敗将と蛮人
いかに豪壮な軍勢とて、敗れてしまえば皆、暗澹たるものだ。故に将たるものは、勝利に対して手を尽くし、策を尽くさねばならぬ。いかなる軍学書にも書かれている、あまりにも基本的な事項だ。
しかしながら、私はそれを怠った。少々調子に乗った野盗どもの征伐であると、高を括ってしまった。その結末が、現状だ。辺境伯から預けられた七百の
「敵勢はいないか」
「どうやら、まけたようですぞ。遠巻きにされている可能性はありますが」
「そうか……」
辺りを見回した後、私は息を吐いた。戦……というのもおこがましい無惨な顛末から早数刻。私の疲労は、限界に達していた。このままでは、辺境伯の居城へと戻るのも難しい。いや、あの敵勢のことだ。その辺りの主要な経路は、おおよそ押さえていることだろう。つまるところ、詰みであった。私にできることは、一つだ。それを、告げる。
「ここで私は自決する。お前はなんとしても辺境伯の元へと帰れ。あの野盗どもの真実を、閣下にお伝えするのだ」
「そんな! 二人で戻らねば、辺境伯様はお怒りになられますぞ!」
疲れ切っていたはずの配下の形相が、必死のものに変わる。だが私は、首を横に振った。
「私は顔が割れている。連中は必死で捜すことだろう。だが、お前一人なら」
「閣下……」
私たちは視線を交わす。私が思う限り、彼は股肱の臣だ。長年に渡り、意志を交わしてきたはずだ。でなければ、傍働きになどしていない。言葉はなくとも、想いは伝わるはずだ。
「……わかりました」
はたして、すべては私の思った通りとなった。私の目を見た彼が、力なく首を縦に振る。あるいは、説得は無駄だと悟ったか。どちらでも良い。私は、私の責任を取らねばならないのだ。
「なれば。閣下のご最期を見届け、そののち」
「わかってくれたか」
私は心中で彼に詫びた。このような不甲斐ない主人の配下で、誠に済まない。だが彼こそは、私の最高の配下である。私の想いを汲み、形に変えてくれるのだから。そう信じ、私は荒野に座る。荒涼たる風が、頬を撫でた。思い残すことは、ない。
「閣下……!」
配下の、すすり泣く声。だが関係ない。彼が辺境伯の元へと帰るには、私こそが足手まといなのだ。私は長剣を抜き、首元に当てる。だが、その時。
「閣下、向こうに人影が!」
配下が、不意に叫んだ。すわ、追手か? 私は自決の手を止め、立ち上がる。遠方へと目を向ける。しかしながら、人影は一つだった。増える気配もない。
「追手かと思えば、旅人ではないか。早とちりも、ほどほどにせい」
「いえ、斥候という可能性もありますれば」
「むう……では、場所を変えるか」
私は考えた。考えようによっては、運命神の悪戯ともとれるこの偶然。神は、いかなる思し召しを授けんとしているのか? 死に損なった己を呪いつつ、場所を移そうとして――
「おまえたちは、なにをしている」
その行く先に、男が立っていた。
「なにを、とは」
配下が前に立ち、言い返す。彼の首は、明らかに上を向いていた。それもそのはず。男の身体は、ひどく大きかった。ただ身長が高いのではなく、その身体全体に隆々たる筋肉が備わっていた。上半身は裸だが、陽に良く灼け、赤銅色に染まっていた。髪は赤く、そして長い。蛇のようであった。顔は五角形をしており、その構成物はいやに大ぶりである。厳つい顔だ。背中に剣を括っているのだろう。肩から、酷く地味な
「そのままの意味だ。おれから見た限り、己の剣でもって、己を刺さんとしていた。そう見えた」
「……」
私は、答えなかった。見ず知らずの男、しかも風体から見るに南方蛮人と思しき者に、答える理由は皆無だった。配下も、私にならって無言を貫く。そうだ。それでいい。
