第5話 大学生のころの話。

 そんな感じで高校生活は過ぎていった。

 三年間で視ることに関しては、かなり自分の中で整理がついてきた。

 ただ、わかったからと言って防ぐのは難しく、結局何度か倒れることになっている。


 最初は就職をするつもりでいたけれど、二年生になるときに、父親と兄に、大学くらいは行っておいたほうが良いと諭された。色が視えることで当てられてばかりはいられないから、せめて人馴れしろということらしい。

 それが難しくても、大卒という肩書で就職の幅が広がるからだという。


「誰とも関わらない仕事って、そうはないと思う。視える視えないにかかわらず、いろんな人がいるわけだしね」

「だから、おまえはできるだけ多くの資格を取って、いつでもすぐに面倒ごとから離れる対処ができるようにしておくといい。手にする武器は多いほど良い。いきなり社会に飛び込まず、四年のあいだにやれる準備をしておきなさい」


 そう言ってもらえた。目指す仕事のために専門学校へ進んだ兄の和樹に相談に乗ってもらいながら、あれこれと考え、勉強に励んだ。

 そしてこの春、オレは家から極力近い大学を選び、進学することが決まった。

 匡史は兄と共通の趣味があって、兄と同じ専門学校へ進む。萌美のほうは地元の企業で就職が決まった。

 今までのように一緒にはいられない不安はあるけれど、みんな実家暮らしだから、会おうと思えばいつでも会えるという安心感はあった。


 若干の不安を抱えながら通い始めた大学は、一人でいることになんの支障もない場所だった。いずれはグループで行う作業もあるけれど、それに困らない程度の人付き合いはできていた。

 最初のうちは人の多さに閉口したけれど、視る数も増えて、絶対に近寄っちゃマズイ色や、距離を置くタイミングもわかるようになってきて、高校のときに巻き込まれた人の怒りの色も、うまく避けられるようになってきた。


 とにかく目立たず、ただ無事に卒業することだけを目標にしていたから、気を張っていたんだと思う。

 長い休みの半分は、家でヘタっていた。


 父親の言う武器……については、とにかくいろいろな資格を取ってみることにした。そのためにバイトも始めた。家族の好意に甘えてばかりもいられないからね。

 短期間で取得できるものから、通信講座で取得できるもの、運転免許まで、試験の日程を考慮しながら。

 のちの就職活動で、なにかが有利になればいいかも……と思っていたけれど、結果、有利もへったくれもなかった。


 職場見学の時点で暗雲がたちこめ、一社だけ面接に挑んでみたけれど、オレ自身がいろいろとダメだった。

 グループ単位の面接で同年代のライバル心に当てられ、面接官からにじみ出る色に当てられ、早々にリタイアを決めた。

 がっかりな結果にはなったけれど、このおかげでオレは、自分が取得するべき資格がなにかを知り、派遣の働き方を選んだのだから、悪い経験ではなかったんだと今では思う。

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