御恩返し

 【紅き牙の傭兵団】は、危地に陥っていた。昇る朝日の如しであった進軍も、首領不在などといった異変がないにもかかわらず、ここ十日以上に渡って、ある街に立ち止まっている。その原因は。


「飯、飯をくれ……」

「腹が、減った……」

「もう歩けねえよ……」


 空腹。それもただの空腹ではない。飢餓である。【紅き牙の傭兵団】を筆頭に、ダガンタ帝国の進軍は、あまりにも目覚ましいものであった。少し前まで西部域の小国だったはずのダガンタは、ここ三百日で領土を十倍以上にまで広げてしまった。だが、その進軍に補給が追い付いていない。輜重しちょうをさばける、官吏がいない。各地で補給線が伸び切り、進軍の停滞が発生していた。加えて――


「奪うべき食料を洗いざらい持ち去られ、井戸には毒。夜露を凌ぐための家も、打ち壊されている。これでは戦士たちも休まらん」

「いかに手っ取り早い方法とはいえ、ここまでやるとは。連合軍の本気ぶりが窺えますな」


 とある荒れ果てた街。冷たい風が吹き荒ぶ、野営の外。

【紅き牙の傭兵団】首領。蛇の如くうねる赤髪を兜に納め、その類稀なる巨躯を鎧の中に押し込めた男、【大傭兵】ラーカンツのガノン。

 彼の眼差しは黄金色にけぶり、自らの手勢が陥った苦境を苦々しく見ていた。そして、家宰じみた装束を身にまとう補佐官ダーシアもまた、渋面をその壮年の顔に浮かべている。さらに、その陰に護衛めいて寄り添う三人目も、また。


「いくら俺たちが精強でも、こうなったところを攻め込まれたらひとたまりもねえ。連合軍は決戦志向のようだが、作戦を切り替えられたら……」

「……ダーシア。決戦の想定地はいずこだったか」

「ここより北に、軍勢ならば五日は掛かるであろう平原が。他の街道もそちらに向けて集中しており、大軍の集結、作戦機動にはもってこいの場所となります」

「……連中の構想より早く、我々の足が止まった形か」


 青髪朱槍の男、遊撃隊長サザンの声。それを聞いて、ガノンはさらに会話を進めた。だが、いくら綿密に作戦を練ろうとも、肝心の部隊がこの有り様ではどうしようもない。とにもかくにも、補給が肝要であった。必要であった。


「恐らく連合軍は、作戦を切り替えることはないでしょう。各個撃破を成せるほどの戦力はなく、またそのための人材も少ない。我々をかの平原へ誘引し、そこで運否天賦の大戦おおいくさをする。いかに状況が変化しようと、それのみがあちらの勝ち筋かと思われます」

「だろうな。向こうだって急ごしらえの連合軍だ。調略云々はあるにせよ、根本的にはそれぞれの軍で陣を張る他ねえ。だったら、平原の方がやりやすいだろうよ」

「なるほど。しかしここに来てこのような策を練る者がいる。相応の策士が、連合軍に潜んでいるのやもしれんな」


 サザンとダーシアの意見を元に、ガノンは考えをまとめていく。と、いうよりもすでに結論は出ていた。待機。輜重しちょうを待つのもさることながら、なるべく決戦を引き伸ばしたくもあったからだ。連合軍の気勢を削ぎ、あわよくば作戦を変えさせる。それができれば、己にとって有利にことを運べるからだ。だが、その時。


「首領。首領に面会を申し出ている者がございます」


 一人の伝令が、流れを切った。無論、そこに口を挟む者などいない。その程度の狭量では、【紅き牙の傭兵団】において幹部は務められないのだ。


「ほう。面会とな?」


 しかしガノンは、疑問をあらわにした。首を傾げてさえもいる。率直に言えば、心当たりがないのだ。伝令の様子から見るに、敵軍が降伏の使者を送り付けてきたわけでもない様子。ことを訝しむには、状況が整いすぎていた。


「はっ。商人のようですが、大量の売品を抱えております」

「……会ってみるか」

「首領。吹っ掛けられる恐れが」

「構わん。この状況を動かせるのであれば、多少の出費は差し許す」

「ははっ!」


 こうしてガノンは、商人との面会を許諾した。のだが。


「おお! ガノンどの! 『また』お会いできて光栄ですぞ!」

「む?」


 出会い頭。会って早々に快哉を叫ぶ商人の第一声に、彼は疑問を抱いた。おそらく初対面であろうに、『また』とはこれいかに。


「おお、失敬! 少々取り乱しました。わたくしガリハン商人のレフザナと申します。ガノンどの。この顔に見覚えはござらんか?」


 レフザナと名乗った商人は、その髭面をガノンに突き付ける。サザンの制止すら、意に介さずにだ。ガノンはひとまず、その顔をまじまじと見る。

 一見悪人とさえ見えるような、彫りの深い、痩せた髭面。毛髪の一本さえもなく、つるりと禿げ上がった頭。見覚えが、ある気がした。否。確実に見た覚えがある。あれは、たしか。そうだ。一時は旅を、ともにした。


