-2- 打首塚の日課、パトロール編 inワクワク潜民街
治安パトロール、続行―――!
たとえロボ相手に頭蓋骨からスタートする複雑骨折決めたところで、責務は
全うせねばならない。数時間の復活時間を経て五体満足、体調万全になって
復活した。どうしてそんなになってまで続けるのか。何故ならこの役職担当者は
私だけ。代わりはいない。つまりはワンマンである。
皆も深夜のバイト店員さんには優しくしよう。地盤ごとちゃぶ台返しされた
校舎の残骸の中をウロチョロしつつ見回る。あれほどのことが起きたのに
決して動じず全く立派ではない未成年飲酒喫煙おまけに地球上の誰もが
キメちゃいけない薬を嗜んでいた生徒共を蹴り飛ばす。
「ヤるんなら違うモンにすんだね!!!」
脳にどんな影響があったのか知らないが、もうなんか色々なトコから色んな体液を
出してるヤバい顔した生徒共から各種嗜好品を
「頼もーーー!!!」
スパァァァン!と勢いよくスライドドアを開け放ち職員室に入り込む。
視界いっぱいに広がる浮浪者と何が違うのか見た目からは全く判断できない
中年人間の群れ。椅子も机も配備されているのに、仕事道具へ身を収める気が
全くない彼らは名だけとはいえ、このイカれきった地下世界における教職員の
資格を持っている。実働も実績もないので、地上だったら不正受給で即刻獄中に
シュートされるような人材ばかりだが。悲惨なのは業務を行っていない点に
留まらず、ヤバい思想に中毒、もしくはその両方を漏れなく全員抱えて
いらっしゃるので、関わるどころか視界に入れるだけで危うい人物群だという事。
まぁそもそもこの学校ってのは名ばかりでただの収容施設なんだけど。
そんな腐ってないだけでゾンビと同じような動きをしている人々をかき分けて
写真と文字がプリントされた書類の束を、デスクの上に置いてそれを眺めて
一見仕事をしているように見える―――実際は職務でもなんでもなく(そもそも
「ここにいる事」が彼らの業務なんですよ。)個人的な趣味で地下住民の
プロフィールを読み込んでいる男性職員に向かった。
「お疲れ様です。今日もカッコ悪い
さっきのゴタゴタは大丈夫でしたか?」
男性職員は私の声に気怠そうな視線を向けた。顔には無精ひげが生え、
胸元には「今込 流兵 」と書かれた名札が閉じられていない安全ピンで
辛うじてぶら下がっている。シャツのボタンはめちゃくちゃに留められているし、
ズボンのベルトも同様。ついでに靴をはいた足をそのまま机に乗せている。
だらしないサラリーマンという単語から誰もが思い浮かべそうな格好をしている、
それが現代コミュニケーション学教師 今込 流兵の基本スタイルだった。
「いやぁ別に?お前の色の薄さに比べたらなんとも。相変わらず新規に降りてきた
連中の名前と顔、降りてきた理由を眺めてただけだぜ。」
ニヤついた視線をこちらに向けて ほらこのとおりに、とでも言いたげに
ひらひらと書類をひらつかせる今込教員。ここまで気怠そうだのだらしないだの
書いてマイナスイメージを与えまくってしまったが…この職員室に籍を置いている
以上、この教員もまた異常者なのであった。手短にまとめると地球の言語全てを
自在に操り、授業が始まれば「こんな紙切れに意味はないからね~!」と
言い放つと同時に教科書に火を放ち完全独自の授業を始めてヒャッハーするという
暴挙に出る、そんな奇行に及んでおきながら学校の人間が揃って放火の件を
庇おうとする程に打ち解けていた、地上の学校を去ることになったのも
教科書放火をキメた教職員を学校に置いちゃまずいでしょという至極まっとうな
判断を外部の人間が下したから、なんていうもうなんだかよくわからない
コミュニケーションを取る人物。
本人はとにかくいろんな人間と交流を図ろうとするコミュニケーション狂いで
地下世界では珍しく暴力に傾倒するわけでもなく、かといってなにかしらの研究に
どっぷり浸かっているワケでもない“地下らしくない„人物、
それがこの今込流兵の生き様なのである。
そんな彼にとびっきりの笑顔と両の人差し指を向けてある誘いを投げかける。
「一緒に武力抗争でも見に行かない!?」
へぇ、と書類からこっちに顔を向けた今込に対し内心でニィと微笑む。
この男はコミュニケーションに必要な準備は怠らない性格だが、
目の前のご
「一体どんな面白い話を聞かせてくれるんだ?」
「よくぞお聞きなさった!」
私は勢いよく机に手のひらを叩きつけながら実に流暢につまびらかに
丁寧極まりなく説明した。研究実験に研鑽儀式その他修行などが好きで好きで
たまらない連中が巣くう地下の街、
今日派手なドンパチが起こることを。
メンどくせーからパスパス、とっととお勤め果たして来いホラ行け。
なんて手ひどくあしらわれてもおかしくはないな~~~と思ってはいたが
全然断られることもなく、
「いいよ、薄っぺらい紙眺めるのヤめにしてナマの人間見に行こうと思ってたし。」
「ンまじぃ!?おっけ今すぐ行きましょホラホラ!」
「一応聞いときたいんだけど、それって人の集まりってなどのくらいなワケ?」
「聞いて驚け。
口端を吊り上げ自分の成果でもないのに得意げに教える。
椅子から立ち上がってもなお高い教師の背をバシバシと叩いて言外に急ぐよう促す。
筆記用具、軽食をまとめた肩掛けバッグを持ったのを見て共に職員室を後にする。
…一緒に職員室から出たような動きをして静かに引き返す。
急いで懐から体液垂れ流し系生徒からブン獲った違法物質を各種依存者共に
投げ、配り、歩く。「べ、別にアンタらのために回収したわけじゃないんだからね!