「……相応の装備の割に馬もなく、そこかしこにかすり傷。敗軍の将か。責任を取って、自裁を試みたか」
しかし蛮人は動かなかった。それどころか、的確なまでに私の状況を見透かしてきた。こうなれば、無言ですら肯定へと変わってしまう。やむをえず、私は首を縦に振った。どうやら運命神は、どうあっても私に『生きよ』と言いたいらしい。半ば自棄糞に、私は口を開いた。
「私は、とある国に属する辺境伯の配下。されど匪賊野盗どもの征伐に失敗し、辺境伯の虎の子たる虎翼軍を失ってしまった。もはや辺境伯閣下に顔向けできぬ。私に対して情を抱くのなら、どうかこのまま死なせてくれ」
「それがしからもお願い致します。どうか戦士の情け。閣下のことは、どうかこのままに」
配下からも声が飛ぶ。彼は地面に膝を突き、頭を下げて乞うていた。本来であれば、情けなしと叱るところである。だが、今回ばかりは状況が違った。されど。
「妙、だな」
蛮族が首を傾げた。ああ、わかってしまうか。私は、私の迂闊を後悔した。そう。虎翼軍の敗戦は、只の敗戦ではない。一歩間違えれば辺境領の、否、荒野全体の治安にさえ影響しかねない敗戦なのだ。あの野盗は。あの匪賊どもは。
「角馬、
はたして、蛮人は正鵠を射た。そうだ。虎翼軍は。辺境伯の誇らしき虎翼軍は。げに悪しき、【闇】の支援を受けた連中に嬲り殺されたのだ。正規兵を上回る機動力。死をも恐れぬ軍勢。それらを率いる戦士の戦闘力は凄まじく、数の差など無に等しいものだった。五十かそこらと七百人がぶつかって、一刻も経たぬ内に捻り潰される。いかに我が軍が相手を見くびっていたとはいえ、起きてはならぬ事態だった。
「そうだ。おぬしはなぜ、それを知る」
私は問うた。問わねばならなかった。【闇】の存在は秘匿されている。否定されている。多神教において【闇】は禁忌であり、知ろうとすることですら死罪の対象であった。目前に立つ蛮人は、そのようなものを知っている。それは、すなわち。
「以前に、【闇】のかかわっていた連中とやり合ったことがある。首魁も含めて、すべて滅ぼしたが」
「ほう」
私は、思わず感嘆の声を漏らした。【闇】の配下を相手に戦果を上げるなど、並の戦士には成せぬ所業である。私の中に、希望が生まれる。しかし、それは。
「お願いがございます!」
芽生えかけた葛藤は直後、配下の声によってかき消された。彼は今一度、蛮人に向けて頭を下げていた。そして、乞い願った。文明人の矜持など、無いに等しい行いだった。だが私は、到底止める気にはなれなかった。彼がいなければ、私がそうしていたであろう。それほどまでに、希望は切実だったのだ。
「ここでお会いできたのもなにかの縁! 運命神の思し召しやもしれません! どうか、どうか。閣下にご助力を! 【闇】に呑まれし野盗どもを、成敗して下されい! 閣下に、閣下に未来をば! 閣下は、ここで死ぬようなお方ではございません!」
「……」
蛮人の、動きが止まる。恐らくは、想定外のことだったのだろう。私の目前で、蛮人が考え込む。少ししてから、蛮人がようやく口を開いた。
「わかった。だがおれは、漂泊の身だ。報酬がいる。それで良ければ、
***
おおよそ二刻後。我々の足は、一路野盗どものねぐらへと向かっていた。報酬の問題など、決めねばならぬことはいくらかあった。しかしそれらも、辺境伯の元へ帰り着かねば話にならない。万一野盗どもが宝物でも貯め込んでいれば、多少話は変わるかもしれないのだが。ともかく、蛮人は先送りを了承してくれた。野盗征伐を、優先事項としたのだ。
「蛮人……否、ラーカンツのガノンと言ったか」
「そうだ。文明人の連中は常におれたちを蛮人と一括りにする。だが、おれたちはラーカンツだ。覚えておけ」
