第246話 二人と再会

 ノアールから話を聞いたあと、僕たちは冒険者ギルドを出て外に向かった。


 正門をくぐった途端、アウリエルがぴくりと反応を示す。


「この感覚……確かに何か悪しき存在がいますね」

「え、この距離から解るの?」

「はい。わたくしは敬虔な神の信者。教会に出入りしていたおかげでしょうね。何度も死霊系モンスターと遭遇するうちに、その気配を辿れるようになりました」

「それはまた凄い」


 一種の特技だな。


「もちろんハッキリと居場所が解るほど高性能なものではありませんが、気配くらいなら森に入る前から感じます」

「それでいうと強い気配はあるかい?」

「さすがに気配の強弱までは。ただ、嫌な予感はします。ギルドマスターの話と照らし合わせて、まず間違いなく上位の個体がいるでしょうね」

「大変な冒険になりそうだ」

「面倒になって帰りますか?」

「……残念ながら、撤退の文字はないね」

「それでこそマーリン様です!」

「あはは。持ち上げてくれても何もあげられないよ」

「キスくらいで我慢しましょう」

「しません。こんな所で」


 ムードも何もあったもんじゃない。

 何より、背後にはまだ正門を守る兵士や、帝都を出入りする人の姿もある。

 羞恥心がもたない。


「残念ですね。まあ、いまは仕事があるので我慢します。頑張って死霊系モンスターを倒しましょうね」

「わ、私は何をすればいいんでしょう……戦力にはなりませんよ?」


 ずっと不安そうな表情を浮かべていたソフィアが、ぽつりと零す。


「ソフィアはいてくれるだけで嬉しいよ」

「意味ないじゃないですか!」

「冗談冗談。いつもみたいに薬草を摘んでくれればいいかな」

「死霊系モンスターの討伐が目的では?」

「あくまでメインはね。でも、別に薬草採取をしちゃダメなんてノアールさんは言ってなかったし」

「いいんでしょうか」

「平気だよきっと。僕とアウリエルが上位の個体なんて消滅させちゃうから」

「マーリン様の仰るとおりですよ、ソフィアさん。ソフィアさんの薬草はいざという時に役立つ。お金にもなりますし、遠慮しないで沢山採りましょう!」


 グッと拳を握り締めるアウリエル。

 その様子を見て、ようやくソフィアはにこりと笑みを作った。頷く。


「はい、解りました! お二人がお仕事の間、私もまた頑張って薬草を採りますね」

「頼りにしてるよ、ソフィア」


 張り切る彼女たちを連れて、僕は森の中に入っていった。


 果たして、この森の奥にはどんなモンスターが生息しているのだろうか。




 ▼△▼




 しばらく森の中を三人で歩く。

 約束どおりソフィアが薬草採取をしながら奥へと進んでいく。


 アウリエル曰く、上位の個体であろうと死霊系モンスターたちはあまり街には近づいてこないらしい。

 そこは他のモンスターと同じだ。集団を恐れる傾向にある。


 だが、死霊系モンスターは生き続けるかぎりどんどん能力を伸ばしていく。

 放置していると、やがて強大なモンスターが街を滅ぼすこともあるとか。

 それが過去に起きたリッチの騒動だ。


「今回のモンスターはどれくらい強いかな。魔族くらい?」

「さすがに魔族と比べたら見劣りしますよ。……ええ、本当に自分で言うのもなんですが、我々の価値観も変わりましたね」

「もう何度も魔族に襲われてるからねぇ」


 一度や二度じゃない。合計三回は襲われている。


 ある意味慣れたと言えるし、ある意味慣れちゃいけない。

 彼らは人類がどう足掻いても勝てないような強敵だ。モンスターがその領域へ足を突っ込んだ場合、街が一つ滅ぶくらいじゃ済まないぞ。


「今回の件、ひょっとして魔族が関係している——とかありませんよね?」


 唐突にソフィアが言った。

 僕とアウリエルは互いに視線を交わして微妙な顔になる。


「う、うーん。個人的には否定したいところだけど、関わっていないと断言もできないような……」

「わたくしもマーリン様と同じ意見です。死霊系モンスターを操れるような魔族はいないとは思いますが、ゼロではない」

「仮に魔族が関わってたとしたら、かなり大事だね。やっぱり狙いは勇者かな?」

「可能性は高いでしょうね。前回はその理由でマーリン様が襲撃されたわけですし」

「だよねぇ」


 そういえば、と思い出す。

 あの二人の勇者は、ちょくちょく冒険者ギルドで依頼を請けて外に出ていると言っていた。

 そのうち顔を合わせる機会があるかもしれないな。


 変な事件に巻き込まれてなきゃいいけど。






「——あれ? マーリンさん?」


 さくさくと雑草を踏み締めながら歩いていると、ふいに聞き覚えのある声が耳に届く。


 ちらりと声のしたほうへ視線を向けると、そこには見知った男女の姿があった。

 いましがた考えていた——二人の勇者である。


「君たちは……フィンとネル」


 まさかの再会である。


———————————

あとがき。


書き直すことになった新作「俺の悪役転生は終わってる」。

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