配ってるわけじゃないんだからね!」と方々に言って回る。
当然貰うものはしっかり貰っている。只より高い物はなく、それはこの地下でも
同じ事である。いろいろと入用なため、持っている相手から取れる時そんなに取って
どうするの?後で困るでしょ絶対。ってくらいふんだくる。配り忘れがないか
手早く確認し、得るべき報酬以上を受け取っているか三度確認する。
勿論物々交換なんて原始極まりなしなモンで歩を止めずに、
しっかり金銭の類を受け取ることも忘れずにね。
十数分をかけて移動し、私が指定していたポイントに到着した。
ちなみに地下世界の交通網はスピードとロマンの化身、交通整備責任者の
火罪山 天童さんと狂気のワーカホリックワーカー、発掘計画責任者の
島流海 地獄道さんの一味が作り上げしイカれた…
もといイカした道が各地に伸びている。
主要施設であればどこへでも・大した時間もかからず・なにより迷わないが
道覚えるの苦手な方々に非常に好意的に評価されている。
馬鹿ども…おバカさんたちが破壊しちゃっても自動修復機能によってホラー映画の
殺人鬼並みにしつこく蘇るぞ!あるいはこの道こそが彼らのカタチ持った
常軌を逸した執念なのかもしれない。
説明が長くなったけれど…とにかくそんな道を通ってたどり着いたのは
広大な広場…というかただの平面といった方がいいくらいなにもないただ広いだけの土地を見下ろせる場所だった。私と今込教員が陣取ったポイントからは
ファンタジー系の作品で必ずお目にかかれる城を囲む黒いレンガの城壁に囲まれた
建築物の山がそびえ立つ姿と、ただの白に見える___よく見ると透明な表面の下に少しだけ濃い白い線で描かれた正六角形がびっしりと並んだ幾何学模様の壁が見えた。どちらの壁も分厚く、並大抵のコトでは崩れないだろうという
印象を受けた。壁と平面を見回した後、自前の倉庫からモノを取り出せる謎装置を
使ってビニールシートを取り出す。地面に広げて敷いてペシペシと叩き、今込教員に
ほら座れよ と促す。お気に入りの弁当箱…いやオシャレにランチボックスと
書くべきか、とにかく昼食が入っている箱の包みを開いた。チラと腕時計を見ると
予想していた時間になっていた。平面の中心あたりを指差し告げた。
「さぁお時間です!
言い終わると同時、バガボゴドカブワドゴゴゴゴゴッ!!!!!ととにかくうるさい
騒音、もとい破壊音と粉塵となんか細かいパーツと破片が撒き散らされた。
あんなに頑丈そうに見えた、実際地上の兵器では傷一つつかないくらい頑丈だった
双璧が一瞬でガラスを金槌でブッ叩いた後よりも粉々に散らばった。
「解説しておくと白い謎材質の壁が科学系の研究者が集まる
壁については特殊な素材で作ったレンガに陣やら印やらでさらに固くしたすごーい
城壁。向かいにあったのが弾力のある素材を衝撃が分散する形に組み上げて、壁自体が動いてさらに損害を減らすハイテクウォール…だったんですけどねぇ…」
私自身が説明したその固い壁二つが見るも無残な残骸と化してしまっていた。
さらにひどいのが相手からの攻撃ではなく自分たちを守る壁を自分たちで
ぶち破った上に破壊しつくした連中である。これが狂人二大勢力である。
さてここで各陣営についてザックリお教えしよう。
我々見学陣の向かって右側の勢力は主に科学的な研究を行っている
銃器やら各種学問をはじめとしてビームやら巨大ロボットやらをバンバン
作りまくっている。
反対側、我々から見て左側に位置するのはオカルト扱う
地上では空想・現実とされるモノ、あるいはかつて世界に溢れていたであろうモノを修練により意のままに自在に振るわんとする者たち。
今回はそいつらがドンパチやりあっている訳である。
「ふぅん。じゃあ科学VS魔術の思想違いによる衝突ってトコか?