「……おまえは、まさか」

「おお! 思い出して頂けましたか!?」

「ああ、思い出した。ガリハンの商人組合から追われ、野垂れ死にし掛けていた、あの髭面だろう? 良くもまあ、成し遂げたものだ」


 ガノンは、いよいよすっかりとレフザナを思い出した。そう。あれは幾年か年。荒野を旅歩いていた頃のこと。彼は一人の商人を助けたのだ。あからさまに言えば、今の今まで失念していた。だが、思い出すことができれば記憶は鮮明だった。なにせ、一時は旅路をともにしたほどの男なのだから。


「ええ、ええ。その通りでございます。あのあと、我が身の潔白が証明されましてな。ですがその場では戻らず、年月を掛けて、財で殴ってやりました。連中、最後は平身低頭で謝罪と懇願をして来ましたよ。わたくしは、わたくしとの約束を果たしたのでございます。そのさまを、見せて差し上げたかった」


 その折のことを思い出しているのだろう。レフザナの顔には、狂喜が浮かんでいた。だがガノンは、渋面を浮かべてそれをたしなめた。


「レフザナどの。当時を思い出すのは結構。だが、今は」

「おお、おお! これは失敬! このたび、このわたくしめが御前おんまえに罷り越しましたのはですな、貴君の苦境を耳にしたがため。わたくしめが運んで来たこの荷駄を、そちらで引き受けてくださらぬか?」

「む?」

「なんですと?」


 満面の笑みを隠さないレフザナからの申し出は、あまりにも突拍子のないものだった。その唐突が過ぎる言葉に、ガノンはおろか、ダーシアですら脳に疑問符を浮かべる。一体全体この悪人面、なにを目的にこのような提案を持ち掛けてきたのか? ダーシアから見れば、裏があるとしか言いようがなかった。


「ああ、失礼。少々言葉が足りませなんだ。実はこのところ、戦乱のせいか荷駄があちこちで買い手を失くしましてですな。当方としては、無駄になるよりかは安値でも構いませぬので、どなたかに買い取って頂きたい次第」

「ふむ」


 すると訝しみに気付いたのだろう。レフザナが立て板に水の売り口上を開始した。まことしやかに伝えられるその事情には、どこにも瑕疵がないかのようには聞こえる。それだけの勢いが、この悪人面をした商人にはあった。


「で、少々困っておりましたところにですな。貴君、ガノンどのの危地が耳に入った次第。御恩返しも兼ねまして、貴君の傭兵団にですな。こたびの荷駄を引き取って頂こうかと」

「ほほう……」


 レフザナの言葉に真っ先に耳を傾けたのは、意外や意外、ダーシアであった。さもありなん。たとえ裏の目的があるにせよ、傭兵団の食料逼迫はもはや火急の問題である。レフザナからの提案は、まさに渡りに船だった。ここで四の五の言って乗らないのは、あまりにも愚策である。彼は首領の目を見、提案した。


「首領。多少値が張っても、ここは乗るべきです。我が部隊の危地は深刻、ここで食料がいかばかりか手に入れば、もう数日は軍を進められるやも」

「……レフザナよ、幾らだ」


 首領はわずかに黙考したあと、赤髭をしごいて髭面に問うた。すると髭面は、またも奇矯なことを言い出した。


「わたくしめがガノンどのに高値を吹っ掛けるなどとお思いで? ならばわたくしはここを去るまで。今回の我が荷駄、定価の八掛けで買い取っていただきましょう。悪貨一枚さえも負かりませぬが、そちらにとっては十分安価かと」

「むむっ!」

「さあどうです。買いますか、買いませぬか」


 髭面はガノンに面を突き合わせる。またしても、サザンの制止を振り切ってだ。およそここまでできる胆力の者は限られる中、なんたる気合。なんたる意地。げに商人とは、こういうものなのか。居合わせた者は皆、固唾を呑んだ。そして。


「御恩返しだと、言うのだな」

「ええ。その通りでございます」

「……わかった。そちらの言い値で、買わせてもらう。ダーシア。細かい交渉はそちらでやれ。おれは、隊の見分に行く」

「はっ」


 ガノンは、いともあっさりと首を縦に振った。そして家宰じみた男――実際のところは専属の補佐官である――に些事を託すと、軍勢の様子見へと足を踏み出した。その後ろ姿を見送った補佐官は。


