第51話 焼烙印とヒーローだと思います
「ちょちょっ……!! え? ど、どうゆうことですか?」
男色は武士の嗜みなんて日本では聞いたことあったけど、まさかこっちの世界でもそうゆう趣向があるのだろうか……。
まぁそれは冗談としてもここで脱ぎ出す最もらしい理由が見当たらないのも事実だ。
「ここからエジルスまで旅をご一緒する身として。そしてなにより……『僕のヒーロー』であるあなたには見ていただきたいのです」
ヒーロー? という言葉が引っかかった僕だったが数秒後、視界に写った光景に言葉を失った。
「これが何か……クリシェさんならお分かりになるでしょう?」
「――その印は……」
「はい……僕もアリーさんと同じく『道具』としての人生を歩んできた人間なんです」
背骨を中心に痛々しく描かれた焼烙印。
「よ…………ヨークさんも奴隷……だったんですか?」
表情の見えない華奢な彼は静かに頷いた。
これが見られることが嫌だったから、あの日お風呂に誘っても来なかったのか。
おそらく昨日の深夜に入っていたのもヨークさんだろう。
「そう……やっとこの前『自由』を手に入れ組織の追手に怯えていた商人志望の元悪人。それが僕、アイラボス・ヨークなんです」
「――や、やはり組織を抜けると追手に追われるのですか? アリーも出会った頃襲撃に怯えていたのですが」
「そうですね……僕達『奴隷』はあの人達への潜在的な恐怖で怯えていましたから」
「潜在的な恐怖……」
「僕はホーンディア中西部にある小さな街の極々平凡な家庭で育った子供でした。優しい母と商人だった父に育てられた僕はこのまま平凡な人生を送るのだと思っていました」
節々で感じていた違和感はこれか。
だからトールドル商街が栄えていた頃の光景を知っていたり『教王民証』を持っていたんだ。
そしてヨークさんはそのまま振り返る。
「しかしある日、僕達が住んでいた街に例の組織が襲撃しにきたのです……。子連れの家族以外を皆殺しにし金目な物を全て奪い去った後、街全てを焼き尽くした。それも僕らの目の前で」
「そして子連れの家族だけを組織の所有する隠れ家に集めた後、奴らは子供達の目の前で両親を殺しました。それも徹底的に。残虐的に。この人たちには逆らえないと幼い子供達の潜在的記憶へ刷り込ませるように」
ヨークさんの両親もアリーと同じ経験を……。
彼は少しうつむきながらも話し続ける。
「その日以来、僕も昔のアリーさんと同じく『組織の人間には絶対逆らえない』逆らえば命は無いと洗脳されていました。戦闘の才が無かったものの、商人だった父の影響で計算や文字が使えたので、盗品の管理や闇市場での売買などアリーさん達実働隊とは違った仕事を任されたんです」
潜在的に『これには』逆らえないと判断してしまう。
園長先生に助け出されるまでの僕がまさにそれだった。
理不尽な環境にも脳が勝手に適応してしまう。
それがこそが『洗脳』の恐ろしい部分であり、それを奴らは狙って引き起こしていたのか……。
「そしてホーンディアでも名の知れた盗賊になった組織が教王師団からの捕縛を恐れ、コルヴァニシュに拠点を移動してからも自分の意志など持たぬ『奴隷』として盗賊活動に従事していました」
「しかし……ある日突然組織のリーダーが、化け物じみた紅い目の剣士と操煙スキルの持ち主に捕縛されたという一報が飛び込んできたんです」
ミシェエラ先生との捕縛か……最近のようでずっと昔のような気もするな。
「そして僕はこの一報を聞いた瞬間、脳にこびり付いていた靄が晴れたような感覚に陥り、奴隷になってから初めて自分の意志で組織が抱えていた盗品を全て持ち去り逃げ出しました」
奇しくも僕が園長先生に助け出された時のように、図らずとも僕も彼の人生を変えるポイントになれたと言うことなのだろうか。
「――だから新人商人のはずのアナタは世界中の骨董品や美術品などを所有していると」
