僕たちのディスティネーションを探して

惟風

僕たちのディスティネーションを探して

 膝の上でパッケージを開く。白いプラスチックでできたトレーに、小袋がいくつかと小さなスプーンが入っている。トレーには丸い窪みが二つあって、角に三角の窪みが一つついている。

 三角を切り取る。そこに、ペットボトルから水を垂らす。小さいので、こぼさないように集中する。ここが一番緊張する。

 三角を満たした水を、丸い窪みの一つに移す。一滴も無駄にすることなく手際良くできて、安心してフウと息を吐いた。

 気を抜くのはまだ早い。私は続けて『1ばん』と大きく書かれた小袋を――


「なあ」

 ちょっと集中してるから後にして。


 ――小袋を開け、中の白い粉を先程の水に投入する。付属のスプーンで慎重にかき混ぜ――


「おかしいと思わないのかよ」

 今良いとこだから。色が変わったのを確認して、次に『2ばん』と書かれた小袋を――


「何で公園で『ね○ねるねるね』してんだよ」


 碧斗あおとが言ってくるから、私も顔を上げた。碧斗は大人みたいに高い背を小さく折り曲げて私を覗き込んでいた。

「いや、ちょっと小腹が空いたから……」

 答えながらも手を止めず、粉を混ぜる。みるみるうちにふんわりと混ぜ合わされる。我ながら手際が良い。

 春休み真っ只中の公園には小学生や幼児連れのお母さん達なんかがいて、賑わっている。

 それでも遊具から一番遠い端っこのベンチの周りは私達以外誰もおらず、比較的静かだ。


「もっとあんじゃん普通に外で食べられるお菓子は。グミとかハイチュウとか」


 碧斗はため息をついた。彼は目つきが鋭いから、一見ちょっと怖そうな雰囲気をしてる。子供達が近くに寄ってこないのはそのせいもあるかもしれない。


「そんな子供っぽいもの嫌なの。ウチら中学生なんだよ。背伸びしたいお年頃ってやつ」


「『ね○ねるねるね』は子供っぽさの最高峰なんだよ」


「フン、碧斗のツッコミは想定内。見てみなさいコレを」


 私はここぞとばかりにパッケージの袋を碧斗に突きつけて見せた。


「バカな……『大人の』……だと……」


 碧斗がたじろいで、一歩後ろに退いた。春風が吹き抜け、開封済みの小袋が散りそうになるのを私は慌ててかき集める。

「あーもう」

 ボヤきながら碧斗は手を貸してくれた。何だかんだ言って優しいのだ。

 いや、何だかんだどころじゃない。碧斗はとても優しい。それも、格別私に対して。

 今だって、小袋に入った粉類が風で吹き上げられないように、その大きな身体でずっと風除けになってくれていたのを私は気づいている。

 一緒に塾に行くために、私のおやつタイムが終わるのを待ってくれているのも。

 塾が終わった後は、きっと家まで送ってくれる。

 いちいち口には出さないけど、いつからか、何となく、そんな感じで彼はずっと私の側にいてくれるのだ。

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