「ささ。レフザナどの、こちらへどうぞ」


 髭を蓄えし悪人面を導き、幹部たちの詰める天幕へと向かうのだった。


 ***


 二刻後。ダーシアは帳面を手に、満面の笑みを浮かべていた。その空気は、幹部たちにも伝播していた。天幕全体の空気が、柔らかいものに変わっている。さもありなん。レフザナの差し出した商品の目録が、尽く自軍の欠けたるものを埋める品ばかりだったからである。


「驚きましたぞ。まさかここまで我が軍の需要に見合った品が揃うとは」

「そりゃ揃え……こほん。おお、それならまことに重畳でございます。こちらとしても、持ち来たった甲斐があった」


 一瞬何事か言いかけた様子のレフザナだったが、すぐに表情と言葉を商人のそれに戻す。幸いにして幹部どもには、その変化は見抜けなかった。しかし、【紅き牙の傭兵団】首領補佐官。かつてはいずこかの高貴に仕え、その家の一切を切り盛りしていた男、ダーシアの目からは逃れられなかった。


「……ところで」

「おお。なんとなされたかダーシアどの」

「レフザナどの、ご貴殿、どうやら我らが首領とやぶさかでもない関係のご様子。差し支えなければ、いかようなかかわりかご教授くださらぬか」

「……!」


 おお、見よ。今こそレフザナはその悪人じみた顔を大きく歪ませた。己の迂闊を呪っているのか? それとも、ダーシアの喝破に渋面を浮かべているのか? 余人には、その感情の機微はわかり難い。されど、レフザナは初めて、大きな動揺を見せた。幹部どもにも、再び緊張が走る。表情が強張る。せっかくの物資が、また消えてしまいかねない。そうなれば、軍勢の崩壊さえも。


「どうされた。話し難いことがあろうはずもない」

「無論。されど、我が恥を晒すようなものでしてな」

「なるほど。我が首領もなにやら言っておりましたな。ですが今回における破格の振る舞い、我らにおいては疑いとさえなり得るもの。ここは敢えて恥を明かし、それをもって、破格の信用を得るのがよろしいかと」

「むぅ……」


 注目を続ける幹部やダーシアをよそに、レフザナはしばしの黙考に入った。己の矜持と、ガノンの傭兵団。ひいては進展著しいタガンダ帝国からの信用。どちらが、より価値のあるものか。しかしながら、その回答はあまりにも明白で。


「いいでしょう。我が恥と、その恥の中で、いかようにしてガノンどのと出会ったか。ここに白日の元と致しましょう。無用な隠し立てを試みたこと、謝罪致す」


 彼は、潔く全体に向けて頭を下げた。禿げ上がったその頭皮が、光さえも帯びる。そしてダーシアに視線を据え、口を開いた。幹部たちもまた、商人に向けて視線を据える。それでもレフザナは、動じなかった。その口ぶりに、信用への覚悟が滲み出す。


「あれはもう、幾年前のことだったでしょうか。わたくしは……」


 ***


「……行き倒れか」


 いつ何時たりとも、変わらぬ姿を見せる荒野にて。ガノンはいと大きな体を丸め、その黄金色にけぶる瞳をもって、一人の人物を見ていた。つるりと禿げ上がった頭が天を向いており、その表情は見えない。手荷物の類なども、見当たらなかった。意識はあるのかと、確認を試みようとした。その瞬間。


「……文句が、あるのか」


 禿げ頭が、声を漏らした。どうやら、息と意識はあるようだ。低い声色からして、男のようでもある。ガノンの頭脳に、幾つかの情報が集まってきた。ガノンは、周囲を見る。やはり人間はいない。彼は、意を決して声を掛けた。ここで見捨てるのは、あまりにも寝覚めが悪い。そして、彼が信ずる神の教えに、反してしまう行為であった。


「文句はない。だが疑問はある」


 故にガノンは、禿頭とくとうに向けて手を差し伸べた。痩せ細った手が、彼の手を掴む。彼は丸太じみた腕の筋肉にくに力を入れ、やすやすと行き倒れを助け起こした。顔の彫りが深く、髭を蓄えた男性。率直に言えば、善人に見える面ではなかった。その頬は、痩せこけている。食事をろくに摂れていないのだろう。されどその目からは、未だに強い意志が垣間見えた。


「疑問か。いいだろう」


 選択を、誤ったか。わずかに邪念を抱いたガノンをよそに、行き倒れはふらふらと胡座をかいた。その様子からするに、立てなくなっていただけなのか。とにもかくにも、ガノンは問うた。


