エピローグ
「………ってなわけなんですよ」
「え、で、付き合うの?」
一時間目終了後の休憩時間。私の話に正紀が食い気味に質問してくる。彼が前のめりになって人の話を聞くなんて、とても珍しい。
「まさか、断ったよ。先輩のことは、人として好きだけど、今回近づいたきっかけがきっかけだったし、生半可な気持ちで付き合うのは失礼だと思ったから。」
行事の興奮がまだ覚めやらぬ様子で、朝から教室は賑やかだった。私の声はヤンチャな男子の意味のない奇声にかき消される。
結局、青ブロックは総合優勝を逃し、2位にとどまった。まぁ、幸運なことに、応援部門の最優秀賞は獲得することができたので、私は坊主を免れたのだが。
「それより、聞いてよ。あのクソ親父。今回の件を報告したらさ、次は『学校一の問題児を更生させろ』って言ってきたんだけど!それが、アイドルになることと何の関係があるよ?!」
私は大きな声をあげ、拳で机を叩いた。正紀はもう私の話に興味を失ったのか、話半分で次の時間の漢字テストの勉強を始めている。
不服だったが、私も一応手に持っているドリルのページをパラパラとめくる。キャピキャピ系女子の悲鳴のような声に邪魔されて、全然集中できない。なんだか今日は教室がやけに騒がしいな。
「春本さん、いる?」
ふいに、声が聞こえた方に顔を向けると、葵先輩が廊下側のドアの前に立っていた。突然の先輩の登場に、クラス中の人がどよめいていた。私は驚きのあまり、ガタッと椅子から立ち上がった。正紀と顔を見合わせた後、慌ててドアの方へと駆け寄る。
「えっ、先輩、どうしてここにいるんですか?!」
「これ、この間のお礼」
葵先輩はお菓子の入った小さな袋を渡してきた。そもそも、お菓子を学校に持ってくることも他学年のフロアに行くことも、校則で禁止なのだが…。私はソワソワする思いで、言葉に詰まってしまった。
「それと」
先輩はかまわず言葉を続ける。
「俺、かっこ悪くても、春本さんのこと諦めないから。また会いにくるね」
先輩は、「じゃあ」と爽やかに手を振ると、教室を去っていた。私は胸の高鳴りを抑えながら、人混みに消えていく先輩を見送った。途中、先生に連行されながら自分のフロアに戻っていく先輩は、当初のクールなイメージとはかけ離れていたけど、お茶目で、人間的で、憎めない感じがした。私は手元にある可愛らしい袋を見て、思わずふふっと笑みをこぼした。
アイドル・イン・ザ・スクール!!〜学校一のモテ男を惚れさせろ!〜 絵子 @1go1eco
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