これからもよろしくお願いしますね
オスカー様が画策した一連の事件の後、最終的な処分を国王陛下が下された。オスカー様は廃嫡され、国外に追放。レイス卿は死罪となり、彼の家はお取り潰しとなった。そして私とルナは国王とウィリアム様から二人の功績をたたえるパーティを開きたいと言われたため、現在私はそのパーティに主役として参加している。
「はあ、疲れる……」
会場から少し離れて外に出てきた私は愚痴をこぼす。こういう空気は疲れる。元々平民階級の私にとっては貴族の作法というものに付き合うのは慣れたとはいえ、精神的に消耗することなのだ。
「まあ、今の自分が置かれた状況が状況だし、ルナに迷惑をかけたくないから覚えたもののやっぱり疲れるなあ」
「アリア、ここに居たのですか」
「?」
こんなところに人は来ると思っていなかった私は驚いて声のしたほうを振り向く。そこにはルナが立っていた。普段は活発な印象を受ける彼女だが、今日は綺麗な青色のドレスを着ていて大人びた雰囲気を纏っている。
「ルナ、どうしてここに? 今回のパーティの主役なのに」
「それはアリア、あなたも同じでしょう。挨拶は済ませたからあなたに会おうと思って探していたらここまで来ただけですよ」
そのままルナは私の隣まで歩いてくる。ただでさえ美人なルナがドレスを着ているともう向かうところ敵無しだなーなどと私が考えていると、
「……アリア、私はあなたを辛い環境に追い詰めてはいないでしょうか?」
「どうしたの? いきなり」
「その、レイス卿やオスカーの言葉はあなたを傷つけたのではないかと思って」
ああ、そのことを気にしていたのか。
「今はあなたが生み出した魔導器が役に立つと分かったおかげであなたのことを改革者や天才と呼んで味方をする人もある程度増えました。ですが未だにオスカーやレイス卿のようにあなたのことを酷く嫌う人間もいます。こういう状況を作ったのはあの時あなたに魔導器の研究を続けて欲しいと頼んだ私が原因です。こんな状況はあなたを苦しめているのではないかと思って……」
「ルナ」
申し訳なさそうな顔をするルナの言葉を私は遮る。
「あなたの誘いを受けたのは今まで何度も言っているように私の意思だ。そりゃこの前みたいに酷いことを言われて辛くないってことはないけど。あなたやウィリアム様みたいに助けてくれる人がいるし、あなたが言ったみたいに今は味方も増えた。ルナは私を誘ったことを悩んでいるみたいだけどあの時、あなたから誘われなかったら私は今ここにいないよ」
そう、ルナがあの時私を庇ってくれなかったら私は保守的な考え方を持つ人達に殺されていただろう。だから私はルナに自分の時間をいくら使っても構わないのだ。
「だからそのことは気にしないでいいの。むしろ命の恩人なんだから。今の私はあなたが実現すると言った魔導器が普及してこの国に住む人達の生活が豊かになった姿を見てみたい。あなたの理想に付き合いたい。だからこんな湿っぽい話はなしにしよう」
「アリア……」
「そうだ、ここで二人で飲み直さない? 実は美味しそうだなと思ったお酒を一本持ってきたんだ」
私はそう言ってこっそり持ってきていたお酒の瓶をルナに見せる、王国でも有数のブランドのお酒だ。その瓶を見てルナは呆れたような表情をしたが、やがて笑い出した。
「そういうちゃっかりしたところは出会った時から本当に変わりませんね。いいですよ、静かに飲むというのもまた楽しいものです。ちょうど音楽の演奏も始まったところですし聴きながら楽しみましょう」
「おお、いいタイミングだね。じゃあ飲もうか。グラスは今手に持っているものを使う?」
「ええ、これに注いでください」
私は瓶を開けてルナのグラスにお酒を注ぐ。自分のグラスにもお酒を注いでルナとグラスを傾けた。親友と一緒に飲むお酒は一際美味しく感じてしまう。
「アリア」
「ん?」
「これからも私の理想に付き合ってくださいね」
さっきの私の言葉を聞いたおかげか、ルナはふっきれた様子で私にお願いしてきた。お酒も入っているせいか頬は赤くなっており、上目遣いでお願いをしてくる姿は妙に可愛く見える。
親友の可愛いお願いに私は力強く答えを返した。
「もちろん。あなたとあなたの理想に私はどこまでも付き合うよ」
王女と平民の王国改革期 司馬波 風太郎 @ousyo
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