「何故に、倒れていた。鳥獣にでも、身を捧げる腹積もりだったか」

「生憎だったな。そのつもりはない。だが、腹が減っていた。四肢に力が入らなかった。今だって、どうにかこうにか動いている算段だ」


 悪人面の口上に、ガノンは得心した。どうやら、喫緊に死に至るほどではないらしい。そして、狂気の沙汰を発したわけでもないようだ。


「ふむ。頭に草木の生えた、聖人もどきではないようだな。ではなんとした」

「こんなナリでも、元はガリハン商人よ。だが組合から追われ、放逐された」

「ほう」


 ここでガノンは、珍しくもその目を大きくひん剥いた。ガリハンといえば、ヴァレチモア大陸でも屈指の商都である。その組合にいたともなれば、相応の実績を上げていたに相違ない。だが、それを追われたとは、一体。


「……これを食え。商人の肥えた舌には合わぬかもしれぬが、腹の足しにはなるだろう」


 ガノンは腰の袋を探り、わずかに残った干し肉を差し出した。およそ文明人、それも都市住まいの商人の舌には合い難いもの。だが、よほど腹が減っていたのだろう。禿頭の商人は、一息に干し肉をかっ喰らってしまった。そして、詰まらせたのか胸を叩き。


「み、水はある、かい?」

「荒野で水は貴重だが……いいだろう」


 ガノンが革袋を差し出すと、こちらもグビグビと飲んでいってしまった。やがて商人は息を吐き。


「……ふう。飢え死にから救われたと思ったら、喉に詰まらせて死ぬところだった。済まない。この恩義は、必ず返す」

「構わん。覚えておけるかすらわからんからな」

「ふむ。だが、これでも俺は商人なのでな。必ずや、だ」

「わかった。いずれ再会した折に」


 ガノンは商人に背を向け、立ち去ろうとした。飲み水がなくなった以上、一刻も早く、近場の街を探さねばならない。しかしそこに向け、掛かる声があった。


「おいおいおいおい。旦那さんよ。ちょいと出会いついでに、話を聞いちゃくれないかい。俺を助けちゃくれないかい」

「なんだ。用は済んだのではないのか」

「むしろ始まったばかりだろう。急場を凌げただけで、まだまだ危地には変わりないんだ。俺が不憫だと思うなら、アンタの行き先まで連れてってくれ」

「むぅ……」


 ガノンは唸った。いかに信条、教えにもとるとはいえ、図々しい拾い物と出会ってしまった。しかしながら、ここで置き去りにするのも寝覚めが悪い。戦神の教えに、もとる行為やもしれぬ。そう思い直すと、彼は商人に声を掛けた。死なれるよりは、幾分かマシだ。


「おれは近場の街を探す。おまえに、その手の知識はあるか。あるのならば、おれは報酬を払う」


 故にガノンは、正当な取引を持ち掛けた。タダで付き合わせるよりかは、その方がまだ心地良い。仮に知識がなくとも、他で有用になるやもしれぬ。そう思っての、行為だったが。


「おお、おお。それならまっこと十分だ。南に三刻……そう、まるっと逆向きだ。その向きで三刻も歩けば、それなりの街がある。俺が飲み干した、水も得られるだろう。どうだ、報酬はいくらだ?」

「ポメダ銀貨で十枚だな。感謝する」


 意外や意外。商人の反応は非常に好ましいものだった。大きくうなずいたガノンは、そのまま商人に向けて腰を落とした。そして小さく息を吐くと、努めていかめしく、毅然とした調子で口を開いた。


「足腰が弱っているのだろう? こたびの礼というわけではないが、報酬とは別に、おまえを街まで背負ってやる。その知恵を使い、おれを導け」


 ***


 きっかり三刻後。ガノンが驚嘆するほど正確に、彼らは目的の街へとたどり着いた。決して大都市というわけではないが、軽く見繕っても人口千、二千程度では済まぬくらいの街である。それなりに整った門を潜った瞬間から、荒野とは異なる活気に満ち溢れていた。


「まあ驚いた。ここまで正確に三刻とはな」

「俺も驚いてるよ。人一人背負って、俺が言った通りの刻限にたどり着くかね」

「たしかにな」


 赤髪や巨躯、半裸などに向けられている好奇の視線はともかくとして、それ以上の悪目立ちは避けたい。故にガノンは、すでに商人を背中から下ろしていた。わずかながらでも回復したのだろう。商人は足取りも軽く己の胸を叩き、口角を上げた。


「とはいえ、俺はこれでも行商で鳴らしたクチだ。距離と時限の計算に関しちゃ、ある程度の自信はある。なんやかんやで、元はと言えばガリハン商人だ。ガノンさんだって、その辺はわかるだろう?」

「前はわからなかったが、今なら多少は分かる。ガリハンの者は商家での修行、単独での行商を経て、一つの店を成す。その経験こそが、一度や二度の敗北で折れぬ心を作り出す……、だったか」


