第3話 高校の話し。

 高校は地元の学校に進んだ。電車通学やバス通学なんて、考えたくもなかった。地元校なら自転車で通えたから。

 匡史と萌美も変わらず一緒だ。三人ともクラスは違っちゃったけれど。

 ここでもオレはクラスメイトを観察していた。明るい暗いの差はあっても、悪意を感じるような色は視えない。

 とりあえず、それだけでホッとする。まあ、最初から悪意剥き出しの色を出してるヤツなんて、そうそういるもんじゃないけどね。

 あいうえお順で決められた座席で、オレの後ろに座った茂田 英輔しげた えいすけは面白いヤツだった。

 レモンのような明るい黄色で、その色のとおり明るいヤツだ。匡史とも気が合うようで、オレたちはすぐに仲良くなった。

 匡史と萌美にも仲の良いクラスメイトができて、それぞれ岩下 靖いわした やすし須藤 美智佳すどう みちかと紹介された。どっちもグリーン系の色を発していて、癒されるような優しさを感じた。

 ほかにも良く話すヤツや一緒に行動するヤツもできたけれど、結局はこの五人と一緒にいるところに落ち着いた。

 五人とも悪目立ちするタイプでもないし、オレに至っては空気のように目立たないことを心がけていたから、このまま三年間、何ごともなくのんびり過ごして卒業できると思っていた。


 ある現国の授業。この日はなんでか、クラスがやけにざわざわとしていた。最初はにこやかに「静かにしなさい」と注意をしていた先生だった。

 けど、オレはずっと見ていた。最初は穏やかな深い青色だったのが、赤く染まっていくさまを。


「いい加減に黙れーーーっ!」

「うっわ! 先生、いきなりブチギレたよ」


 先生が怒鳴った瞬間、誰かがおちゃらけて言ったもんだから、クラス中で失笑が起こった。

 違うんだよ。いきなりじゃなかったんだよ。先生、だんだん怒っていってたから……。

 先生の色に当てられないよう、オレはうつむいてやり過ごそうとした。


「誰だ! 今、ふざけたことを言ったのは!」


 もうね、完全にガチのやつ。でもまあ誰にだって……先生にだって、虫の居所が悪いとき、あるよな……。

 あまりの怒りように、クラス中がシーンと静まり返った。

 オレは顔を上げることができなかった。この教室がどんな色になっているのか、想像もできなかったから。


「いいか! 俺は気分で怒っているんじゃないんだ!」


 いやさ、先生……。

 それ自分で言っちゃったら、もう気分で怒ってます、って言っているようなもんだよ……。

 先生は大声で説教を垂れたあと、教壇の脇にあったゴミ箱を思いっきり蹴りつけた。

 次の瞬間、足もとから浸水していくように先生の感情の色があふれた。

 真っ赤に染まった教室の中で、溺れるかと思った。ところどころに黒や紫の色が視えるのは、誰かが発した先生への反発心かなにかだろう。

 オレ自身に悪意を向けられているんじゃなくても、こんなふうに影響を受けるだなんて思ってなかったよ。

 吐き気はギリギリ耐えられた。けれど、目眩はおさまらず、オレは中学のときと同じように倒れた。

 茂田とクラスの委員長に保健室に運ばれ、例の如く匡史と萌美に家まで送ってもらった。


 翌日から、オレのあだ名は「貧弱ひんじゃく」になった。

 そうじゃないんだけど、まあ仕方がない。面倒だから甘んじて受け入れた。

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