第7話 明るい家庭
朝の事である。私は眠い体を引きずってダイニングキッチンに着くと。雪美たんがコーヒーを飲んでいる。
コーヒーか……。ビーガンとか関係なく飲みたくなった。
「雪美たん、私の分のコーヒーある?」
「有るよ」
マグカップにドリップコーヒーを乗せてお湯を注ぐ。いい香りが広がり眠い体に染渡る。よし、飲むぞ。私は気合を入れてマグカップを手にする。
「……」
少し言葉を失う。私はコーヒーの美味しさを伝える表現に困ったのだ。
「甘からず、辛からず、美味からず」
「え?不味いの?」
イヤ、間違えた。美味いと言った方がいいな。しかし、コーヒーの美味しさを伝えるのは大変だ。私はコーヒーを半分ほど飲むと。サラダを食べ始める。しそドレッシングの味はなかなかだ。これはお気に入り登録をしておこう。
「お兄ちゃんはよく野菜だけで生きていけるね」
「あぁ、よく言われる」
サラダを食べ終わると残りのコーヒーを飲み干す。さて、今日は平日だ、普通に学校がある。まだ、眠い体を引きずりながら支度をする。
あー眠い。私は教室の窓から空を眺めていた。ホームルームまでの時間は空を眺めて過ごす。
「おい、浅野、パン買ってこいや」
上位カーストのいつもの男子である。パンって近くのコンビニまで行けともうすか。人類は集団生活の中で上位関係を持つ生物である。わかりやすくマウティングを取るのであった。
『ドカ』
雪美たんの伝説の左足が壁にヒットする。
「おい、行こうぜ」
男子生徒達は去って行く。これも上位関係がわかりやすい。不機嫌な時の雪美たんは皆を恐怖で支配していた。
「最近は不機嫌がビーガンにデレたと噂になっているのよ」
大体間違いはない。雪美たんと義兄妹になって問題なく進むスクールライフは以前より快適である。男子を追い払ってから雪美たんは不機嫌の様子で自席に座る。
ふ~う、天気予報でも見て暇を潰すか。
「雪美たん、今日の夕方から大気の状態が不安定になるらしいので、今日は早く帰ろう」
「はいはい、雷に注意ね」
天気、大丈夫かな。私は教室の窓から空を眺めるのであった。
その日の夜の事である。天気予報は当たり。酷い雷雨であった。
「雪美たん、スマホに停電の報告が出ているよ」
「わかっている。でも、どうしようもないよ」
父親も初美さんも浅野の部屋に集まり避難する。
すると……。
『ブチ』
あ、電気が消えた。停電がこのタワーマンションにも及んだのだ。私はスマホのライト機能を使い辺りを照らす。
「と、とにかくご飯にしましょう」
このマンションはオール電化なのでお湯すら湧かない。
「和人さんの為の野菜があるわ。皆で食べましょう」
皆はスマホのタライト機能だけの灯りの中で野菜を食べる。それは部屋の中は暗くでも明るい家庭であった。
「お兄ちゃん、ドレッシング取って」
「はい、はい」
私はこの機会にビーガンの食事を体験してもらって気分はいい。しかし、風呂にも入れないのか。外は相変わらずの雷雨である。仕方がない、寝るか。
「お兄ちゃん、寂しいの……」
やはり、来たか、雪美たんが私のベッドの中に入る。
「今日は特別だぞ」
私がベッドに入った瞬間に電気が付く。
ああああああああああああ
少し期待しただけにこのタイミングで復旧か。外の様子を見ると雨は上がっていた。
「野菜、美味しかったよ」
雪美たんは自室に戻るのであった。
翌朝、快晴の天気は昨日の雷雨が嘘の様であった。夜の雪美たんとの添寝を肯定できたのはきっと、雪美たんの事をもっと好きになったからであろう。
これからも雪美たんと歩きたい。そんな気分であった。
不機嫌な義妹が時々優しい 霜花 桔梗 @myosotis2
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