エピローグ(ひとまずの)
ブート砦での戦いは、ノイラント王国軍の完勝に終わった。散り散りになったベルゼビュート北方第一軍は途中集結することなく皇都ロマニギュネフまで逃げていく。そしてノイラント王国とベルゼビュート皇国の間には、その場しのぎの停戦協定が交わされた。
そう、もう冬が去り、春も近くなっていたのだった。
「ほら、もう春の星座が東の空に見える。あれあれが春の一番星、あの星が天頂まで来る頃には畑に種を空かなくてはならない」
まだ冷える夜に、アンペルとクリエは星を見ていた。
「戦争の季節は、おしまいですね」
「ひとまずはな。休戦協定も結ばれたし。戦争なんかより、食料を作る方が大事なんだ、どちらの国もな。流民も田を植える農民に変わる。軍隊も常備兵を除いて解体される」
「でも麦が実らないと、また冬には……」
クリエの言葉にアンペルはうなずいた。
「暑い夏が来ればいいと言ったところだが、この数年の季節の移り変わりを見るに難しいだろうな」
「私にできることは……」
クリエのつぶやきにアンペルは首を横に振った。
「何もないさ。俺にだってできることはない」
「アンペルはこれからどうするのですか?」
「俺は大学に戻る。勉強、続けたいしな」
「そう、ですか。それではおわかれ……」
「クリエ、一緒についてこいよ」
「え?」
「二人でもっと星のことを勉強しよう。俺も知識不足だ。さらに大学で学ばなくてはいけない」
「私なんかがついて行っても……」
「いいや、俺にはクリエが必要なんだ」
「……」
「クリエがいないとどうにかなってしまいそうなんだ!」
アンペルはわずかに横を向き小声で叫ぶ。
「アンペル……」
そしてクリエに向き直った。
「……どうか良い返事をくれないだろうか」
クリエはそんなアンペルの手を取った。そして言った。
「私なんかで良かったら」
そして続ける。
「あなたの人生に寄り添いましょう」
たどり着けなかった花々 陋巷の一翁 @remono1889
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