第11話



「…実はこの教室に探し物があるんです」

「探し物?」

「はい、多分海なら机の奥にくしゃくしゃ丸めて押し込んでいるはずです」


椅子を引いて机の中を覗き込む。

机の中の物は回収されていないのか、まだ教科書などが入っていた。

机の中の教科書を隣の机の上に出しながら奥に手を伸ばすと紙のようなものに触れた。

それを引っ張り出すと、ぐちゃぐちゃになった書類が出てきた。

それを丁寧に広げていくと、予想通りの文字が見えた。


「『進路希望調査書』?」


書類を覗き込んだ先生は不思議そうに首を傾げた。

そう、俺が探していたのはこれだった。


「これを探していたのか?」

「…どうせ海は面倒だからという理由で遺書なんて遺しません。だから俺は海の進路希望調査を探しに来たんです」

「なるほどな」


紙は書かれた部分が見られないように半分に折られてから丸められたようだ。

「ごめん」と断ってから紙を広げる。


「……そっか」


散々流したはずの涙がまた溢れてくる。

この文字を見ただけで、海がどれだけ真剣に将来を考えていたのかが分かった。

そこには病気で長生きできないことを理解しつつも、歩みたかった進路が書かれていた。


「先生、俺、進路決めました」

「そうか」


先生は海がどんな進路を書いていたのか聞いてこなかった。



しばらく静かな時間が流れた。

先生が換気のために窓を開けると運動部の声が遠くから聞こえた。


「…なぁ、本来教師はこういうことに首を突っ込んではいけないんだが1つ聞いてもいいか?」

「何ですか、そんなに予防線張って。いいですけど」


先生は俺の方を見ずに外を眺めていた。

そして、何を考えているのか分からない表情で口を開いた。


「お前、水谷のこと恋愛感情で好きだったのか?」


その言葉を聞いて、俺は目を見開いた。

先生はどこまで海のことを知っているのだろうか。


「先生には俺らはどんな関係性に見えますか?」


過去形ではなく、あえて現在形で聞いた。

先生は俺の質問返しに少し黙った後、困った様子で答えた。


「正直に言えば、ただの親友ではないと思っていたよ。でも、恋愛感情かと言われると断言できない」


そう言って、先生は再び窓の外へと視線を移した。


「……そうですね。まぁ、自分でも海に甘いと思いますよ。海が病気の影響で運動するのが厳しいから俺も運動部に入らず帰宅部になっちゃうぐらいですし」

「頑なに部活に入らなかったのはそういう理由だったのか」

「運動するよりも海と話す時間の方が楽しかったので」

「……」

「この感情は恋でも愛でもありません。俺は、自由に生きる海のための翼なんだと思います」


思ったままのことをそのまま素直に話せば納得したように頷かれた。

それが俺なりの答えだった。

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