神様じごく

物部がたり

神様じごく

 れいは生前、とても悪いことをして地獄に堕とされた。

 地獄は評判通り地獄だった。

 火であぶられ、獄卒たちに終わることない責苦を与えられる。

 地獄なんて来るものではない、と思っていたら面白い出会いもあった。

 地獄で仏ならぬ、地獄に神様に会った。

「あの……もしかしてあなたは神様ではありませんか?」

「いかにも、余は神様だが」

「やっぱりそうだ。出会えて幸栄です。生前あなたのファンでした」

「おお、そうか、ありがとう」


「ところで、つかぬことをお聞きしますが……どうして神様が地獄にいるんですか? あ、もちろん答えたくなければ無理にとは言いませんが」

「いや、問題ない。理由は簡単さ、神様を降格させられたのだよ。現世の者たちは近頃、余を信じておらんようだ。現世の者は勝手に余が死んだと申しておるし、愚かしいすべての罪を余に着せ糾弾し、地獄に堕としてしまったのだ」

「そうでしたか……。『宗教規制法』が制定されてから宗教取り締まりが激化していますもんね……。神様を信仰しようものなら、袋叩きです」

「うむ、酷いことになったものだ」


 神様は大きなため息をついた。その姿は年老いた老人のそれであった。

「そう、気を落とさないでください。まだ、現世にも神様をお慕いしている隠れ信者もいるはずですよ」

「そうだな。地獄にも君のような者がおるのだし――ところで君のような者が何故地獄に堕とされたのだ。余が神であったなら、君を地獄に堕としたりはせぞ」

「私が地獄に堕とされた理由ですか? 布教活動を行い、神様の教えを説いたために宗教狩りに捕まり処刑されたのです」


「そうか……本当に済まなかった。余のせいか……」

「ご自分を責めないでください。私はいま幸せですよ。だって、地獄であなたに逢えたのだから。地獄に堕とされなければ、あなたに逢うことはできなかった。生きているときあなたにどれだけ呼びかけ、祈り続けてもあなたは沈黙していました。でも、これからはあなたに会えますね」

 神がいるなら地獄も悪くない――。

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