やっぱり仲悪いのか?」
「なにも全員が全員を嫌っているって訳じゃないんすよね。ただ近くに良い感じに
拮抗しあえる競争相手がいるってだけで。距離がもっと遠かったらこんなにはなってなかったかもです。」
実際、
個人同士、多くても十人にも満たないグループ同士のみである。
「まぁいろんな点で噛み合っちゃったからこんなんなっちゃったんじゃない
ですかね~。じゃなきゃこんなにがっつりやりあいませんって。あ、サンドイッチ
作って来たんすけど食べます?」
「そんな感じかねぇ…貰うよ、何味がある?」
良い時間だったので昼食を取りながら武力衝突を見下ろすことにした。
今回は抜きんでて勢いのある…要は派手な動きをしている部署がいくつかあった。
事前に目を通していたので部署になんとか見当がついた。
殲滅魔術学
文字通り大量の人間を相手取るのに特化した魔術を使う魔術学の連中。
殺傷能力の高い、資料に書かれてる内容だけで思わずしかめっ面になってしまう
ような魔術を使う。ただ、地面更地にしたらそこにいる奴ら全員死ぬやろ!のノリを
地で行く連中なのでまぁ攻撃を当てられない。
「火力は怖いんすけどめちゃくちゃ避けられてますねぇ…」
「こういうのをあんま観ない俺でもああだめだなってわかるぜありゃ…」
機材開発科
戦闘をサポートする様々な機材を開発することが目標な科。私に武装試験をよく依頼してくる部活の子たちはここに所属している。武器を作るのが得意な方たちですね。
「あっ!見てくださいあそこ!普段世話になってる兵器開発部の子たちですよ!!」
こちらに向かって笑顔で手を振っている少年少女たちを指差して今込教師に教える。
「運動会の親みたいなノリだな…」
「実際そんなもんじゃないですか?あの子らの分のサンドイッチは
用意してないんで一緒には食べられませんけど。」
言いながら2つ目のサンドイッチに手を伸ばした。具は甘辛いソースとしゃきしゃきのキャベツがおいしいカツサンドイッチだった。
武器を扱う事自体に慣れていないせいか時折武器に振り回されながらも開発科の
メンバーは殲滅学の生徒たちにぶつかって行っていた。
植物操作学
モノを操る魔術学の中で植物を操る魔術を専門に扱う集団。
今も叩きつけたら人を余裕で叩き潰せる太さの木の枝を蛇みたいにうねらせながら
科学派へ振り下ろしている。直接当たらなくとも砕けた平面の破片があたりに
飛び散り相手の動きを阻害させている。
「やっぱ植物育ててるから野菜とかもおいしく作れるんすかね?」
「いやしらね~…今度自分で聞きに行けよ。」
「うーん、今度家庭菜園やろうと思ってるんでおすすめの育て方とか
聴いときたいんすよね。」
3つ目のトマトとレタス、キュウリが挟まったサンドを食べながらそんな話をした。
エネルギー操作科
主に実態を持たないエネルギーを研究する学科。
ビームとかレーザーに使われる謎の光が最近のブームらしい。まだ物品の量産に
至っていないのか、実際に使えそうな兵器を持っている生徒は極端に少なかった。
木の枝や蔦の群れに襲われながらも光の線を放ち、うごめく植物に応戦していた。
ドローン科
言葉の意味としては『遠隔操作できる飛行無人機』が正しいのだが実際に扱うのは複数のプロペラで空を飛ぶ高度なラジコン、と書くべきだろうか。
ドローンのカメラから送られてくる映像をゴーグルで見ながら後方からドローンを
操作している。
使い魔学ドローン科
様々な動物を操る学問。操る技術とともに動物の性能にも目を配る必要がある為、
難易度が高めの学問だという。今回は空を飛ぶものがメインのようで、鳥やら
蝙蝠じみた謎生物の群れを従えていた。
「お互いの操るモノ同士での空中戦かぁ。偶然にもいい感じのマッチですね。」
「ドローンを機会の鳥なんて呼ぶやつもいるしなぁ。こりゃ見ものだ。」
殺人的な回転をするプロペラに切り刻まれる謎生物、怒り狂う獣の体当たりで
砕け散るドローン。戦場の高い位置からは部品と肉片が次々と落ちて行っていた。
爆発研究会
魔術・科学双方に存在する爆発を愛し爆発に愛された研究会。
同じ分野を扱うからか双方の仲は珍しく良好。今も手を取り合ってにこにこ笑顔で
周囲を爆破しまくっている。
「ありゃあまた物騒だなぁ…」
「ね。周囲の被害も文字通り壊滅的ですし。あ、ハムマヨネーズいります?」
「貰う。」
ここに書いた以外にも様々な集団がいたがここでは割愛する。
とにかくカオスな戦場であったのだと思っていただければ…
今込教員とサンドのやり取りをしているとひときわ大きな轟音とともに魔術側の
生徒たちが地面ごと弾き飛ばされていった。
崩れ落ちた白い壁の中から30mは越えているだろう巨大な何かが現れる。
…なんだあれ派手ったら派手だな…えーと、まず全体が金ぴかでやたらめったら
いたるところにミラーボールと電飾、様々な色に変化するサーチライトが
四方八方に光を飛ばしている。光の乱舞で見づらかったが、どうやら4本脚の巨大ロボで機体の横にでかでかと黒の筆文字で【絶対殲滅パーリナイ】と書かれている。
「な、なんだりゃあ…」
「絶対殲滅パーリナイですって。殲滅できるかは知らないけどパーリナイなのは確実でさぁね…」
機体のどこかに付けられているだろうスピーカーから大音量が垂れ流される。
『ごっきげんYo---う!!!双方元気してっかぁ!?