 どこかで耳にした話をガノンが繰り出すと、レフザナはそうだと言わんばかりに胸を張った。


「その通りだ。武器を振り回す武人さんにはわからんかもしれんが、商人にゃあ商人なりの意地があるってこったよ。そこをわかっていただかねえと、俺たちは成り立たねえんだ」

「ああ、肝に銘じておくとしよう。レフザナどの、感謝する」

「呼び捨てで構わんと言ってるだろうに……」


 この三刻あまりで互いの名からいきさつ、その他、互いを構成する要素を交換することができたのだろう。二人の会話は、傍目から見ればそれなりの朋友かと見える程度には弾んでいた。


「まあ……ともかく、だ。蛮人さんだろうがなんだろうが、俺にとっちゃ、商売ができりゃあなんでも構わねえんだ」

「それもまた、珍しい信条だと思うのだが」


 街を行く、いささか不似合いな二人。雑踏には様々な声がこだまする。そんな中で放たれたレフザナの言葉に、ガノンはいささかの疑問を抱いた。


「なんだい? ガノンさんは商人に不利益を被ったことがあるのかい?」

「あるな。数え切れぬほどにある。かなりの額を吹っ掛けられたこと。底に仕込みをされて量を誤魔化されたこと。こちらの無知を良いことに口八丁で丸め込まれたこと。想定した質より、物が悪かったこと。おおよそ考えられる程度には、それなりの目には遭って来た」

「なんだい、そりゃあ」


 ガノンが並べた言葉に、レフザナは憤慨の様子を見せる。どうやら、相当に気に障ったらしい。


「ガノンさんよ。まあ俺たちも商人だから、ちっとは儲けを見込んで色々する。吹っ掛けたりもする。だが、相手の身なりや立場で商売を区別することは、絶対にやっちゃいけねえんだ。俺はそれだけは、商いの師匠からきっちり引き継いだ。『商売相手に、貴賎なし』ってな。いわんやガリハン商人をや、だ。本物の商い人なら、絶対にやっちゃいけないことなんだ」


 レフザナの目には、これまでにない熱が篭っていた。その紅玉を思わせる目に、凄まじい輝きが生まれている。どうやら、彼の抱く信念に触れていたらしい。ガノンは紅い瞳を見つめ、さらに問うた。


「……これは予想に過ぎないが、まさかレフザナどのは、その辺りの機微でガリハンを」

「いけねえ。いけねえよ、ガノンさん」


 だが、商人は仕草で止める。ガノンに対して、自制を促す。その上で、商人はさらなる提案を持ち込んだ。


「俺にそいつを聞きたいのなら、宿を取らなくちゃいけねえ。まずは、水を買おう。それからちょっとした酒でも買って、宿でゆっくり話すんだ。金を預けてくれれば、損にならねえように交渉する。それでどうだい?」

「ふむ」


 ガノンはわずかに、考え込んだ。この悪人面、少々図々しいところはあるが、それでも信念を持った男である。自身の信条を持って、商いに徹する男である。ガリハンを追われたとは言うものの、その魂には、未だ一点の曇りもなさそうだ。ならば、報酬をもって。


「先と同じだ。ポメダ銀貨二十枚。それでおれの望みを、請け負ってくれぬか」

「なるほどね。ガノンさんはお固い。だが」


 レフザナの悪人面が、凄まじい笑みを見せた。これには百戦錬磨のガノンも、思わず仰け反ってしまう。そう反応してしまうほどの、迫力があった。しかし。


「はい、よろこんで」


 直後、レフザナは、見事な商人の微笑みを見せた。


 ***


 そうして彼らは、水や酒などを買い、そこそこの宿へと転がり込んだ。しかし、そこそこの宿とはいっても、蛮人一人では泊まるのも難しいような宿である。ガノンは己の経験からそう感じたが、レフザナは胸を張り、彼をその場へといざなった。


「……」


 そうして入った部屋を、ガノンは所在なさげに見回した。特に目立った調度品もない、薄壁に囲まれた一室である。大抵の旅人であれば、多少思い切れば泊まれる程度のものだ。そんな部屋に対して、ガノンが怪訝な目を向けていた。不審を感じたわけではない。ただ。


「どうされた、ガノンさん。まさか、宿に慣れてないとでも」


 半ばからかいの混じったレフザナの問いに、ガノンは複雑な表情を返した。黄金色の瞳を不機嫌にけぶらせることが多い彼にしては、珍しい表情の変化である。とはいえ、ガノンは素直に、己の恥を認めた。


「いやな。たしかに荒野における野営が多かったのは認める。だが、恥ずかしながら。このように真っ当な部屋をあてがわれたことが少ないのだ」

「ほう」


 レフザナの目が、にわかに熱を帯びた。ガノンはそれを見て、再び思う。宿の主という職業もまた、一端の商人ではある。旅人のよすがとなり、基地となる場所の管理人である。そんな人々が。


