Evils on Plateau
落ちていく。永遠に、落ちていく。身体を覆う浮遊感のなか、何者でもない私は、
『決めた。きみの愛称は、さやうみだ。計画からしてぴったりだと思う』
『何でもいいですが、アーチェリーと演劇の練習をする日ではないのですか』
『大学の部活の思い出に執着するのはもうやめた。きみがここで穴を囲って海を作り直すなら、僕も定住地を広げるために頑張ることにしたよ。シェルターから出て、まずは小さな村からだけど』
『そうですか。であれば、本機もそちらに名を差し上げましょう。
『うわぁ』
『何ですかそのキラキラした目は』
『出会ったころにはいかにもアンドロイドって感じで、落花生モデルNo.1です、としか言わなかったのに。ロマンチックになったね。恋物語をやるなら、主役を任せられそう』
『黙りなさい。植物が人類に主役を譲ったことなど、地球で一度もありませんよ』
宇宙に誕生があったのなら、死は生より自然であると思う。
自然にのみ、ほかの自然を内包することが許される。
この星を頼む、死に、生き続ける友よ。
『僕は、海になるよ』
『いいえ、あなたは星になるのです』
向かい合って座り、伸びた病人の手を、彼女はそっと膝の上に押し戻す。これが彼らの最後の会話だった。丘を降り、心配そうな家族の元に村の英雄を送り届けた
全ての樋門を閉じています。
莢に収容した八〇〇名のバイタルに異常はありません。
自分が透明な
私の様子を確認した
私が
「――みんな、生きています。生きるための海ですから」
言葉に、枯れたはずの涙が溢れ、何度も嗚咽をこぼす。何分経っただろうか、
「罰は受けていただきますが――、まず、一つ言いたいことがあります」
ほかの莢は酸素補給を終えて一旦海のなかに没した。次の破滅はすでに起こっていた。しかし、
バチン。人工衛星の回折により、大柄の女性に莫大な太陽光が降り注ぐ。水・光合成曲線が描けないように、光合成との基質として分解される水はほとんど無視できる量でしかない。だが、超常兵器はルールを捻じ曲げる。鉄の
自然は自然を内包する。
「星を視なさい、死は昇るものよ。ルビスコ」
何もかもを白く染めて、
・・・・・・
同じ二年が経つのは早かった。
私とマリアというと、揃って
右腕が握力100キロかつ凄まじい反応速度を誇る義手に換装された私と彼女はほぼ互角であり、次第に罵詈雑言に満ちた喧嘩の数も減っていった。マリアはあげるから、ちゃんとルビスコって呼びなさい。ある日、意外にも言葉によって一応の決着はついた。
鮮明すぎた憧れと煮え立つ憎悪がそれなりに褪せて冷めたいま、やっと本当の意味で彼女と向き合えている気がする。一件について、本心から謝罪させることはできた。だからといって何を取り戻したわけではないが、これから何を失うこともないだろうというだけで十分といえた。いじわるな見方をしても、ムカつく! を軽く超える回数、彼女には助けてもらっている。
「わたしみたいな冴えてる美少女がずっと海のなか。この世の中おかしい、えいっ」
「鮭駄目だから。今月は鮭獲っちゃ駄目だって言ってるでしょ」
「サーモンでもいいよ」
「こんにゃく粉のやつで我慢しなさい」
「こんにゃくがサーモンになるわけない!」
「代替食品です。あんたが知らないわけないでしょ」
今回の事件を受け、
「ルビスコ、アームが操作が遅い。壁の補修に時間かけすぎたら残業になる」
「マリア、こっちに合わせなさい。世界には凡人の方が多いの」
「うーん、この世の中変えるしか」
「一生言ってる気かそれ。はい終わり、次行くよ」
青い眼に光を灯し、灰色の髪を揺らして、いまなお悪の私たちは往く。
今日も何処かで星になる彼女を思いながら、
魚群の踊る、命に満ちた海を。
悪童 Aiinegruth @Aiinegruth
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