「絶望」と「希望」と「救済」、さらには我々の存在そのものについての「悟り」の物語として拝読しました。
一話完結の短いエピソードを紡ぐ形式で、ときにはコミカルに、ときにはシリアスに、生老病死・喜怒哀楽、この世のあらゆる側面にスポットライトを当てつつ、「生きとし生けるものの幸せ」を探す壮大な物語が展開されます。
プロット無しで書かれたという合計95万字の一連のエピソード一つ一つに、「自然の摂理の前には無力でありながら、それでもなお不条理に満ちた世界を懸命に生きる者たち」への温かい眼差しが感じられ、読後には自分自身の存在やこの世のあるべき姿について改めて考えてみたくなることでしょう。
著者の豊富な人生経験の裏付けがあって初めて可能な世界観が随所に見られ、箴言の宝庫でした。
「21世紀の福音」とでも形容したくなる意欲作だと思います。
時間をかけてじっくり味わってみてください。
ここは怠惰の箱舟という名前の、ものすっごい楽園。
願いはなんでも叶う───働いてポイントを貯めさえすれば。
死んだ人を生き返らせて。
配信の終わったゲームの続きをしたい。
若さが欲しい。
滅びかけた世界を再生する世界樹が欲しい。
なんだって叶う。
ポイントさえ、貯められれば。
しかしポイントは、飲食や遊興にも消費され、遊んでばかりだと、なかなか貯まらない。
そして、その人が死んだら、貯めたポイントもナシになる。
この箱舟では、クリーンなホワイト企業で、皆、働くことになる。
不正、残業、盗み、搾取される働かされかた、ぜ───んぶ、ナシ!
お店の利益がでなくたって、良い。
この箱舟では、お店はつぶれないようになっている。
ここでは、人や、悪魔や、神様や、ドワーフや、妖精や、ありとあらゆる種族が、楽しく日々を過ごす。
争う必要はない。
ただ、己の望みのために、働き、ポイントを貯めるのみだ。
いろんな種族のいろんな人生が、叶えたい望みを通して、交差する。
───なぜ、こんな楽園のような箱舟が存在するのか?
───この箱舟を作り、住人の願いを叶え続けている、一人の女神とは?
一話読み切りスタイルで、前にでてきた登場人物が再登場したりします。
そして、願いとは、幸せとは、と、時々哲学的なお話となります。