第247話 勇者像

 森の中を散策していると、今しがた考えていた勇者フィンと遭遇する。

 隣にはネルの姿もあった。


「マーリンさん! やっぱりマーリンさんだ」


 フィンは瞳をキラキラと輝かせてこちらに近づいてきた。

 ぺこりと隣のネルも頭を下げて挨拶してくれる。


「こんにちは、マーリンさん。奇遇ですね。冒険者活動ですか?」

「こんにちは。二人も冒険者活動かな? 僕たちはギルドマスターに頼まれた仕事があってね」

「ギルドマスターに頼まれた仕事?」


 フィンが首を傾げる。ネルも怪訝な顔を浮かべていた。


「ギルドマスターに指名依頼をもらっているんですか? さすがマーリンさんですね」

「ほら、今は帝都周辺に死霊系モンスターが多く見られているだろ? 知ってる?」

「聞きました。フィンは聖属性魔法スキルが使えるので、私たちも死霊系モンスターの討伐に来たんですよ」

「さすが勇者様。大変だねぇ」

「いえいえ。俺たちは教会からの依頼ですから。ギルドマスターに直々に指名されるマーリンさんのほうが何倍も凄いですよ! 実力を認められてるってことですよね?」

「そう……なるのかな?」


 僕とギルドマスターのやり取りを見たら、二人は目玉が飛び出すんじゃないかな?


「あの、マーリン様」

「ん? ああ、ごめんごめん。二人に紹介するのを忘れていたね」


 くいくいっとローブの裾を引かれ、ちらりと横を見る。

 アウリエルだ。彼女は勇者たちを前に「この方たちが件の勇者様なんですか⁉」と顔を強張らせている。


 信者である彼女は、勇者に会えてびっくりしたのだろう。


 遅れて僕はアウリエルとソフィアに勇者を紹介する。


「彼は帝国の勇者フィン。隣にいる女性はそのお付きのネルだ」

「どうも、こんにちは。一応、勇者をやらせてもらっています」

「ネルです。マーリンさんとはたまたま街で会って、少しだけ仲良くなりました」

「俺は心の師匠と呼んでいます!」

「初耳だあ」


 なにそれ。

 僕はいつの間にフィンの師匠になったんだ。しかも無許可。

 あと心の師匠ってなんだろう。まあいいか。


「勇者様にすら尊敬されているとは……やはりマーリン様は神に選ばれた存在ですね」

「確かに!」

「全然確かにじゃないよ~、ソフィア。アウリエルの悪乗りに釣られないの」


 君たちは僕のことになると全肯定BOTみたいになるからね。

 人前ではさすがに恥ずかしいよ。


「ちなみに彼女たちは、マーリンさんの……」

「妻です」

「妻ぁ⁉」

「違います」

「違うんですか⁉」

「妻です」

「やっぱり妻ぁ⁉」

「彼女です」

「彼女⁉」


 アウリエルが余計なことを言う。ネルが驚き、僕はなんとか彼女に軌道修正を図った。


 やや不満そうなアウリエルは、小さく「いくじなし」と呟くが、実際に妻ではないので嘘はよくないと思います。


 ソフィアも、


「わ、私も彼女です……」


 と、おそるおそる手を上げて主張した。またしてもネルが眼を見開く。


「ふ、二人ともマーリンさんの彼女なんですね……」

「残念だったな、ネル。お前、負けた——ぐえっ」


 言葉の途中、勇者フィンはネルにぶん殴られて倒れた。


 勇者に暴力を振るってもいいのだろうか? 僕は彼らの事情を知ってるが、アウリエルとソフィアは知らない。

 倒れたフィンを見下ろして、アウリエルがあわあわと焦っている。


 その肩に手を置き、「大丈夫だよ」と言った。


「いてぇなネル! 何すんだよ!」

「あんたが馬鹿なこと言うから黙らせただけよ。いいからさっさとモンスターを倒しに行くわよ」

「ぐあっ! いだだだ! 自分で歩くから耳を引っ張るな!」

「すみません、マーリンさん。この馬鹿がうるさいので、迷惑をかけないように先に行きますね」

「無視するなあ!」


 フィンの悲痛な叫びが森の中に響く。しかし、ネルは気にした様子もなく笑顔を浮かべて森の奥を目指していった。


 その背中を眺めながら、


「が、頑張ってね……」


 と僕は手を振る。


 なかなかに尻に敷かれてるね、フィン。

 気持ちはなんとなく僕にも解った。


「あれが帝国の勇者様、ですか……印象と違いますね」

「もっとお堅い人かと思った?」

「はい」


 アウリエルは素直に頷く。

 僕はくすりと笑った。


「王国の勇者だってあんなんだったのに?」

「ボンクラのことですか? あれは偽物なのでカウントされません。ベアトリス様はどちらかというと勇者のイメージに近いほうかと」

「う、うーん……微妙だなあ」


 ベアトリスもベアトリスでかなり問題を抱えている。

 あの人をイメージどおりの勇者にあてはめるのもなんだか違う気がした。


 かと言って最初の偽物勇者が酷すぎるから、あながちアウリエルの言いたいことも解らなくもない。


「ま、勇者にもいろんなタイプがいるってことで」

「そうですね。わたくしの中で、もっとも勇者に近いのはマーリン様だけですし」

「僕は一般人だよ~」

「マーリン様のような一般人はいません」

「確かに」

「ソフィアさん?」


 君まで何を言ってるのかな?


 再び歩き出した僕たちは、そんな他愛ない会話を繰り広げながら森の奥へと向かった。


———————————

あとがき。


新作二つ、面白いよ!よかったら見てね!

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