【青春ショートショート】彼女の温もり

【彼女の温もり】 

蚊取り線香の香りがいつもより濃く感じた。

冷や汗と熱気だけがそこに残った。

 バカげてる。どうして……そんな。

屋上ではひゅうひゅうと風が吹き付け、汗を冷やしていく。

だけど僕は、屋上の端から恐恐下を向く。

さっきまで、僕の愛していた人が壁に張り付いたように見えた。

紅の血をバックにして。

 ばかだ……大ばかだ……。

涙が鼻に突き刺さったかのような痛さと眩暈が僕を襲った。

 思い出が僕を苦しめる。花火を山の上で見た事、告白は僕が一生けん命土下座して付き合ったこと、僕が彼女に認めてもらった時彼女が号泣してたこと、彼女の卵料理に殻が入ってて慌てた彼女の表情。いますぐ頭を割って死んでしまいたい。

そこから飛び降りて……飛び降りてしまおう。

 だけど僕はだめだった。ぽんこつだった。

それでも彼女の事を忘れたくなかった。

どうして、どうして彼女は飛び込んでしまったんだろう。

大切にしてたのに、何よりも誰よりも大切にしてたのに。

僕は強く自分の手を握りしめる。さっきまで彼女の手を握ってたぬくもりを思い出すかのよう。

どうして、どうして、僕はあんなに大切にしていることを証明しようとしただけなのに!

僕の部屋にある彼女への愛をっ!

ボボボボボボボボクノアイは誰がウケトメルノッ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ショートショートの空 新浜 星路 @konstantan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る