第4話

部屋の扉がノックもなしに開いた。


「あ、使用中でしたか。すみません」


どうやら他の先生も進路指導室を使おうとしていたようで、俺たちを見てすぐに謝って出て行こうとする。

今しか逃げられないと思い、急いで立ち上がり呼び止める。


「あの!ちょうど話し終わったので使ってください!じゃあ先生、さよなら!!」

「お、おい!」


鞄を掴んで急いで部屋を出る。

これ以上何も聞きたくなかった。

息を切らしながら駐輪場まで走れば、海は先程と同じように自転車を漕いでいた。


「海!」

「ん、どしたの?」


海の肩を掴み、思いきり揺らす。

首を振られている海は何が起きているか分からないようで目を白黒させている。


「な、なに!?」

「俺、お前と一緒にどこか遠くに行きたい」

「はぁ!?」


俺の言葉を聞いて、さらに困惑する海に構わず続ける。


「皆がおかしいんだよ!何か隠してて…」

「…そうなんだ」


海は不意に俺の頭に手を置いた。

そのまま優しく撫で始めた。


「大丈夫だよ。翼には僕がいるから」

「……おう」


海の声がやけに心に染みた。

海はそれ以上何も言わずにただ頭を撫でてくれた。

それが風に撫でられているようで心地いい。


「…泣いてるの?」

「え」


海に言われて目元を拭えば、確かに濡れていた。


「あれ、おかしいな。何で泣いてんだろ」

「疲れたんじゃない?進路とかいろいろ考えないといけないことあるしさ」

「…海は進路とか決めた?」

「うーん。なりたい職業はあったんだけど、もう無理なんだよね」


困ったように笑う海は寂しげに見えた。

しかし、その表情の意味が分からず黙っていると海はまたいつものように笑っていた。


「そんなこと分かんないだろ」

「…そうだね」

「……そろそろ帰るか」

「うん」


なんだかもっと海と話していたくて、自転車を押してゆっくり歩いて帰った。

日がまだ長くて、夕焼けに染まるまで時間があるようだった。

最近なかなか寝付けないことが多いから、少しだけ眠い。

欠伸をすれば海に顔を覗き込まれる。


「寝不足?」

「うーん、不眠症かもな」

「それ大丈夫?病院行った方がいいんじゃない」

「めんどい」

「またそんなこと言って」


呆れたような顔をしているが、心配してくれているらしい。

病院か。

まぁ、前向きに考えておくか。

何でもない話をしていれば、いつの間にかいつもの分かれ道に着いていた。


「じゃあね」

「あぁ、また明日」


その道で別れ、家に帰る。

家に着けば、誰もいなかった。

どうせ親は仕事だろう。

適当に食事を済ませ、風呂に入る。

今日は早めに寝ようとベッドに入ると、睡魔はすぐにやってきた。

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