第12話


「以上をもって、第73回卒業証書授与式を終わります」


校長の長い話が終わり、卒業生は一斉に立ち上がった。

体育館中に拍手が響き渡る。


あの夏休みから7カ月が経った。

結局、海がいなくなったことで俺の日常は大きく変わった。

真人にも気を使わせてしまったことへの謝罪とお礼を伝え、夏休み明けからは真人と一緒にいることが増えた。

夏休み明けからは進路に向けて努力し、何とか志望大学に合格できた。


泣くこともなく終わった卒業式。

あとは最後のホームルームを残すのみだ。

クラスに戻ると、卒業アルバムが渡された。


「一旦席に着け~」


卒業席のために珍しくスーツを着た先生が入ってきた。

クラスのみんなは雑談を止めて自分の席に着く。


「式で疲れただろうし、ここで長々と話す気はないから簡単に話させてもらうな」


この後の先生の話は本当に短かった。

担任として過ごしてきた日々のことやこれからについて鼓舞する内容だった。

話が終わり、先生へのサプライズも終わったところでこのクラスは本当に解散になった。


「戸田」


教室を出る直前、先生に呼び止められる。

振り返ると、先生はいつも通りの優しい笑みを浮かべていた。


「卒業おめでとう」

「ありがとうございます。本当に色んな面でお世話になりました」

「まさか教育学部に進学するとはな」

「俺も驚きましたよ」


海の進路希望調査には第1希望に『教育学部への進学』と書かれていた。

5月の進路希望調査は大まかな進路を考えて提出するものだったため、具体的な大学名は書かれていなかった。


「海が教師になりたかったなんて知りませんでした」

「でも無理して意思を引き継ぐ必要はないからな」

「分かってます。でもちょうど進路に迷っていたので、折角なら大学で海が見たかった景色を見てこようと思います」


そう言うと先生は安心したような表情を見せた。


「電話番号は渡してあるし、また何かあったら電話かけてくれていいからな」

「高校に呼び出してもいいんですか?」

「何で高校限定なんだよ。あと来るならちゃんと入校許可取ってこい」

「注意点そこなんですか?」

「そこだろ」


こんな軽口を叩けるのもこれで最後かと思うと寂しい。


「本当にありがとうございました」

「後悔しない道を選べよ」

「はい」


改めて先生にお礼を伝えて教室を出た。

海のいた3-Bに入ったのは、あの夏休みの1回だけだった。

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