30、芒種(その1)――嫌なことは道連れに
「正直なところ、俺はこの先に行きたくない」
「午後一でやる気のない発言をしないでくださいよ……」
「やる気なんてはじめからない」
にんまり、雀が訳知り顔に口角を上げた。
「つばきさんは、かなりモテるんだそうですね」
「標的にされやすい、が正しい。……誰に聞いたんだ」
「うれしくないんですか?」
「そういったことに興味がないんだ」
「あ、モテる男の言い方だ」
こほん、軽く咳払いして、玄鳥至はきっぱりと宣言した。
「そういうわけで、次の芒種さまの所は短時間滞在にする」
「だめですよ! お手伝いするんでしょ。きっと芒種さまがいちばん困ってるんだから」
「ならお前一人で残れ。俺は先に帰る」
「そりゃねえよ。なあ、雀?」
太い生腕が背後からぬっと現れ、流れるように玄鳥至の首を締め上げた。
「ぐう、
「よーう、順調?」
同僚の
「ずるいよなあ。小満さまの所で昼飯を食ったんだろ? っつうことは、麦ちゃんの手料理だったんだろ? ええ? ずるいよなあ」
見慣れた光景だ、雀はもう驚かないし助けようともしない。玄鳥至は渾身の肘打ちを背後へお見舞いしたが、鴻は「おっと」と難なく後ろへ飛んだ。
「何しに来たんだ。俺をブラックアウトさせるためってわけじゃないだろう」
「
「
「そのとおり。清明さまご自身が来なかったから、手ぬぐい噛んで嘆いていたぜ」
陽光は一望千里の大草原に目立つ三人を生き生きと狙い撃ちする。鴻は汗をしたたらせながら恨みがましく空を見上げた。
「
「そんな細やかなお方ではないだろう」
「まあな。……じゃ、オレはぶっ倒れる前に戻るとするかね」
体の向きを変えようとする鴻の腕を玄鳥至はがっしと掴んだ。汗でべたつき長々触れていたいものではないが、ここで逃がしてなるものか。
「すんなり行かせると思うか」
「このまま帰す気はねえ、と?」
「わかるだろう」
「モテる男はつらいねえ」
汗臭い反対側の腕が肩に回される直前、玄鳥至は男の顎に頭突きを食らわせてやった。
今度はちゃんと当たった。
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