オスカー
私とルナは拘束したレイス卿とアルゴスをウィリアム様のもとに連れていった。
「二人共、本当によくやってくれた。後はこちらでやるよ」
連れてこられたレイス卿はもはや覇気を失った状態でウィリアム様の部下に連れて行かれる時も無言のままだった。アルゴスは同じように抵抗せず観念はしたようだが連れて行かれる時も堂々とした態度をしていた。
「さて、後は私の部下が証言をとる。二人が手に入れたオスカーの署名が入った文書も彼を追い詰める決定的な証拠になる。ここまで綺麗に証拠がそろうとは思っていなかった」
ウィリアム様は今回の結果に満足されているようだ。
「はあ……今回は本当に大変なことに巻き込まれてしまった。まあ無事に解決できそうでなによりです」
「アリアの言葉に私も同意します。大きなことになる前に未然に防げてよかった」
「二人共、今日は本当によくやってくれた。ただ申し訳ないがもう一仕事付き合ってもらえるかな。準備が出来たらオスカーをすぐに捕らえに行くから」
*
私とルナ、それにウィリアム様は先程捕らえたレイス卿とオスカー様の印のある書状を持って彼の部屋に来ていた。
ウィリアム様は扉の前に立つと扉をノックもせず、部屋に入っていく。
「!? 誰だ! 部屋に許可なく入ってくる無礼者め!」
部屋の中には一人の青年が居た。ルナやウィリアム様と同じ金髪の持ち主で眼鏡をかけた少し痩せぎすの人物だ。この方がルナの兄弟であるオスカー様、そして今回ウィリアム様の暗殺を企てた張本人でもある。
「やあ、オスカー。今日は少し君と話したいと思ってね」
「ふん、兄様が僕に話か。そいつは明日雨でも降るな」
剣呑な様子で返答するオスカー様。ウィリアム様が嫌いなのを隠そうともしない。それだけで二人が仲が悪いことが伝わってくる。
「そう邪険に扱われると傷つくな。まあまずはこれを見てもらおうかな」
ウィリアム様が合図をすると部下の人達がレイス卿を連れてきた。
「!? レイス卿!! 貴様、なぜ兄上に捕まっている!?」
「なに簡単なことだ。ルナとアリア君が彼を捕まえたからだよ」
ウィリアム様はそう言って一つの書類をオスカー様に見せつける。
「そしてこの書類はレイス卿が所持していたものだ。これには君の署名がある」
「……!」
ウィリアム様が突きつけた証拠を見て怒りに顔を歪ませ、レイス卿を睨みつけるオスカー様。レイス卿はなにも言い返せずうなだれるばかりだ。
「これには傭兵達を自分の側近に取り立てることを約束すると書いてある。そして君の印がここに押してある」
一歩ウィリアム様が近づくとオスカー様もそれに併せて後ろへ後ずさる。
「そして傭兵達を取り立てるための条件は私の暗殺。これは君が私を亡き者にして大きな権力を手に入れようとしていたことに他ならない。王族を暗殺は大きな罪になるのはお前も知っているはずだ。なぜこんなことをした?」
ウィリアム様の冷静な指摘を聞いてオスカー様は笑い声を上げる。
「どうして? ははははははは! そういうところだよ、兄上! 昔からそうだ! いつも僕を下に見てそうやって哀れみの目を向ける、自分が上の立場だと信じて疑わない! そんなあんたが目障りだった!」
「それで今回のような行動を取ったのか?」
「ああ、そうだよ! こうでもしなければ僕は国の実権など握れなかっただろう。あなたは常に完璧だ。普通にやっていてはあなたに勝てない。いいでしょう、別に? 今までその才能で散々いい思いをしてきたんだから」
心の底からウィリアム様に対する恨みの籠もった意見を言うオスカー様。その言葉には優秀な兄と常に比較されてきた苦しみが滲み出ていた。
「残念だよ、オスカー」
しかしウィリアム様は向けられているオスカー様の感情に微塵も怯えず、彼を突き放す。
「そこまで私を追い落としたいと思っていたとは知らなかった。ただ君のやったことは絶対に許されないことだ。そういう行為をしたからには代償は払ってもらうよ」
「黙れ!」
叫ぶと同時にオスカー様の手に火が生み出される。生み出された火はウィリアム様に向かって飛んでいく。しかしその炎がウィリアム様に届くことはなかった。
「!?」
「よかった、ちゃんと機能した」
「アリア・ラースハイト……!」
その炎を止めたのは私だ。私の目の前には障壁のようなものが展開されている。亀の魔物の魔晶石から作った防御用の魔導器を試したがうまくいってよかった。
「目障りな平民め……! 兄上や姉上に取り入り、傍若無人に振る舞う悪魔め」
本当、えらい言われようだな、私。連続で罵声を浴びせられるのは流石に疲れる。
「貴様のような身の程を弁えない人間が王城にいるのが私は我慢ならない! その道具も貴様の発明した魔導器というものなのだろう。そんな魔物の魔晶石を使った汚らわしい道具を考えた人間を王城の中で自由にさせておくなど言語道断なのだ!」
私への罵倒を吐き出すオスカー様。その勢いは止まらない。
「本来なら貴様の発明が発覚した時点でお前は処刑されるはずだったのだ。それが兄上やルナのとりなしで今も生きているに過ぎないくせに堂々と……! お前のようなものが王宮に居るのさえ私は嫌なのだ。貴様だけでもここで……!」
「オスカー、私の親友に対しての無礼な発言はそこまでにしなさい」
冷ややかな声がオスカーの声を遮る。声はルナのものだ。
「あなたが彼女と彼女が生み出した魔導器をどう思おうと勝手です。ですが彼女の発明は今王国の民のために役立っています。大してオスカー、あなたはどうなのですか」
「なにい……!?」
ルナを凄い形相で睨むオスカー様。それでもルナは堂々と発言を続けた。
「ウィリアムお兄様や私への劣等感から私達のする提案に対しては拒否ばかり。その癖、自分が管轄している文化省への予算に関しては不備を指摘されるとそんなものはないと言い張る。王族であることを利用して会議で強引に自分の提案を通そうとしたこともありましたね。今のあなたは劣等感から自分の価値を示そうとして他人の足を引っ張るはた迷惑な人でしかないでしょう」
突き放すようなルナの発言にオスカー様の顔が引きつる。
「ルナァ……! 言わせておけばああああああああああああ、死ねえええええ!」
叫びと共に生み出された炎がルナに襲いかかる。しかしルナは動じない。大きく溜息をついた後、
「忘れましたか? あなたが神聖術の勝負で私に勝ったことは……0回ですよ」
ルナの言葉と同時に彼女の周りに雷が発生し、向かってきた炎を打ち消す。その雷はそのままオスカー様を襲った。
「ぐあああああああ!」
膝をついて屈したオスカー様にルナは歩み寄る。
「……せめてあなたが劣等感とうまく付き合ってなにか一つ優れた結果を残せるように努力すればまた違う結末を迎えられたものを。姉としてただただ残念ですよ」
ルナはオスカー様に近付き、そのまま気絶させてオスカー様の意識を奪った。気絶したオスカー様をウィリアム様の部下が捕らえる。
こうしてウィリアム様の暗殺未遂事件の幕は下りたのである。
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