第3話 陳寿、死んでも死にきれないので・・・
「な、何と言うことだ!」
陳寿は唖然とした。
報告によると、陳寿が蜀への記述を大幅に割愛したことにより
「三顧の礼」を始めとする
蜀漢英雄たちの志や偉業が疑われていると言うのだ。
しかも、死罪を覚悟して史書に添付した
丞相の教訓や、史書には書けなかった
人柄が滲み出る故事さえ紛失してしまったという。
「蜀にも、魏にも嫌われているのか、私は!
これは全て私の不徳の致すところだが……
このままでは丞相に合わせる顔がない!
死んでも死にきれないとは、まさにこのこと!」
陳寿は人目を
「え? ちょっと!」
それまで陳寿と張り合っていた男も慌て
「とりあえずスープ飲んでくれないと」
無理やりスープを飲ませようとしたが
「放っておいてくれ〜!」
陳寿が男の手を振り払った勢いで
スープの入った器は地面に落ちて……割れた。
「ちょっと! あんた! この器、一千年もするんだぞ!
あと少しでこの任務から解放されるとこだったのにぃ〜」
男も、泣いた。
男たちは泣いた。
肩を並べて号泣した。
「こうなったら……ちょっと陳寿さん!」
スープ配給係の男は、自らの責任もあるとやっと反省したようで
「あること」を条件に前世の記憶を頭の片隅に残したまま、陳寿にやり残した仕事をさせることを許可した。
「ありがとう。嫌な奴だと思っていたけど。ありがとう。条件はちょっとムカつくが、この際、そんなものどうでもいい。感謝する」
陳寿は涙を拭うと、異例の裏取引により、前世の記憶を宿したまま生まれ変わり、自らに課した使命を果たした。
そんなこんなで生まれ変わりの人生を終え、再びあの世へ帰還すると
「これでやっと、諸葛丞相に少しは顔向けできるかも」
使命と寿命を果たすのを待っていたかのように
「お帰りなさい。お待ちしていましたよ」
スープ配給係のあの男が、小憎たらしい満面の笑みで陳寿を呼んだ。
「約束は守ってもらいますよ。陳寿様からの〜
陳寿、三國演義を描く 玄子(げんし) @zhugechengxiang
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