第12話 従姉の話し。

 年始や法事のときなど、母方の親戚と集まる機会が割と多くあった。

 それぞれが、そう遠くない場所に住んでいたからかもしれない。

 特に母の姉である伯母は同じ都内に住んでいて、電車で三十分程度で行き来ができたのと、歳の近い従姉弟いとこがいたこともあって、ほかの親戚より会う機会は多かった。

 特に兄の和樹と同じ歳の従姉である景子けいこは、年始の挨拶以外でもちょくちょく家に顔を出しては、母たちと晩酌したりしていた。

 今日も、オレが仕事から帰ってくると、両親と兄も一緒になって賑やかしていた。


「あれ。景子ちゃん、また来てたんだ」

「なによ。来ちゃいけなかったの?」


 景子はちょっとムッとした顔をみせた。色は明るい紫色で、これはいつもと同じだから、怒っているんじゃないようだ。

 ちょうど夕飯を食べ始めたばかりで、まだ飲んではいない。


「そうじゃなくてさ。ちょっと聞きたいことっていうか、話したいことがあって」

「ふうん。それなら弘樹も早くご飯を食べちゃいなよ。食べ終わったら聞くから」

「ありがとう」


 オレは急いで部屋に行き、着替えて戻ると、母を急かして早々に夕飯を済ませた。急がないと、景子と父が飲み始めたら、話しにならなくなってしまうから。

 兄が父の話し相手になっているうちに、景子を呼んで二階にあるオレの部屋に戻った。

 実は景子も視える人で、オレとは視えるものが違うけれど、ときどき助言をくれたりする。毎回ではないけれど、ひどい目に合うのがわかるらしい。

 相手の後ろの人が教えてくれるそうだ。初めてそれを聞いたときは、背筋がゾッとしたし、視えるのが色で良かったとさえ思った。ただ、景子に視えるのは後ろの人だけで、いわゆる幽霊が視えたことはないらしい。

 霊感とはちょっと違うみたい、と言って笑っていた。


「で? どうかしたの? 視たところ、変な目には遭ってないみたいだけど?」

「うん。嫌な目に合ったとかじゃないんだけど、変なモノが視える人がいて」

「変なモノ? ってなによ? 弘樹が視えるのは色だけじゃなかったっけ?」

「そうなんだけど、その人だけはね、なんだか形で視えるときがあるんだよ」


 オレは安本さんに視えた魔王とホラーなキャラの話しをした。パソコンデスクの椅子に座って聞いていた景子は、腕を組んで首を何度か傾げた。


「普段はほかの人と同じで、色が視えるだけなんだ?」

「そう。なんなんだろうって思って。もしかすると、ほかにも視えるのかな、とかさ」

「う~ん……私が視たわけじゃないから、なんとも言えないけど……でも確かに、ほかの人とは視えかたが違う相手って、たまにいるよ」

「えっ! そうなの?」


 居間にいる父の呼ぶ声が聞こえてきた。そろそろ飲むぞ、と言っている。

 景子はそれに返事をしてから、オレに向き直った。


「当てられたときみないな、気分の悪さは感じないんでしょ?」

「うん。それはない。あったらオレ、とっくに職場変わってるよ」

「影響がないんだったら、そんなに気にすることはないと思うよ。ただね、そういう相手ってね、縁があるのよ。なんかしらの縁がさ」

「……縁がある」

「あんまり気になるようなら、ちょっと仲良くなってみるとか、してみたら? そうしたらなにかわかるかもしれないでしょ?」


 景子は立ち上がると、いそいそと部屋を出て階段を下りていった。そんなに飲みたいか。明日も平日だっていうのに。


(それにしても……)


 縁があると言うけれど、それなら匡史と萌美こそ、そんなモノが視えてもおかしくないんじゃないか?

 それとも、そういった縁とはまた違うんだろうか。

 景子に聞いてみたら、なにかわかるのかと思ったけれど、結局なにもわからないままだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る