あの人との再会

むーが

春の出会い

 ただ、なんとなく公園に寄る。人々がひしめく姿を見て何かあったのか? と不思議に思う。

 ふと見上げると満開の桜が咲き誇りハラハラと花びらが降っている。

 ああ。花見の時期だったのか。道理で屋台があったんだな。

 そういえば、この公園に来るのも久々だ。前に来たのは何年前だろうか。あいつがいた頃だから十年は経っているな。……そうか。もう、そんなに時間が過ぎたんだな。

 懐かしくもあり、寂しくもある。

 グッと手を握り突き上げ空を見つめる。澄んだ青と桜が綺麗だ。

 あいつは空の上で俺を面白おかしく見守ってくれている、そんな気がするんだ。勝手に口角が上がり目を細める。

 さて、感傷に浸るのも、この辺にしておく。

 さっき他の人が持っていた焼きそばのソースの香りが頭から離れない。すっかり焼きそばを食べたい気分になってしまった。

 焼きそばを買うのは確定だ。後は何があるか気になるな。早速、屋台を回っていこう。

 気になった物を片っ端から買って食べたら結構腹がいっぱいだ。

 立っているのも、なんだから適当な場所に座り桜を眺める。

 何も考えずにボーッと桜を見ていると後ろに誰かが、ぶつかった。ぶつかったらしき人に謝られる。


「ごめんなさい」


その声に聞き覚えがあったから体ごと振り返る。

 そこに居たのは中学生の時のクラスメイトの安部さんだった。俺とあいつの共通の友達だった人。


「安部、さん……」


安部さんは目を点にし、その後首を横に振る。そして恐る恐る尋ねてきた。


「も、もしかして、佐藤君?」


俺は頷く。てっきり忘れ去られたとばかり思っていたので覚えてくれていたのは凄く嬉しかった。


「ああ。俺、佐藤だよ」


安部さんは目を丸くする。


「えっ本当!? 大分、雰囲気変わっていたから気付かなかった!」


そんなに驚くほど俺は変わったのだろうか。大して変わっていないような気もする。

 だが安部さんが言うならそうなのだろう。


「そんなに変わったか?」

「うん。前より大人になったというか……って中学生までしか会っていないから、そう見えるだけかも」

「あっ佐藤君がいるって事は高橋君も居るの?」


俺は首を横に振る。あいつは、もういない。


「あいつは、いない」

「珍しいね。ニコイチって感じだったのに。じゃあ連絡先知らない? なかなか連絡取れなくて」

「あいつには連絡できないんだ。だって死んじまったから」


目を合わせていられなくなり顔を伏せる。安部さんはやけに明るい声で謝る。


「ご、ごめんね! 佐藤君の気持ち考えてなかった!」

「こちらこそ、ごめん。せっかくの花見なのに、こんな話して」


安部さんは一転して優しい声になる。


「ううん。私は大丈夫だよ。佐藤君こそ平気なの?」


顔を上げると安部さんが眉を曇らせて俺を見ていた。俺は力強く頷く。俺は平気だと伝える為に。


「ああ。一時期は自暴自棄になっていたけど今は落ち着いている」

「そっか。それなら大丈夫だね」


安部さんはホッと一息吐いて微笑む。


「じゃあ連絡先交換しない? 佐藤君とまた話したいんだ」

「分かった」


この日から安部さんの、おかげもあり俺は毎日が輝いて楽しくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの人との再会 むーが @mu-ga

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