第39話 視えるオレの話し。
映画が終わってから、近くのファミレスに入った。
最初に遅れたことを謝ってから、オレは会っていなかった一年半のあいだにあったことを、いろいろと話した。
「それじゃあ、もうあんなことはないんですか?」
「はい。まったくなくなったわけじゃあないですけど、本当に少なくなりました」
「……よかった。木村さんがなにか困ったことに巻き込まれてないか、心配だったんです」
「弘樹」
「えっ?」
「弘樹って呼んで」
「……弘樹」
「うん。オレも真緒って呼んでいい?」
「あ……うん」
丁寧な言葉遣いも悪くはないけれど、距離を感じる。
もう、タメ口でいいんじゃあないか?
それに名前を呼びたいし、呼んでほしいと思う。
そういったオレをみて、照れた真緒の後ろで桜吹雪が散った。
あまりにも奇麗で目を奪われる。
視線に気づいた真緒が少し不安そうな表情で問いかけてきた。
「ひょっとして、またなにか視えてる……とか?」
「うん、すごく奇麗な桜吹雪が……そういえば聞きたいことがあるんだ。前にオレ、好きっていったときに大仏が視えたんだけど、あれはどういう気持ちだったのかなって思って」
「……大仏? あのとき、そんなものが視えていたの?」
「うん。拒絶されたんだな、って思ったんだけど、実際はどうだったのか気になるんだ」
「あのときは……拒絶っていうことじゃあなくて、自制していて……」
「自制?」
こんな私と関わってほしくなかったといった。
キレイでもなければスタイルが良いわけでもない、しかも十歳も年上。
もっと年相応のいい人がいて、きっと誰かとつき合って一番幸せだろう時間を過ごせるときを、私が潰してはいけないと思ったからだ、と。
「あのころは本当に少し疲れていたし、でもあんなふうに言ってもらえるのは嬉しかった……ただ、駄目だって思う気持ちが強くて……平常心を保とうと思っていたんだけれど、まさか大仏なんて……」
なにを思っているのか、真緒は堪えきれないという様子で笑いだした。
怒られてもおかしくないことをいっているのに。
魔王の話しをしたときも、涙をにじませるほど笑ってくれたっけ。
「嫌がられているとか、嫌われているとかじゃあなくて良かった」
「そんな……そんなことを思っていたら、あんなに一緒に映画を観にいったりしないですよ」
「また丁寧語」
「あっ……」
また、いつか視た汗のような水色が飛び散った。やっぱり面白い。
感情が色で視えるって聞いていたから、また倒れたりしていないかって心配だったという。
毎日それが気になっていて、好きだったんだな、と気づいたといってくれた。
それが盾としてタイクリップに現れていたのか。
「もう会うこともないだろうし、どこかで幸せでいてくれたら嬉しいって思っていたら、急にメッセージが来て……」
「オレも驚いた。だってフロアに入った途端、見覚えがある魔王がいたからさ」
「唐突すぎて、自制がきかなくて。そうしたら虹が出ているっていうし……」
もしも先に気づかれていたら、出たのは
きっとこんなふうに、また誘うこともできなかっただろう。
「私も視えればいいのに、って思った。同じ世界を知れたら、力になれることがあったかもしれないのに」
「……視えても、そんなにいいことなんてないよ。それに……同じものが視えるとは限らないでしょ。怖いものが視えるかもしれない。嫌な思いや辛い思いはしてほしくないから」
「確かに……怖いものは嫌かも」
所長は真緒を強いといっていた。
そう思うと、きっとなにかが視えたとしても、自分でどうにかできてしまうんだろう。
でも、所長も苦労して少しずついろいろと覚えたと聞いている。何年もそんな思いはしてほしくない。
(やっぱりオレはヒーロー願望が強いのかな……)
強くならなければと思う。
戦って守れるくらい、強く。
ただ、真緒が本当に強いんだとしたら、ひょっとするとどこかのタイミングで、なにか視えるようになってしまうかもしれない。
だって真緒は、とんでもない能力を持っているんだから。
(ホントに無双だったらどうしよう。無敵になるには、オレは相当頑張らないと……)
「あの、私、言っておかないといけないと思って」
「……えっ?」
一体なにを言われてしまうのかと、つい身構えた。
「好きだって言ってくれてありがとう。私も、好きです」
まっすぐにオレをみる真緒のうしろにレインボーローズが大きく花開いた。
オレは言葉もでないまま、カップを包んでいた真緒の手を取ってギュッと握った。
「オレ、頑張るから! ホントにホントに頑張るから!」
「……なにをそんなに頑張るの? それに、いつも頑張っていたの、ちゃんと知っているから」
あー、もう。
こうやっていつも見守ってくれている。
年の差とかの問題じゃあない。人に対して基本的に優しい人なんだ。
変な色にも負けないように、視る力を御せるようにならなければ。
(ただ……)
どれだけ頑張れば、そのレベルになれるのか。
先のみえない目標に、視えるオレは憂鬱だ。
~ 完 ~
視えるオレは憂鬱 鎌目秋摩 @flyingaway24
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