第40話
元々は人形趣味の社長が趣味の延長線でつくった芸能プロダクションらしいけれども、今や国民的人気グループ恒星ウェスタリスが所属しているそこそこ名の知れた会社である。
「それで今回呼んだのは、
と千歳さんはノートパソコンのキーボードを軽く叩きながら言う。今日もきっちり結んだポニーテールと、涼しげな顔がやり手感を醸し出している。
「……それは、いいんですけど」
「なんだ? なにか不満でもあるのか? 飲み物ならいつも言っているけどコーヒーしかないぞ?」
「それもいいんですけど、なんで
小会議室にいるのは、私と千歳さんだけでなく、悠月とソララの二人も一緒だ。小会議室というくらいであまり広くないので、四人もいるとなんだか圧迫感がある。
「わたしはもちろん、
「あたしはさっき三人が会議室入るとこみて楽しそうだったからー」
「よし、ソラ吉は出てっていいよ」
と私はドアを指さしたのだけれど、
「まあ、いいんじゃないか?
千歳さんが霧峰――とソララの名字を呼んで引き留める。千歳さんがそういうなら仕方ないか。
ちなみに悠月はブラックのコーヒーを、ソララはガムシロップたっぷりのココアを飲んで参加している。ココアにガムシロップっているの?
「それで、茜原。お前なんでもウェスタリスで一番狙うらしいじゃないか」
「まぁ……そうですね。どうせ目指すなら一番がいいかなって。それに女優転向の前に、それくらいして卒業したら箔がつくかなって」
「……お前成長したようで、けっこうまだアイドル甘く見てるだろ? ウェスタリスの一番をたかだか箔ってなぁ」
「そりゃ簡単なこととは思ってないですって! でもそれくらいの気持ちで頑張るつもりで……」
人気最下位が一番を目指すのだから、大変な道のりになるだろう。でも顔は世界一なわけだし、ウェスタリスの中で一番目指すくらいならなんとか努力次第で上手くいかないだろうか。
なるほど、これが甘く見ているってことだな。
「あんねー、つぐつぐ」
「え? つぐつぐって私……? ツッグーよりはいいけど」
「ウェスタリスのメンバーって、けっこうみんな人気争いでバチバチだよ? 特に上位陣なんて、握手会とかCDとかの売り上げ順位でめっちゃ争ってるんだよ? つぐつぐは今まで雲の下でぼんやりしてたから知らなかったともうけど」
「えええぇっ、そうなの!? 普通にみんな仲良いのかと思ってた……」
ソララの話に驚くが、たしかに人気商売である以上、トップ層の人達は争うこともあるのだろう。
「んーわたしはあんまり気にしたことなかったけど」
「ほ、ほら、雲の上の人がそう言ってるけど!?」
今まで人気一位のセンターアイドル悠月は、ぽやっとした表情を浮かべている。
「ツッキーは人気別格だったからねー。だからそれこそ、ツッキーがちゃんと活動している間はもうちょっと争いもマイルドだったんだだよ。ただ休止始めてから、次の一位は誰だってみんな本気出している感じで」
「へぇ……そうなんだ」
どうやら私は、想像以上に難しい目標をかかげてしまっていたらしい。
今から変更したほうがいいかな。最下位脱出したら卒業とか。
「ま、グループとしてはそういう競争があると成長するからな。プロデューサーとしては嬉しい限りだよ」
「えー千歳さん、やめましょうよ。私みんなと仲良くして、それでなんだかんだ私が一番になりたいです」
「お前みたいな私利私欲の塊みたいなやつがいるから、争いって起きるんだぞ?」
ちょっとした冗談なのに、千歳さんに割と本気であきれられてしまった。もしかして私って素でそういうこと言いそうなのかな。
「で、でも、まあ私にはスペシャルアドバイザーさんがいるわけだし……なんとか私のこと人気にしてくれるよね?」
ちらりと悠月を見ると、頼もしく任せて、と胸を叩いた。
たゆんたゆんと弾むのでちょっとだけイラッとしたけど、ここは『スペシャルアドバイザーさんにおんぶ抱っこ作戦』しかなさそうだ。
と、非常に他力本願な作戦名を脳内で立てていると、小声で耳にそっと悠月がささやく。
「継ちゃんのこと大好きな、ファン主席のわたしがいるから安心してね」
「ゆ、悠月っ!!」
「ん、どうした茜原?」
私が騒いで千歳さんが不思議がる。悠月は、他の人がいるのになんてことを言うんだ。
「それで、プロデューサーのあたしからも一応作戦を考えていてな」
「え、本当ですか。私の作戦よりいいやつなら従いますけど」
「ちなみに茜原の作戦は?」
「スペシャルアドバイザーさんにおんぶ抱っこ作戦です」
「却下だ」
二秒くらいで弾かれてしまう。別にいいんだけど、それで千歳さんの作戦ってのは?
「この前から、茜原が人気を伸ばしているのは本人の頑張りもあるけど、
私の横のスペシャルアドバイザーさんが目を輝かせていた。「おんぶも抱っこもするよっ! 継ちゃんのことなら、ひょいひょいだよっ!」とよくわからないことを言って意気込んでいる。
「ずばり、茜原と霧峰のコンビ売りだ! お前等二人の仲の良さを前面に出して、ファン達に売り出していくぞっ!!」
「なにそれっ、ちとせん面白そうな作戦じゃんっ!!」
名案を出したとばかりに胸をはる千歳さんに、乗り気なソララ。
打って変わって、さっきまでの目の輝きを一気に失って「ど、どういうこと? ……二人の仲の良さ? ……さっきの流れ、わたしじゃないの?」と呪怨のような声をだす悠月。
どうやら私のアイドル生活は、まだまだ苦労しそうである。
ただそれでも、以前よりはずっと楽しく、これからあることも期待に溢れていた。まずはセクシー
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底辺アイドルと主席ファン ~人気アイドルの活動休止理由がグループ最下位の私を推し活するためだった~ 最宮みはや @mihayasaimiya
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