「はい。僕にお金が必要な理由も今まで間接的とは言え世界各地の人々の宝物を盗んでしまった事を懺悔し、被害に遭われた皆さんへの宝物返却並びに賠償をするために商人としての旅を始めたんです。皆の想いが詰まった『家宝』を売り捌いていた僕が言うのもおこがましいかもしれませんが」
「――! 思いの……詰まった宝物……」
この時、ヨークさんの言葉で何か大事な物を思い出した気がした。
僕がこの街でこれからやろうとしていたことの愚かさを。
「だから昨日の戦闘を見て確信したんです。僕を自由にしてくれた『ヒーロー』であり、化け物じみた紅い目の剣士とは……クリシェさんの事ですよね」
「お、おそらくは……」
僕はヒーローという言葉に少しだけ照れながらも軽くうなずく。
「ですが初めてアリーさんを見た時は組織の追手が来たと思い生きた心地がしませんでしたよ。コルヴァニシュを追われた『黒魔』として有名でしたから」
「? コルヴァニシュを『追われた』とはどうゆう意味ですか?」
「ぼ、僕にも詳しくは分かりませんが……アリーさんのご両親は元々コルヴァニシュにとって『手出し無用の重要人物』だったらしいのです。なぜそのような表現だったかは分かりかねますが」
「しかしある時、収賄・横領で逮捕された軍上層の人間によって記憶を操作された後にそのままホーンディアへ追われたらしいのです。その事実を知らずに組織はアリーさんの両親に手にかけた」
収賄と横領の嫌疑って……!?
まさか……。
「い、以前も思いましたが、よくそんな情報を持っていますね……」
「あはは……闇の市場に身を潜めていると全ての裏情報まで入ってくるのですよ……」
彼は頭をポリポリと掻きながら答える。
「き、記憶を操作されているとは……どんな理由があってそんな酷い事を?」
「そ、その者が記憶の操作を行った理由は――『コルヴァニシュ国家存続の為』と言われています。それと眉唾ですが、『困っている人が居ればたす――」
しかし、次の瞬間、体に微量の電気が流れるような妙な感覚に全身が襲われた。
「こ、これは――痺れ……それに……」
『かかったなぁ! この変態どもぉ!』
体の異変に気がついた次の瞬間。
僕とヨークさんのちょうど間の狭い通路から、声変わり前の幼な声と小学生ほどの男の子が現れた。
「
掌を合わせた少年の詠唱と同時に何かが焦げたような香ばしい匂いと黒い煙が僕達に向けて噴射される。
「ううぇぇ!? な、なんですかこれ!?」
「煙を吸い込まないように伏せてください! おそらく毒性スキルか毒物の可能性があります!」
そして腰に携えた天桜流刀を抜き取り刀を天に向かって振り上げる。
建物の屋根と屋根狭い間を通り抜けた空気の斬撃と後方に発生した乱気流が、そのまま黒い煙を消し去るとすぐに少年と距離を取る。
「す、凄いですクリシェさん……! あの煙を一瞬で……!」
「油断しないでください! おそらく何らかの次の手があるはずです!」
また子供……! 何もしていない僕達を狙う『子供』という事は……こいつもまさかフェルトやイバンと同じく教王師団の連中……!?
黒ずんだキメの荒い麻服に、目が隠れるほど深く被ったキャップと小さなリュックを背負った姿。
という見た目からから考えて金福な教王師団とも違うのか……。
だがまぁ何にしても子供の容姿に惑わされるな。
イバンのように実力者の可能性も大いにある。
そして目の前の少年はゆっくりと目深く被った帽子に手をかける
「ヨークさん気をつけてください…………何か来ます……!」
臨戦態勢に身構えていると少年は帽子を取り、そして叫んだ。
というより。
泣き叫んだ。
「――うううええーーーーぇぇん!! ペチャねぇちゃんのヴソツキィィィィィ!!!!!」
長年熟成放置していた【木の棒】の存在を忘れていました。取り出してみると最強武具に成長していたのでとりあえず片っ端から熟成しようと思います。 折々の檻 @nakanakada
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