第3話
戻ると海はまたぼーっとしていた。
「海」
「ん~?」
「どうした、脱水か?」
「そこは熱中症じゃないの」
「お前が揶揄うことが目に見えてたから言わなかったんだよ」
「僕に対する信頼無いな~」
鈴を転がすような声で笑いながら海は自転車を漕いでいた。
カラカラカラカラと際限なく回るタイヤを見つめる。
夏の風が心地いい。
「戸田」
「げっ、先生」
「そんな嫌な顔をするな」
「何でここが分かったんすか」
「お前と水谷はよくここに居たからな」
クールビズなのか、先生はネクタイをしていない。
しかしそれでも暑いのか手で顔を扇いでいる。
「……で、何か用ですか?」
「いや、特にないが……まぁ強いて言えば進路と夏休みの予定でも聞いておこうかと思ってな」
「は?」
「ほら、そろそろ進路も本格的に定めないとだろ?ここじゃ暑いからクーラーがついてる進路指導室行くぞ」
先生はこちらの返答を聞かないまま、歩き出す。
仕方ないので着いて行くと、先生に椅子を勧められる。
「んで、志望校とか就職先はもう決めてるのか?」
「……まだですけど」
「もう3年生の夏だし、早めに決めた方がいいぞ。ほら、本当はダメだけど俺の電話番号教えておくから何かあったら連絡してくれ」
「はい」
先生の電話番号が書かれた紙を渡される。
それを鞄にしまい、しばらく無言の時間が過ぎる。
クーラーの涼しい風が汗を冷やして何となく寒かった。
先生はまだ暑いようでシャツを扇いでいた。
「…夏休み、どうするんだ?」
「まぁ大人しく勉強でもしようかと思ってますよ」
「そうじゃなくて。娯楽的なさ」
どうしてここまで踏み込んでくるのか不思議だが、何となく思ったことを答える。
「あー…1人旅行とか行きたいっすね。海とか、夏ならではの所に行きたいです」
そういえば、アイツも海が好きだったな。
海という名前の影響か分からないが、現実の海にも変わった親近感を寄せていたようだ。
一緒に行ってもいいかもしれないな。
「ダメだ」
「は?」
「1人で遠くに行くな」
「何でですか。高校生だからとか?」
急に怖い顔になった先生に少し驚きながらも理由を聞く。
すると先生は驚いたような表情をして固まってしまった。
「ちょっと、なんなんですか」
「…おま、え」
「……さっきから皆おかしいですよ。何か隠しているみたいに何もはっきり言わない」
自分で言っていて悲しくなる。
何故、こうも隠し事をされるのか。
すると、先生は諦めたように息を吐いた。
そして、意を決した様に口を開いたその時だった。
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