第4話 押しに弱い話し。

 中学のときで懲りたつもりだったけれど、好きだと言われると、どうも弱い。

 人の好意の色は本当にキレイだと思うし、魅力的に見える。

 最近、彼女ができた匡史も、彼女といるときはすごく優しい色をしている。茂田とつき合いだした萌美も、岩下と須藤さんも、みんな同じだ。

 それなのに、オレは――。

 突然倒れ、「貧弱」なんてあだ名をつけられたオレを、放っておけないと言ってクラスの委員長である林 妙子はやし たえこがグイグイ迫ってきた。変な使命感に駆られているのか、吉住さんのときのような桜色じゃなく、ド派手なショッキングピンクだ。申し訳ないけれど、とても魅力的には視えなかったよ。


「私の好きな木村くんを貧弱だなんて、私が絶対に呼ばせないから! 私が鍛えてあげるから! だから私とつき合おう!」


 どーゆー理屈なんだよ……。

 オレはもちろん、丁重にお断りしたよ。嫌な予感しかなかったし。ところが、オレの言うことなんかまったく聞いちゃくれない。教室で茂田と一緒にいても割って入ってくる。匡史や岩下はもちろん、萌美や須藤さんが一緒でも同じだ。

 しかも本当にべったりで、必ずと言っていいほど腕を絡めてくる。悪い気はしないけど、困る。

 最近では土日の早朝にうちまで押しかけてきて、体を鍛えようと言ってランニングに駆り出される始末だ。

 オレがヘロヘロになっていくのを見て、さすがに両親も兄も心配してくれている。

 っていうか、毎回きっちり断ってるのに、なんでだ?

 押しに弱いオレが悪いんだろうな……。

 放課後、教室の廊下側の席で、オレと茂田が話しているところに割り込んできた林さんに、再度お断りを試みた。


「あのさ、林さん。好きって言ってくれたのは嬉しかったし、気にかけてくれるのもありがたいと思ってるよ。でも、オレは林さんとつき合う気はないんだよ。ごめんね。だからもう土日も……」

「でも弘樹くん、彼女いなんでしょ? だったら問題なくない?」

「いや……そういう問題じゃないから……そもそも林さんとつき合うつもりがな……」

「ヤダ。妙子って呼んでよ」


 んー……。

 話しが通じてない。林さんはオレの手を取ると、自分の肩に回して抱き着くように身を寄せてきた。

 ピンクが濃い。やや紫がかっても視える。若干、当てられてるんだと思う。背筋がゾクリとした。

 だからさ……悪い気はしないんだけど、心の底から困るわけ。ってか、無理なんだって……もうどうすりゃいいんだよ……。

 目眩を覚えた瞬間、ベッタリくっついていた林さんが萌美に引きはがされた。


「アンタ、いい加減にしなよ。弘樹、嫌がってるじゃん」


 萌美の色が珍しく怒っている。いつものオレンジ色を赤い色が縁取っている。


「なによ? あんたには関係ないじゃない! 私たちのことに口出ししないでよ!」


 林さんのほうも、ピンクに赤みがかかった。言い争いがだんだんと激化していく。

 クラス中がこっちを見てヒソヒソと話している。


「お~、ついに始まったかぁ~」


 廊下の窓から匡史が教室をのぞき込んで笑った。その隣には岩下も須藤さんも来ている。


「いや、笑い事じゃないだろ! 茂田、萌美を止めろよ」

「なんで? いいじゃん別に。委員長、話し通じてねぇし。一条もそう思うだろ? それにさ、木村もいい加減、嫌だったろ?」

「だよな。俺ら男が手を出すわけにもいかないんだから、萌美に任せときゃいいだろ」


 匡史はそう言い、岩下までうなずいている。萌美と林さんの戦いは激しくなる一方で、ついに取っ組み合いになっていた。


「そうだけど……あれじゃあ萌美が……須藤さん! 萌美止めてやって……」

「は? ヤダし。ってか茂田たちがいうとおりじゃん。いつもいつも割り込んできてさ。うざかったから。マジで」


 岩下も須藤さんも、穏やかで優しい色だったのに、今はグリーンの周りを濃い紫が縁取っていた。

 相当、林さんの存在にストレスを感じていたらしい。

 そうこうしているうちに、決着がついたようだ。萌美の頭の上に「WINNER」の文字が視えそうなほど、勝ち誇った顔でオレたちのところへ戻ってきた。


「弘樹、もう大丈夫。今度また来たら、次は最初からひっぱたいてやるわ」

「なんかもう……本当にいつもいつもごめん……」


 うなだれたオレの肩を匡史が軽くたたいた。


「今回のコレは完全に事故だろ。弘樹はちゃんと断ってたじゃん。ま、気にすんな」


 匡史はそう言うけれど……。

 いつも面倒ごとに巻き込んでいる気がする。本当にすまないと思う。


 教室の片隅では、萌美と林さんがオレを取り合ってケンカしたらしい、と噂している。

 いや……萌美の彼氏は茂田じゃないか……。


 翌日からオレのあだ名は「貧弱王子」になっていた。

 もう……勘弁してくれよ……。 

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