第6話 ハーモニカ

 そして、自室に戻ると天井を見上げる。私はビーガン、完全菜食主義者だ。小さい頃からその影響で苦労してきた。幸せなどには縁遠いのであった。


うん?


 携帯に着信だ。雪美たんが電話をかけるとか言っていたな。私は一瞬迷う。このまま雪美たんと仲良くなっていいものかとだ。しかし、先ほど約束をしたのだ。着信にでるしかない。


『ハロー』

『あぁ、もしもし』


 その後は何気無い会話が続きた。


『お兄ちゃんの布団の中でぬくぬくしたいな』

『はい?』

『玄関まで来て』


 私は言われるままに玄関に行く。不思議な気分でドアを開けると。そこには携帯を持った、雪美たんが立っていた。


「えへへへへ、来ちゃった」


 だから何故来る。


「ぬくぬくしたいな」


 雪美たんはモジモジした様子で20%は不機嫌そうに言う。残りの80%は照れている。20%の不機嫌さは何処からくるのかと問い詰めたい気分だ。


「雪美たん……」


 私が言葉を探していると。ささと、上がり込み私の部屋に向かうとベッドにダイブする。更に雪美たんは服を脱ぎ始めて下着姿になる。


「ぐへへへへ、おぬしも好きよのう」


 何がぐへへへへだ、私はベッドから雪美たんを摘み出す。すると、雪美たんは不機嫌になり。伝説の左足の用意している。これは壁に穴でも開けられたら大変だ。


「ま、待て、話せばわかる」

「一緒にぬくぬくしていい?」


 仕方がない、ここは一緒に……。


 て、出来るか!!!結局、雪美たんは追い出されてしまった。私は雪美たんにスマホを渡して自室に戻るように言う。


「ケチ」


 雪美たんは、渋々、私の部屋を出る。そして、自室に戻った頃にまた雪美たんから着信がある。


『ハロー』


 私はビーガンである。それ以前に雪美たんと義兄妹になったのだ。


***


 ビーガンの私は孤独であった。何故、肉など食べなければならないのか理解が出来なかった。最近は個性を大事にしていつの間にか受け入れられた。しかし、それは表面上のことである。内心は差別の嵐であった。そこで私は屋上でハーモニカを勉強した。私の奏でる音楽は寂しさの塊であった。そこで、雪美たんの為にコンサートを開く事にした。拍手は独りきりのコンサートであった。屋上でハーモニカを奏でる。


 ♪♪♪


「すごいよ、お兄ちゃん」


 雪美たんの歓声はむず痒いモノであった。どうやら、普通、ハーモニカは奏でられないらしい。これでギターが弾ければ路上ライブができる。イヤ、今時ならネットにアップか。でも、きっとネットの海に埋没するだろう。路上ライブの方が有意義だ。


「はい、はい!ボーカルは私がする」

「おいおい、本気にするなよ」

「ケチ」


 そんな何気無い会話がとても愛おしく感じるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る