「正直なところ、文明人の宿とはそんなものだという考えもあった。故に、な」

「まあ、泊まり慣れんのは仕方ねえわな」


 レフザナは、旅慣れた様子で寝台ベッドに腰掛ける。これもまた、決して高いものではない。そこらの木で作られた、固く、粗末なものだ。しかし、ガノンにとっては。


「ああ。そして、文明の匂いに飲み込まれかねぬ、な」


 自嘲じみて、彼は笑った。ガノンにしては、珍しい表情である。蛮人――ラーカンツの民である彼にとっては、この程度のものでも文明の、己を染めていきかねないものの象徴になり得るのだった。そんな彼に、レフザナは。


「まあ、今宵ばかりはそんなに気を張るもんじゃない。今から俺が、もっと馬鹿な話をするんだ。どうか笑って聞いてくれ」


 同じく自嘲めいた表情を見せ、おどけたように酒を開けた。一口飲んで、ガノンに渡す。


「決して高くはないが、やっとくれ」

「ああ」


 ガノンもまた、口をつける。グイグイと飲み干すような真似はしない。彼にとって、酒は禁忌ではない。だが、戦いへの意識を下げる。ラーカンツの民は、宴席の場以外における、過度の飲酒を戒めていた。


「まあ……。さっき、ガノンさんが見立てた通りだよ」


 そんなガノンを見ながら、レフザナが口を開いた。その表情には、相変わらず自嘲が浮かんでいる。己が間違っていたと、思い込まんとするかのように。


「俺はガリハン商人として、なるべく他人を、商売相手を下に見ないようにやってきた。そのつもりだった。だが仲間……もう仲間じゃねえわな。ガリハンの商人組合は違った。連中は平気で商売相手に貴賎をつける。区別をやる。だからこそ。区別を嫌う俺が力を付けてきたことに、連中は恐怖でも感じていたんだろうな」

「……」


 そんなレフザナを、ガノンは黄金色にけぶる瞳でじっと見ていた。それを知ってか知らずか、レフザナはより饒舌となる。そうすることで、己の感情さえも押し流そうとするかのようにだ。


「ある日……ちょうど五日ほど前か。俺はな、組合に呼び出された。で、ノコノコ行ったらいきなり追放と来た。俺がなにをしたと言ったらな、身に覚えのない罪がゴロゴロと言い渡された。組合資金のちょろまかし、街に納める税金の誤魔化し、従業員への無体な労働要求……酷えもんだぜ。俺は全部突っぱねたが、連中は聞く耳一つさえ持たんかった。で、即日財産没収。その身一つで、ガリハンの外へ投げ捨てられたってわけよ」

「……」


 ガノンは、ひとまず沈思黙考した。レフザナの言葉を受け止め、その上で言葉を選ぶ。やがて、彼は一言のみ、言葉を絞り出した。


「証拠は、あったのか」

「出て来たな。まあどれもこれも、酷い捏造ばかりだったよ。だが、抗議は許されなかった。連中は数の力で俺を封殺し、放逐に追い込んだのさ」

「……」


 ガノンは、いよいよ口をあんぐりと空けてしまった。蛮人の地とされる故郷ラーカンツでも、このような追放劇は横行しているとは聞く。だが、ラーカンツの民を蛮族とみなすヴァレチモア大陸の地でも、こんな行為が罷り通るとは思ってもみなかった。文明の地に抱いていたある種の幻想。また一つ、それが崩壊していく。そんな音を、ガノンは耳にしていた。


「……すまねえ。一方的に喋っちまった。ガノンさ……いや、ガノンの旦那にはほんと恩に着るぜ。もう一度商売をやろうにも、元手がなけりゃあ始まらねえ。稼ぎをくれる旦那は、本気でありがてえのさ」

「それなら良かった。……が」


 ガノンの反応に、レフザナは不思議そうな目を見せる。しかしガノンは、構うことなく次の言葉を発した。


「少し聞かせてくれ。おまえは今後、どうするつもりなのだ?」

「…………」


 ガノンのあまりにも素朴な問いかけ。レフザナは、一瞬だけ。そう。本当に一瞬だけ呆気にとられた。否。考えていなかったわけではない。むしろ、考えない方が交易神にもとる行いであると言っても、過言ではないだろう。とはいえ、それを実際に言葉にしていただろうか? レフザナは、己の心中を改めて見つめた。しかし。


「やるよ。もちろんではあるが、諦めちゃあいない。そのための体力は、修行時代に身に付いておる。金を稼ぎ、商売の地盤を整え、必ずや再起する。そして、身の潔白を証明する」


 胡座をかいた巨躯を相手に、堂々と言い切る。レフザナの心には、すでにそれだけの信念が備わっていた。そもそもそれだけの覚悟がなければ、ガノン相手に商売など仕掛けはしない。ただただ恵みを享受し、別れていただろう。そしてまた、荒野に倒れていたに相違ない。それでは、ただの負け犬だ。そんなもので終わるつもりなど、最初から毛頭皆無だった。まっぴらごめんだった。


「……なるほど」


 蛮人――もとい、ラーカンツの男は、深くうなずいた。そして、考え込んだ。しかし男は、レフザナにとって想定もしていなかった言葉を繰り出して来た。


「おまえはそれで、足りるのか?」

「っ!?」


 レフザナは、心底驚いた。その言葉が、どこか己の内側を見透かしていた気がしたからだ。そう。それは己のうちに潜んでいる、くらい心。【闇】に近付いてしまう、忌避すべき心。ありていに言えば、復讐への想いだった。


「……」


 レフザナは、即答できなかった。赤髪巨躯の男は、その間に自らの杯を飲み干していた。己の手で次の酒を入れ、さらに飲まんとする。そうして再び、口を開いた。


「おれならば、足りぬ。戦神――戦いにまつわる神を奉ずる故かもしれぬが、潔白の証明程度では収まりが付かん。たばかりを仕組んだ者を八つ裂きにし、その屍を晒す。おれに力があるのならば、その力でもって蹂躙する。そのくらいはやらねば、満足できん」

「そのような昏い心は、【闇】に」

「おお、そうだった。文明人は多神教を重んじていたな」


 こくり。レフザナはうなずいた。そう。職業などなどによって重んじる神は違えども、己は多神教の信徒である。その教義において【闇】は忌避すべきものであり、それに近い心持ちもまた、穢らわしいものである。それはもはや、恐れであった。多神教が、文明人が身にまとう、恒常的な恐れであった。


「まあ、仕方のない話だ。文明人はおれたちよりも遥かに【闇】を恐れ、そして嫌う。だが、おれは思う。昏き心もまた、己なのだ。己がそいつを認めずして、誰が認めるのか。【闇】はたしかに、そこにある。それを認めぬのは、なによりも【闇】に餌を与える所業なのではないかとな」

「……」


 レフザナは、ガノンの瞳を真っ直ぐに見た。黄金色にけぶる瞳は、酔いというさなかにあっても、その輝きを失ってはいない。むしろより輝いて、レフザナを直視していた。レフザナは、小さく息を吐く。この期に及んで、この瞳に見つめられて、なお。己の心中を包み隠すことなどかなわなかった。そして、吐き捨てるように。


「足りませんね。ええ、足りませんとも。身の潔白? そんなもの、最初からそれだけが真実だ。その程度じゃ、俺は満足できねえ。連中を実力で上回り、積み上げた財産でもって、連中の横っ面を引っ叩く。頭を下げて乞い願うまで、組合にも戻ってやらん。そうでなけりゃあ、とても納得できねえや」

「だろうな」


 ガノンが、口角を上げた。凄みのある、笑みであった。レフザナは思う。この男は今に至るまで、いかなる状況を経てきたのだと。己とてけして、有象無象の商人ではない。海千山千とでも言うべきガリハン商人の中で、組合加入まで果たしたという自負がある。それを相手に、ここまで言ってのけるなど。だが。しかし。


「やってやるよ」


 レフザナは、決意、そして杯とともに疑問を飲み干した。現在において、ガノンの来た道など些事である。今必要なのは、己がガリハンに勝つための道筋だった。目の前に座る恩人に、いつか必ず報恩する。そのための道のりだった。


「まずは土台だ。旦那が俺を使ってくれたおかげで、銅貨一枚すら持たない状態からは脱出できた。だが、ハッキリ言えばまだ足りねえ」

「足りんか」

「ああ、足りねえよ。恩人には、まことに申し訳ねえけどな」


 口調とは裏腹に、レフザナの目は笑っていた。正直に言えば、彼の心中からはふつふつと、楽しみが込み上げていた。己の昏い内側を認めたことで、戦う気力が噴き出していた。

 彼は、ガノンに感謝していた。ガノンの言葉がなければ己は、ただただ惰性として、逆襲を行っていたであろう。身の潔白は証明するにせよ、そのまま有象無象の商人として生涯を終えていたかもしれない。ガリハンに勝とう、その横っ面を財産でもって引っ叩こうなどとは、露ほどにも思わなかったことだろう。


「そうか。ならば」

「ああ、今少しだけ、使ってくれるとありがてえ」

「わかった」


 そうして両者は、その手をガッチリと組み結んだ。レフザナはその右手に、ガリハンへの報復と、ガノンへの報恩をしっかと刻み込んでいた。必ず果たすという、誓いを込めて。


 ***


「まあ……そんなこんなで、わたくしどもはしばらくの間旅路をともにしました。道中、ダンジョンに潜ったり、旦那……もとい、ガノンどのを商売に付き合わせたり。まあ、色々とやりました。そうして少しばかり余裕が出てから、また別れたのです」

「なるほど……」


 話の始まりからは、とうに数刻が過ぎていた。最初にダーシアが仕立てた茶も、すっかり冷め切ってしまっている。彼は一瞬だけそのカップに口を付けると、顔をしかめてすぐに立ち上がった。


「長話になってしまいましたな」

「いや、申し訳ない。この話になると、つい興奮してしまいましてな」

「仕方のないことです。それがしも、ついつい聞き入ってしまいましたからな」


 ダーシアは、慣れた手つきで豆挽き茶を仕立てていく。やがて、二杯の茶が仕上がった。それを口にしながら、レフザナは小さく呟いた。


「しかし、ガノンどのも大きくなったものですな。もう、旦那とは呼べませんね」

「ええ……首領は大きく、立派になられました」


 その言葉に、ダーシアはうなずく。しかし、言葉を付け加えることも忘れなかった。彼こそが、ガノンの本質を知るが故に。


「ですが、その中身は変わっていません。今も昔も、戦いに生きておられる。変わることなく、戦神の愛し子なのです。この先どこかで、その血が騒ぐこともあるでしょう。レフザナどのには、感謝しなくてはなりません。その折に、首領を万全で送り出せるのですから」


 ダーシアは、商人に向けて深い一礼を捧げた。これにはレフザナも面食らった。商人というのは、往々にして格が低く見られがちである。金儲けを主体にしているのが浅ましく、賤業であるとみなされているのだ。

 しかし、その実態は経済である。物流である。いかに農民が作物を作ろうとも、彼らの手なくしては広く民には届かないのだ。このダーシアという男は、それも含めて理解している。レフザナは、この一礼のみでそのことを直感したのだった。


「……わたくしはただ、自分との誓いを果たしただけです」


 だからこそ、レフザナは謙遜した。己はあくまで、己の志に則っただけである。己との誓いを、果たしただけである。そうとでも言わないとこの、見上げた人物とは釣り合わない気がした。同時に、ガノンは良い配下を見つけたとも思った。賤業ともみなされることの多い己に、心からの礼を捧げられる。そんな人間は、決して多くはない。そのような人間を見出したガノン。そのガノンと、わずかながらでも旅路をともにできた。そんな己を、ますます誇りに思えた。


「さて。我々は進軍の準備を整えねばなりません」


 しばしの沈黙を経て、ダーシアが立ち上がった。そう。食料やらの手配は、すでに配下が終えている。だが、肝心の進軍については首領の決裁が必要だった。近くに控えているであろう決戦、そのための陣取りも必要になる。そしてそれらは。


「ええ。邪魔者は引き上げましょう。必ずや、勝利を。わたくしの、今後のためにも」

「ええ。我々は勝ちますとも。帝国の、そして我々の行く末のために」


 両者は視線を交わし、そして別れた。正確には、レフザナが天幕より引き上げた。

 正しきことを言うなれば、これよりのち、二人の道が交わることはなかった。なぜなら、こののちの【決戦】において、ガノンたちには非常に重い結末が待ち受けていたからだ。だが、二人は。より正確には誰もが、その結末を知ってはいない。故に。


「おお、ガノンどの」


 天幕の外、レフザナは再びガノンと出会った。ガノンは供を連れていたが、もはや関係なかった。彼はスタスタとガノンへ近付く。すると、先に動いたのはガノンだった。


「レフザナどの。こたびはまことに感謝しかない。改めて、礼を言うぞ」

「礼には及びませぬ。わたくしは、わたくしとの約定を果たしたのみでございます」

「なにを言うか。あの荷駄の中身、おれでもわかるぞ。こちらの実情を鑑み、揃えたのであろう」

「さすがに鋭い」


 レフザナは、恭しく一礼をした。とはいえども、そこにいやらしい類の思惑はない。ただただ、ガノンへの敬意が篭っていた。


「……。まあ、なんだ。お互い立場は変わってしまった。だが」

「ええ。今後とも恩義は忘れたくないものです」

「まったくだ」


 二人は軽く、笑い合う。そして、あの折と同じように、互いの手を固く結んだ。


「次は必ず、おれが恩に報いよう。願わくばその時、おれのようには」

「忘れませぬよ。ガノンどのは、永遠の恩人ですから」


 自嘲じみた笑みを見せるガノンに、レフザナは快活な笑いを見せた。

 二人が三度目の邂逅を果たす日は、まだ先のことであった。


 御恩返し・完

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