第一レーススタート
各々のチームがミーティングと練習を挟み、開会式も終わりを告げた。
そうなれば後は力と力のぶつかり合いを残すのみだ。西之島会場ではすでにコースの設営も終わり、16チーム、合計47機のリンドブルムが、スタートは今か今かと待ち望んでいた。
「さぁ、今年も春一番の全国大会、ブロッサムカップの時間がやってまいりました。全てのチーム、全ての学校が新体制で挑むその初戦。華麗なスタートダッシュを決めるのは一体どこのチームなのか!」
会場に響き渡るのは実況のアナウンス。学生の意欲向上と現場経験を目的として、高校スポーツ連盟と全国の芸能学校が提携し、十数年前から始まったシステムだ。
「西之島会場の実況を務めさせていただきますのは、北海芸術学院二年、
「えぇ。よろしくお願いします」
「さて、それでは各校の紹介はレース中に行いますとして…… たった今スタートを告げるブザーが鳴り響きました! 先頭集団に躍り出たのは……
※
「あ、
「おう、このままぶっちぎる」
頭の内部から響き渡るような
ダイブ型ロボットに搭載されたスピーカー特有の現象だ。
(高鍋…… 影センが警戒しろって言っていたチームか…… 確かに動きは悪くねぇ)
現在、第一コースであるトラックの先頭を走っているのは直美だ。
アイアンボクシング時代の機体を改修して作り上げたリンドブルム、テンカウントの巨体を活かして、高鍋電子工業の二機を上手く牽制していると言える。
トラックコースはその名の通り、学校の校庭や競技場等で使用されるトラックを周回するコースだ。大型のリンドブルムが先頭に立ってしまうと、それを抜かすためには大きく外に膨らまなければいけなくなる。
リンドブルムレースにおけるスタミナとは、機体の損耗率だ。無茶な動きをすればするほど、遠回りをすればするほど、機体は損耗し、ある段階で致命的な損傷を起こす。
勝つためにはリスクをかける必要がある。しかしあまりにリスクをかけるようでは、機体が損傷し、リタイアとなってしまう。
高鍋電子工業のリンドブルム達は、抜く姿勢を見せるなどのちょっかいこそ出してくるが、勝負をかけてくる様子が無い。まずはこの順位でレースを見守るつもりなのだろう。
(それならそれで構わねぇ。このまま先頭でゴールを通過してやる! って、言いたい所だが……)
「あ、闇堂先輩、もうすぐ後続組とぶつかります! ち、注意してください!」
「あぁ、分かってる。ちっ、予想より随分早いじゃねぇかよ」
先頭を走る直美の前に、大量の障害物が出現した。
ある時は勝手に自分達を避け、ある時はいきなり向かってくる。下手な壁よりもよほど厄介な、リンドブルムという障害物が迫っていた。
そして、そんな直美と高鍋電子工業の動きを、後方からじっと見つめる機体達の姿があった。
衝突のリスクを考えていないのか、装甲を極限まで取り払った、流れる水を象ったかのような流麗なボディ。直美達三機から常に一定の距離のみを離して走る、操縦技術の高さ。
大会に参加するリンドブルムには、それぞれ胸元に所属校を表示する義務がある。まるで自立走行を行っているような三機のリンドブルムの胸元には、いずれも雪屋大付属の名前が刻まれていた。
※
「レースは三周目に突入し、先頭を走る
「はい、その通りです。トラックコースで一番に気を付けるべきは、他のリンドブルムとの接触事故ですからね」
「やはり接触事故は恐ろしいですか?」
「めちゃくちゃ怖いですよ。なんせあと一周で一位フィニッシュを狙えた機体が、下位ともつれ合って転倒、リタイアなんてことが起こり得るんです。悪い意味の逆転劇を、私は何度も目にしてきました」
「ならば後続組を追い抜く場合は、スピードを落として安全に走る方がいいんでしょうか?」
「それも最善とは言い難いですね。下手にスピードを落とそうものなら、今度は無理をしてでも追い抜こうとする機体が現れます。せっかく前の機体を躱したのに、避けた先で後ろから迫ってきた機体とクラッシュ。これもよくある話です」
「では、どのように走ることが最善なのですか?」
「まずペースを崩さないことですね。一定のスピードで走っていれば後続組も付近のライバルも、迫ってくるリンドブルムに身構えられますから」
「なるほど! あとどれくらいでぶつかるぞという心の準備を、ライバル達にさせるというわけですね!」
「はい、そうなります。そしてもう一つ。こちらは技量の話になってしまうのですが、優れたサポーターの指示です」
「というと?」
「前から何機が迫って来るのか、周りは追い抜いてくる意思があるのか、あえて遠回りした方がいいのかといった判断は、やはり全体を見渡すことが出来るサポーターの方が優れています」
「ふむふむ。トラックという非常にシンプルなコースでも、サポーターの存在が不可欠というわけですね!」
「はい。そうなります」
「ありがとうございます! それでは視点をレースに戻しましょう。後続組との接触事故が懸念されていた先頭集団でしたが、まずは無事切り抜けた様子。順位は変わらず叢雲の闇堂直美、高鍋の
「先頭を走る闇堂選手の愛機テンカウントは、非常に巨体です。その分装甲も分厚いでしょうから、多少の接触には目を瞑って走り抜けるかと思いましたが、切り抜けましたか。今年結成されたチームのランナーとは思えない技量です」
「全くその通りです! しかし、一方上位三名のチームメイト、叢雲の
「いえ、見て分かる通り、香月選手のリンドブルムは明らかに環境特化型の機体です。今回の得点取得を闇堂選手に任せ、自身はゴールのみを目指しているように思えますね」
「なるほど! それぞれが得意コースを担当して、上位得点を狙う作戦ですか! それは面白い!」
「えぇ。ですので香月選手に関しては、このペースのままでも良いと僕は考えます。叢雲学園のランナーは二名。香月選手が損耗を抑えれば、メカニックは闇堂選手の修繕作業にのみ集中出来ますから」
「勉強になります! おっと、ここで追加情報です。現在先頭を走る闇堂選手。なんと彼女は、元々アイアンボクシングを代表する名選手だったそうです。ですが眼病に苦しみ、昨年は公式大会の出場記録はゼロ。引退も囁かれていましたが、リンドブルムレースへコンバートしたとのこと」
「……なるほど。それでしたらあの操縦技術も頷けます。 ……きっと多くの葛藤もあったでしょうに。素晴らしい覚悟に敬意を表します」
「えぇ。ですが我々はあくまで中立の立場で、試合を見守らなくてはいけませんよ?」
「これは失礼」
「いえいえ。それではレースも膠着状態に戻ったということで、チーム紹介を再開したいと思います!」
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