第245話 デレデレやんけ!

 たったいま、能面みたいな表情を浮かべていた帝都の冒険者ギルドのギルドマスターに、おかしなことを言われた。


「と、友達?」


 思わず僕は首を傾げながら彼女の言葉をオウム返しする。


 ギルドマスターの女性は、顔を真っ赤にしたままこくこくと首を縦に振った。どうやら本気らしい。


 僕の隣で、ことの経緯を見守っていたアウリエルとソフィアも、予想外すぎる展開に目を見開いて固まっていた。


 どうしたものかと考えてから、僕は口を開く。


「えーと、なんで友達なんですか?」


「わ、わた、私……これまで一度も友達ができたことないの」


「一度も?」


 そんなことある?


「うん。みんな私を怖がって避ける。だったら人を多く助ければ喜ばれるかも、と思ったら一層怖がられちゃうし……あなたも見たでしょ? さっき、一階で私がどういう視線に晒されていたのかを」


「あ……」


 なるほど、と僕はようやく納得する。


 先ほど、死霊系モンスターたちに苦しめられていた冒険者たちは、抱いていた感情を恐怖に変えるほど彼女を恐れていた。


 ギルドマスターを務めるほどだ、きっとそれだけ実力者ってことなんだろう——と思ったが、彼女が周りから恐れられるのは実力だけじゃないっぽい。


 ギルドマスターは続ける。


「私の持つスキルは死者や死霊系モンスターに関係しているの」


「死霊系モンスターに関係したスキル?」


「いわゆる〝死霊術師〟って奴ね。倒したモンスターを操れたりできるの」


 エアリーが持つスキルと同じものか。


 しかし、彼女の場合はより強力なんだろうな。でなきゃ恐れられる理由にはならない。


「ただでさえ感情表現が下手で不愛想な私は、スキルまで偏見を持たれやすい。気づいたら完全に孤立していたわ」


 彼女の瞳が床に下がる。


 赤くなっていた顔もいつの間にか冷めきっている。


 その様子を見ると、僕は彼女を放っておけなかった。


 まるで雨の日に捨てられた子犬のよう。


 自分が彼女のためにできることを考え、すっと右手を差し出す。


 それを見たギルドマスターは、驚きで目を見開く。


「ッ」


「そういうことなら、遠慮なく友達にしてくれると嬉しいな。実は僕も、友人はそんなに多くないんだ」


 いつまでも顔を隠したままなのは失礼だ。


 友達相手くらいには、自分の素顔をしっかり知ってもらいたい。


 そう思ってフードを脱ぐ。彼女は僕の顔を見て、再び顔を真っ赤にした。


「あ、あなた……ディランの言ってたとおりだったのね」


「またディランさん?」


「あの筋肉ゴリラが言ってたのよ、マーリンという男は絶世のイケメンだから一目見れば忘れないって。本当だわ。ここまで顔が整った人を見るのは初めて」


「そ、そうですかね? それより、友達になってくれますか?」


「! ご、ごめんなさい。そっちが先よね!」


 彼女はおっかなびっくりとした表情で僕の手を見つめると、ゆっくりながらも自身の右手を伸ばした。


 やがて、僕の手に触れ——握手する。


「ありがとうございます。これで今日から僕とあなたは友人だ。ギルドマスターの初めてになれて嬉しいです」


「初めて⁉」


 びくりと隣に座っていたアウリエルが反応を示す。


 何に反応したのか解らないが、スルーして僕は続けた。


「それで……ギルドマスターのお名前を伺っても? いつまでもギルドマスターなんて堅苦しい呼び方もあれですし」


「た、確かに! 一理あるわ! ええ。私の名前はノアール。好きに呼んでちょうだい。私もマーリンってこのまま呼ぶから!」


「はい、解りました。これからよろしくお願いしますね、ノアールさん」


 なんだかずいぶんとおかしな流れになったものだ。


 死霊系モンスターを討伐しに出かけたら、冒険者ギルドでギルドマスターに出会い、彼女と友達になる。


 元の目的は跡形もなかった。


 でも、彼女——ノアールが飛び切りの笑顔を見せてくれた。


 それだけで僕は満足だ。


 お互いに手を離し、座り直す。


「えへ、えへへ。友達……友達ぃ」


 自分の席に戻ったノアールは、先ほど握手を交わした右手を見つめながら何やら笑っていた。


 あの様子を見たら、他の冒険者たちも彼女への印象を変えるんじゃないかな?


 それとも、一応はギルドマスターの威厳があるからダメだったりするのかな?


 だとしても、僕はいるしもう平気か。


「あの、ギルドマスター」


「なあに?」


 おぉ……超絶上機嫌。


 甘ったるい声が耳に入ってくる。


「僕たち、死霊系モンスターの討伐をしに行くので、何か情報があったら教えてください」


「うん! 任せて。マーリンにはなんでもお話してあげる~」


「あ、あはは……ありがとうございます」


 あなたさっきと別人なのでは⁉


 いくら友達ができて嬉しいからって、口調や態度まで変化するのか?


 歌うような気楽さで、彼女は最近大量発生したモンスターに関していろいろ教えてくれた。


 残念だったのは、特に目新しい情報がなかったことかな。






———————————

あとがき。


よかったら新作の

『最強の悪役が往く~実力至上主義の一族に転生した俺は、前世の知識を使って世界最強の剣士へと至る~』

を見てくれると嬉しいです☆

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