レースハイライト

「さて、最終レースは翌日へと持ち越し。残すは各校メカニックの働きのみ。ここで本日のハイライトをお送りしたいと思います! まずはやはりこれでしょう! 第二レースの香月かがち選手です!」


「いやぁ~……。これは……」


「この映像をご覧になられている皆様は、香月選手の動きが飛び抜けていることは理解出来ると思います。ですので牛久うしくさん、ここは香月選手の機体について、伺ってもよろしいでしょうか?」


「……あっ、あぁっ! これは失礼。思わず見とれてしまうほどの光景でした。香月選手の機体についてですね?」


「はい、よろしくお願いします」


「まず、第一レースでも目にした通り、彼女の機体の特徴は、移動一つ取っても上下運動が必要な点でしょう」


「そうですね。第一レースではずいぶんと窮屈そうに操縦をしている印象でしたが、二レース目に入った途端、街路樹を足場に急加速を見せていました」


「えぇ。その動きを見た時点で、彼女の機体は三レース目のために用意された機体だと確信が持てました」


「なんと! それはなぜでしょうか?」


「彼女の動きに注目してください。配水池のコンクリ壁を左足で蹴り跳んだ後、今度は右に大きく移動し、アパートのベランダを右足で蹴り跳びました。このコースだけで考えるなら、この動きは非効率なんですよ」


「というと?」


「街道コースのゴールは、大きく迂回する車道の終わり。つまり、先ほど香月選手が跳んだ配水池の左側なんです。なのに香月選手は右へと跳びました。」


「確かに! 上位を狙うのであれば、この動きは無駄にしかなりません! では、この動きは彼女の機体特性と考えてよいのでしょうか?」


「はい、この動きはわざと行っているわけではなく、機体性能的に、この動きに限定されてしまっているのだと考えて問題無いと思います」


「なるほど。 ……しかし、牛久さんの話によれば、香月選手の機体は三レース目のために設計された環境特化型機体なのですよね? あの動きが、三レース目でどのような有利が取れるのでしょう?」


「はい。彼女の動きは全て、ナナメ移動で構成されています。これを山道で行うとどうなるか。着地の衝撃は常に横になり、不安定な足場でバランスを崩した際も、咄嗟に逆足を出しやすくなる」


「なるほど! さらにあのジャンプ力、そもそも不安定な足場を利用する回数も減らせそうです!」


「確かにそれもありますね。話が二転三転してしまいましたが、以上のことから香月選手の機体は、不安定な傾斜コースに特化した機体だということです」


「牛久さん、ありがとうございます! それと、非常に申し訳ないのですが、もう一つだけ伺ってもよろしいでしょうか?」


「もちろんです」


「このスピードであれば、彼女が現在の一位を追い抜くことは疑いようもありません。ですが、二レース目の開始時、香月選手は車道を選択していました。この部分を最初から住宅地に設定していれば、もっと余裕を持ってゴール出来たのではないでしょうか?」


「そうですね。まぁその部分に関しては、一レース目の彼女の動きで説明が付きます」


「というと?」


「一レース目の香月選手は、トラックコースで難儀していました。自分も理由を考えてみたのですが、おそらく彼女の機体は、傾斜が少なければ少ないほど、前ではなく上に跳ばなければ転倒してしまうのでしょう」


「なんと! しかし、それでしたらなおさら、最初から住宅地を選択するべきでは?」


「ここで彼女の機体のもう一つの特徴が響いてきます。彼女は左に跳んだら次は右に、右に跳んだら次は左に跳ばないといけません」


「はい。先ほども、わざわざ遠回りをしていると話されてしましたね」


「そうです。傾斜と左右のステップ。香月選手のリンドブルムが進むためには、この二要素が必須なんです。その上で住宅地は非常に道が入り組んでいます。下手をすれば、傾斜もステップも出来ない場所に嵌ってしまうほどに」


「ということは!」


「えぇ。彼女が途中から住宅地を選択した理由。それは、サポーターによるルート構築が終わったためです。きっとレース開始直後から、彼女が走れるコースをサポーターが、ずっと構築してくれていたのでしょう」


「平地に足が付いてはいけない。交互にステップが踏めなければいけない。この二要素を守ったままルート構築を終わらせるなんて、信じられませんね! 本当に今年から始動したチームなんでしょうか!?」


「全くです。今年の夏季、冬季大会もちろん。この三年間でどれだけ成長してくれるのか、見守りたいチームになりました」


「それでは続いて、雪屋に大量リードをもたらした、第一レースの映像をお送りしたいと思います」

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