口を開いた私に対し、蛮人は傲岸な態度を崩さない。配下が傍らで表情を歪めるのも、お構いなしだ。おそらくこれが、彼の常なのだろう。私は見当をつけ、期待しないことにした。そもそも南方蛮族に、我々が行う礼を求めること自体がお門違いなのだ。そう思えば、彼の態度も気に障らなかった。
「奴らのねぐらを目指すと先に言ったが、不在だったらどうする? 取り逃すことになりかねんぞ」
「懸念はもっともだ。だが、奴らは必ずねぐらに現れる。戻る場所、収奪した物を保管する場所が必要だからだ。だからねぐらを押さえる。そこに居るなら襲って倒し、居なければねぐらを奪って奴らを迎撃する。それだけだ」
「ふむ……」
野盗どもの
「……ですが閣下」
不安げな声が、私の耳を叩いた。配下のものだ。私に残された、たった一人の股肱の臣。そんな男が、懸念を口にする。
「それがしどもは、変装もなにもしておりません。いかな敗軍とはいえ、連中に見付かれば」
「見付かるなら潰す。連絡をさせない。仮に連絡を許したにしても、警戒してねぐらに集うのであれば、都合が良い。それだけだ」
またしても、ガノンから明快な返答が行われた。我々三人で、五十もの手勢に立ち向かえるのか? たしかにそれは問題だ。しかしその点については、先にガノンが答えを示していた。【闇】にかかわっていた集団を、首魁ごとすべて滅ぼしたという実績。その実績が真であれば、今回の輩も同じことであろう。私は、そう見繕っていた。
無論、希望的観測とのそしりは免れない。だがガノンの放つ覇気が、不思議と我々に信用をもたらしていた。出会ってまだ一刻から二刻ばかりだというのに、おかしな話である。
「ともかく、ねぐらはこの方向でいいのだな」
「うむ。逃げさまよった身ではあるが、ある程度の道のりは記憶している。間違いなくこの方角だ」
ガノンが、黄金色をした瞳をこちらに差し向ける。やはり不可思議なことではあるのだが、その瞳を見る度に、私は自身の決断を正しいと思えた。それだけの自信が、この蛮人からは漂っているのだ。なにはともあれ、我々は良き味方を手に入れた。先々のことはともかくとして、
「それにしても……」
そうして歩み続けていると、不意に配下が口を開いた。やたらとせわしなく首を振り、周囲を窺っている。そして首を傾げたまま、言葉を続けた。
「閣下、どうにも妙に静かです。奴らが暴れ回っている形跡はおろか、
「む?」
その発言に、私は思わず辺りを見回した。これは失策だ。常であれば斥候に周囲を見分させたりするのだが、今回はそれを怠ってしまっていた。いかに人員が少ないとはいえ、周囲に目を凝らすことは初歩中の初歩である。ましてや、違和感があるならなおさらだ。ともあれ、ぐるりと一周を視界に入れる。配下の言った通り、辺りには、なにも。
「……少し急ぐ」
その時、ガノンが動いた。彼は一言放つや否や、たちまちの内に大股で歩み出した。無論私はそれを追う。配下もそれにならった。置いて行かれぬように小走りになる私の耳を、一つの言葉が撫でていく。
「治安の問題だけではない気がする。手遅れにならんと良いが……」
どこか不吉なそれを、私は胸の奥へとしまい込んだ。
***
おおよそ半刻も走ると、ようやく連中のねぐらが見えて来た。古の廃城を安普請で拠点に造り変えたものであり、崩折れている箇所も目に付く。昨日、私はここを攻め落とさんとした。そして――
「閣下、震えてはなりません」
「!」
背中に声を浴びて、私は正気を取り戻す。危ない。思考を過去に持って行かれそうになっていた。あの敗北そのものは刻み付けねばならないが、その記憶に囚われてはいけない。武人たるもの、常に
「……どういうことだ」
疑念を浮かべつつも、我々は城門を押し通る。すでにほぼほぼ崩れており、我々が手を下す必要は皆無だった。
