよ」
「そんなこと言って、お前らいつも授業中寝てるだろ」
いつも通り適当にあしらっていたのだが、今日に限って簡単に引いてくれない。
このまま授業を続けても聞いてくれないような気がしたから諦めて教科書を置く。
「……大切な人の忘れ形見」
「うわ、意味深」
「先生の片想い?」
「だから恋愛感情はないって。そんな簡単な言葉では表せないんだよ」
「なんかキザ~」
「お前次の通知表楽しみにしておけよ」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ生徒とそれを見て笑うクラスメイトたち。
この学校の教室の窓からは綺麗な海が見渡せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます