第22話
翌日……
今日はハワードと樹液の採取に向かう。
ハワードが一緒に樹液の採取へ行くのは3日に1度くらいの頻度かな。
樹液はとろみがあり、3センチくらい出ると周囲がうっすらと固くなる。
固くなるとそれ以上、樹液が出てこないので採取の目安にしている。
採取しすぎる心配がないので少しだけ樹に傷を増やさせてもらい……毎日、樹液をひとつは採取できるようにした。とてもありがたい存在だ。
まだとろっとしているところはスルーして、固くなったものを選ぶ。指で引っ張るとポロッと採取できるのだ。
採取した樹液はほんの少し水を加えると……とろっとろになるのだ。
最初は雨のときはどうなんだろうと心配したが……樹から採取しない限り、固いままの不思議食材だった。雨の日は、採取してすぐに器に蓋をして持ち帰るかたちだ。
他のポーション草や雑草も前世と比べると生育がとても早いと思う……
もしかしたら、おばばさまが語ってくれた……フェアルース精霊国は豊かな土地として近隣国で有名で花は咲き乱れ、緑が茂り、おいしい果実や野菜が1年中実り精霊が飛び回る。精霊に愛された、とても美しい場所っていう……その頃の名残があるのかもしれない。
「ハワード、待ってよー」
「……」
スタスタ先に行くハワードを追いかける……くっ、ちびっこの足の短さがっ……はぁっ、はぁっ……
ん?息を整えていたら胸のあたりがもやもやする気がした。
この辺に魔力が多いってことかな?
すぅー、はぁー……すぅー、はぁー……
深呼吸してみるともやもやが増した気がする。
何度も深呼吸を繰り返すと魔力が肺にはいり、そこから心臓の方へもやもやが移動したことまでわかった。
おぉー、なんか変な感じ。ここは魔力が濃いのかな?部屋よりももやもやがわかりやすい。
・
・
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その日の夜の自由時間……
「きょうね、樹液の樹のそばでしんこきゅうしたら、もやもやがふえた気がしたの……」
「どういうことかしら?」
「うーん。もしかしたら、あの樹のそばは魔力がおおいとかこいのかも?」
「もしかしたら、精霊様が好んでいた樹なのかもしれないねぇ……」
精霊が好んでいた樹だから、魔力も多く残っているってことかな?
「そっかー……じゃあ、精霊の樹ってよんだらよろこぶかも」
「そ、それはいいですね!」
「じゃあ、これは精霊の樹液か?」
「じゃあ、精霊の恵みはどうじゃ?」
「なんかしっくりこないなぁ……」
なんか、ピタっとはまる呼び名がありそうなんだけどなぁ……
「うーん……」
「とりあえず、樹液のままでいいんじゃないかい?」
「そ、そうですね」
「だな」
「うむ」
そして、樹液を食べたときにも魔力が回復している気がした。胸のあたりに急にもやもやが集まった気がする……食べ物にも魔力って宿ってるのっ?
「あれ?これももやもやしてない?」
「そう言われれば……」
「んん?こ、これがもやもやか!俺にはもわっ、もわっ!って感じるぞ!」
「む……儂は感じんのぉ……」
おばばさまとフランカお姉ちゃんも一瞬だけ感じることができたみたい。
「こんな感じなんだね」
「ふ、不思議なか、感覚です」
「羨ましいのぉ……」
「んー……でも、マイケルじいちゃんもポーションもどき飲んだらからだがぽかぽかするんだよね?」
「それはするかのぉ……」
もしかして体がぽかぽかしていたのは魔力が関係しているのかも……
ポーションもどきに混ぜることでなにか効果が増しているとか?
「じゃあ、かんじてるかも!」
「どういうことだい?」
「うーんと、ポーション草と樹液を混ぜるとマイケルじいちゃんにもかんじられるほどこうかがでてるとか?」
「そうかのぉ?」
「マイケルの魔力が回復したら感じやすくなるかもしれないね」
「そうならよいの……回復ってするんじゃろうか?」
「短くなるんだから長くもなるんじゃねぇの?」
「そ、そうですよ!」
「こんど、精霊の樹にいってみようよ!」
あそこならまた、感じるものがあるかもしれないし……
「そりゃあ、いいじゃねぇか!」
「そうじゃの……」
◇ ◇ ◇
朝の自由時間を使い、ボディーガードのグウェンさんを伴い、死にかけ1班や2班を訪ねて邪険にされたり歓迎されたりしつつ子どもたちと交流した……あ、1班の子も2班のひとが草を分けたり世話を焼いているみたいで、前より元気そうにみえた。よかった。
天気のよい日はマイケルじいちゃんと散歩兼採取がてら精霊の樹へこまめに通う日々。
たまにハワードも一緒に採取に行くんだけど、マイケルじいちゃんハワードと一緒に歩けて嬉しそう。
みんなも朝晩の瞑想が日課となっており……
すぅー、はぁー……すぅー、はぁー……部屋には深呼吸の音だけが聞こえていた。
「ほう……これが魔力か。なんだか不思議な感覚じゃの」
「わかったの?」
「感じたのかいっ?」
「うむ。胸のあたりがぐるぐるするわい」
マイケルじいちゃんはぐるぐるに感じたのか……毎日頑張った甲斐があったんだ……よかった。
「ていうか、マイケルじいちゃん!」
「なんじゃ」
「うでの模様のびてない?」
「なんじゃと?」
「おぉ!じいさんの模様のびてるぞ!」
「た、たしかに!」
「魔力回復したってことかい?」
「そうかもしれんの!」
そう驚くみんなも体調がよくなったり、若返ってきた気がする。
しっかり観察すると……
マイケルじいちゃんの腕の模様は5センチくらいのびているし、ばばさまは生えてきた根元の毛が白髪ではなく金髪だった!濁っていた瞳もグレーになっているし!
しかも、若返ったような気すらする。おばばさま、元は金髪にグレーの瞳だったらしい……
「おばばさまも金髪が生えてるよ」
「なんだって?」
「確かに金髪ね」
「それにめのにごりがなくなったね」
「最近、目がよく見えると思ったら……」
「ばば様が若返り、儂は腕の模様がのびた……みな、変わりはないか?」
「うーん……腕のもようはのびてないよ?」
「俺はなんも感じねぇな!」
「私も変化ないわ。強いて言うなら、体調がよくなったことかしら?」
「わ、私もとくには……あ!メリッサちゃん!か、髪の毛の色が変わってるよ」
「え?」
な、なんだってー!急いで自分の髪の毛を確認……ん?変わってないけど?
「あー、それは気付いてると思ってたわ。メリッサ、おばば様みてぇに根元が変わってんだよ」
「うむ。赤い髪が生えてきておるの」
どうやら、髪の根本が赤くなり、赤からオレンジのグラデーションになっているらしい。お洒落かしら……プリンの色違いみたいになってない?
「そういや、瞳の色も濃くなっていないかしら?」
「え?」
「そ、そういえば……グ、グウェンさんも濃くなってます!」
「そうか!」
どうやら、瞳の色も濃くなっているようだ。
そう思うと心なしかみんなの髪の毛の色も濃くなってきたような……魔力が関係してるのかな?
「ん?ねぇ、マチルダさん」
「なあに?そんな小さな声で」
ちょっと、大声では確認しづらいのです。
「……フランカお姉ちゃんのやけどのあとうすくなってない?」
その言葉でマチルダさんはじっとフランカお姉ちゃんを見つめだした……
「たしかに!薄くなっているように見えるわ!」
「言ってもだいじょうぶかな?」
「ええ……多分。おばばさまに聞いてみましょう」
おばばさまにもたずねてみると確かに薄くなっているように見えるって……ただ、おばばさまは目が悪かったので自信はないらしい。
フランカお姉ちゃん自体はそこまで火傷のあとを気にしていないみたいだけど、デリケートな問題なので少し躊躇した。
「平気さ。あのこなら……メリッサ、聞いてみな」
「で、でも……」
「はぁ……フランカ!メリッサが言いたいことがあるってさ」
ああ、おばばさまったら……
「な、なにかな?」
「うん。あのね……」
「ほら、早くいいな!」
「ん?なんだ、なんだ?」
よし!
「あのね……フランカお姉ちゃんのやけどのあとがうすくなってるようにみえるよ」
「え……」
フランカお姉ちゃんは黙り込んでしまった。やっぱり言わないほうがよかったかな。
「そりゃ、めでてぇな!俺の傷跡も薄くなってるか?」
「……ん?」
近いよ!そんな近いと見えないから!
「グ、グウェンさんはま、まだしっかりありますね!わ、私は薄くなったそうです!う、羨ましいですか?」
「そうだなぁ」
あれ?フランカお姉ちゃん笑ってるね?
「ふふっ……し、心配させてご、ごめんね?す、少し驚いただけ……や、火傷の痕がう、薄くなったらそのうちわ、私の魔力量もわかるかもってお、思ったらわくわくしちゃったの」
えぇ……1番に考えたのそこなの?
「だから、心配することないって言っただろう」
「うん。よかったー」
みんなはどこが変わったとか、変わってないとか……あーだ、こーだと楽しそうだ。
余談だが……魔力のありかがわかったので、イメージ次第でなんでもできるのかと思えば基礎がないとなにもできないことが発覚した。
イメージ次第でなんでもできるなんて所詮は小説やアニメの中の話にすぎなかったのだ……イメージ次第でなんでもできるようになるのは応用編だと信じ、まずは基礎から頑張っていかなくては。
とにかくまずは手探りで訓練だ。自由自在に魔力を移動できるようにならないと。
足にはさんでもお尻に敷いても、頭にのせても……どこででも魔石が作れるようになれば合格かな。
みんなの顔色もよくなり、少しずつ生活環境がマシになってきた……新たな知り合いや食べ物も増えほんのすこしわたしの手の届く範囲が広がったと思う。
もちろん、まだまだ先は長いけど……少なくともこの部屋のみんなの命の危険は遠くに押しやることができたと思う。
これからも地道に頑張っていこう。
目覚めたら7歳児でしたが過酷な境遇なので改善したいと思います 瑞多美音 @mizuta_mion
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