「警戒は密にしておけ」
ガノンが、前を見据えたままに言う。私はそれに応じ、配下に後方警戒を命じた。どういうことかは不明だが、不意討ちだけは食い止められる。そのまま急ごしらえの隊列を成しつつ、我々は廃城を踏破していき――
「!?」
「ようこそ。こちらにいらっしゃるということは、彼らへの復讐を目論んでおりましたかな?」
遂にたどり着いた大広間めいた場所で、目を疑うような光景と出くわすことになった。
床と土の入り混じった地面を彩る、おびただしい量の血液。
あちこちに折り重なって倒れ伏す、男どもの群れ。
そしてその中にあって、一人立っている男がいた。
細目にして、細身の男。貧相という言葉が、良く似合う出で立ちだった。
その癖に屈強な男三人を前にして、笑みを浮かべている。それも快活なものではない。嫌な微笑みだった。
背筋が泡立つような、感覚。目を凝らせば、瞳の奥が――
「何者だ」
ガノンの
「問われて名乗る馬鹿が、
笑みを浮かべたまま、男が返す。
「……ならば剣で聞くが早いか」
ガノンが、背から剣を抜く。やはり見立て通り、なんの変哲もない剣であった。しかし男は。
「おっと。わたくし、戦いは不得手でしてねえ。まあ、いいでしょう。復讐を望んでいたようですし、叶えてあげることと致しましょう」
言葉とは裏腹に、さらりとガノンの一撃をかわす。そして右手を掲げ、芝居がかった態度で指を弾いた。
「欲に塗れ、更に深く【闇】を望んだ結果。正気と生命を失った、人間『だったもの』ですけどね」
瞬間、周囲に複数の気配が立ち上った。目だけを動かせば、視界に入る。入る。目から光が失せ、皮膚が崩折れた男ども。そのくせこちらへの敵意は十分で、今にも襲い掛かって来そうな覇気を蓄えている。
「ちいっ!」
ガノンが跳ぶ。男が避ける。次の瞬間、奴はもう一度指を弾いた。ゆっくりとした足音が、しかし複数襲い来る。配下が私と、背中を合わせる気配がした。戦闘態勢。
「さぁて。冥界神への土産に教えましょう。アタシの名前はパラウス。人呼んで【闇の伝道師】。さようなら。二度と会うことは無いでしょう」
「待て!」
ガノンが三度剣を振る。しかし届かない。そのまま軽々と、パラウスとやらは逃げ去って行く。もはや追い掛ける余裕はない。奴の最後の声だけが、奇妙に耳に残った。
そして、凄惨なる撤退戦が始まった。冥界の内、重度の罪人が至るという【罰獄】を思わせるような有様だった。
「容赦は要らんぞ、斬り捨てろ」
パラウスの追撃を諦めたガノンが、賊どもを切り払いつつこちらへ向かう。よくよく見れば、その身体はほのかに輝いていた。その姿に、私は直感する。彼は、なんらかの神――伝え聞く南方蛮族の風習からすれば、戦神であろうか――の【使徒】なのだ。それならば、先に言っていた【闇】に対する戦績にも合点がいく。【闇】は人を愛するが故に力を与え、人ならざるものへと変えてしまう。それらに打ち勝つには、神の加護や紋章紋様、文言の力が不可欠なのだ。
「閣下、我々も」
「うむ」
背中から配下の声。我々は声を合わせ、『二人で一つ』の文言を唱えた。途端、両者の甲冑に刻まれた紋様が輝く。二人が背中合わせに立つ限りは力を失わぬ、【結束合力】の紋様だ。神の力としては、情愛神の系譜にあるらしい。虎翼軍では、汎用されていたものだった。皆、あの戦で失われたが。
「通じるかは、怪しいですな」
「通すまでよ」
紋様の効力かは不明だが、心底より気概が湧き起こる。そうだ。私は帰らねばならない。辺境伯の元へと戻り、此度の敗北と、【闇の伝道師】なる者の暗躍を告げねばならない。奴の目的は不明だが、今後も匪賊野盗の跳梁跋扈は起こり得る。それらが此度のように、【闇】で強化されていることさえもあり得る。策を、軍の強化を練らねばならない。故に、二人で生きて帰る必要があった。
「行くぞ!」
「はいっ!」
私たちは背中合わせを維持し、防戦に取り掛かる。四方八方より襲い掛かる匪賊を切り払い、隙あらば首を断ち、心の臓を貫いて動きを止める。そこに慈悲などない。【闇】に侵された者に慈悲を掛ければ、時を置かずして我々の死骸が荒野に残ることになる。そのような不得手を晒すほど、私の軍歴は短くなかった。
かくて、我々は決死の脱出行に挑むこととなった。ガノンが戦神の神威をもって賊どもを蹂躙し、私たちは背中を預け合ったまま防戦と迎撃に務めた。腕の一本やそこらでは容易く起き上がる連中は、非常に厄介だった。しかしそれでも、最後には切り抜けることに成功した。もはや首魁が誰だったかもわからぬ。だがそれについては、パラウスがあのようなことをしでかしたのが悪い。そう思うことで、私は強引にこの事実を飲み込んだ。
「ねぐらには火を掛けるぞ。【闇】が、屍体を利用しかねんからな」
すべてが終わる頃には、すでに夜闇が大地を覆っていた。ガノンは手際良く松明を準備していた。油の量は少ないが、火を強めるための薪ならば、廃材がそこら中にあった。心もとない油を撒き、いくつかの箇所に火を付ける。やがて炎が、廃城を包んだ。
「ガノンよ。此度は真に助かった。礼を言うぞ」
安全な場から炎を見やりつつ、私はガノンに礼を言った。
「構わん。おれは雇われだ。報酬を貰うまでは、相応に働く」
ガノンもまた、炎を見据えたままに言った。赤銅色の肌は炎に照らされ、より赤く染まっている。そんな蛮人の男を見ながら、私は不意に想像に駆られた。この男を、私の配下に据えられたならば。否、私でなくとも良い。辺境伯閣下の、幕下に置ければ。それは辺境伯の威光を増すことに繋がるはず。そんな夢のような想起が、私の口を動かした。
「ガノンよ」
「どうした」
「もしも、もしもだ。そなたに行く宛がないのであれば。辺境伯閣下の幕下に入らぬか。此度の報酬に合わせ、この私が相応の地位を辺境伯閣下に掛け合おう。どうだ?」
「断る」
しかし想起は、
「約定は約定通りに、だ。おまえに手持ちがない以上、おれはおまえの居所までは同行する。だがそれ以上はない。今回の件は、おまえの手柄にしろ。おれはあくまで、おまえを助けただけだ」
「……良かろう」
やはり、と私は思った。なんのことはない。最初から予想はついていた。この男は生粋の漂泊であり、何者の下にも付くことはない。そうして気の向くままに各所へ赴き、その土地土地でこういった戦いを引き起こすのだろう。
取り逃がした魚は大きいが、不思議と咎める気にはなれなかった。悲しさもない。むしろ、どこかスッキリしていた。騙すような真似に至らず、最初から打ち明けたからであろうか。
「そろそろ火も消える。行こうか」
私はガノンを促した。傍に控えていた配下が、私の気配を察して立ち上がる。今からの私の使命は、兎にも角にもこの男を我が在所まで連れて行くことだった。報酬を受けるまでは去らないだろうが、それでも十全な注意は必要だった。
我々の脱出に気づいたパラウスが、新たなる【闇】を送り込んで来る可能性もある。軍人たる者、ありとあらゆる可能性に気を配る必要があった。
「うむ、行こう」
ガノンが、私の後ろに立つ。配下の気配は、さらにその後ろ。逃さぬように取り計らっているのだろう。彼の献身には、頭が下がる。我が身はどうなろうとも、褒美は弾まねばなるまい。ただしそのための家路は、まだまだ遠いものだった。
敗将と蛮人・完
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