ご機嫌なパーリィにようッこそぅ!』
目も耳もやかましいという情報を伝えてくるトンデモ兵器からこれまた
大音量の発射音が響く。よく見えないがミサイルランチャーやらレーザーやらも
付いていることだろう。銃痕が平面に見えるのに銃声も銃弾が飛んでいく様子も
見えないのは強すぎる機体の光と音のせいだろうか。レーザーの動きも
サーチライトに紛れてよくわからない。狙ってやっているとしたら
とんでもないバカでとんでもない曲者だ。実際いい感じに拮抗していた戦場が
科学派の優勢に偏り始めた。
あたりからは「見づれぇ!」「先輩、何も聞こえません!」などなど主に
バカ派手ロボに対する不満と悲鳴が聞こえる。
こりゃ科学派の勝ちで後は残党狩りの時間かな?と支度しようとしたタイミングで
魔術派の黒い壁に動きがあった。そこらに散らばるレンガの破片と同じもので
作られながらも決定的に違うモノ。固く、固く、些事には興味も向けない
圧倒的なモノ。30m超サイズ、生きた人型巨壁。【魔城要塞くん】。人はそれをそう呼ぶ。
『なんかあった?』
この眩く騒がしい戦場を前にして周りがうるさくて起きる羽目になった時みたいな
ことを言いながら要塞君は起き上がっていく。
「これまたデカブツだなぁ」
「ね。ありゃアレかな?ゴーレムってやつの最高傑作とか?」
もういくつめかわからないサンドイッチを一緒に頬張りながら今込教員と
レンガ巨人を眺めた。
要塞君付近の生徒が口を大きく動かしている。多分何かを必死に伝えているのだと
思われる。それを聞き終えたらしい要塞君はただゆっくりと一言、
『わかった』
と返した。腕と肩部分から延びる数枚の城壁が轟音と共に平面に突き刺さって行く。
見た目は同じだが仕様か施された魔術が違うのか、ミサイルやレーザーによる攻撃が
防がれている。パーリナイの攻撃から逃れるための障害となったその裏に、魔術派の生徒が集っていく。それだけでなく僅かに壁が揺れ、要塞君が気合の声を上げる。
『いくぞおおおおお』
地面に突き刺したスコップで土を掬い飛ばすみたいな動きで城壁を動かした要塞君は
平面の謎素材を科学派に向けて弾き飛ばした。白い破片が戦場を飛んでいく。
大きな破片は数人を巻き込んで科学派生徒を押しつぶし、
小さい破片は逃げようと背を向けた生徒の背に突き刺さり悲鳴を上げさせた。
だいたい同じスケールのロボとレンガ巨人が向かい合い、それに呼応する形で
生徒達が再び相手の勢力に向かい突撃していく。開戦当初と比べて参戦している
人数は半分ほどに減ったがまぁ死んでも蘇るから皆構わず怯えず戦いへと
赴いていく。多分長い研究・修練の合間にする運動程度に考えている連中がほとんどだと思われる。実際そんなノリだ。ここで今一度戦場の全体を見回す。
目立つデカ物とほどほどのカオス。…頃合いかと判断し、立ち上がって伸びをする。
「んあ?いまから乗り込んでくるのか?」
「YES。この戦いの鎮圧が今回の仕事だからね。被害がこの平面外に出る前に
事態を修めろってね。長引き過ぎてもだめだし、早すぎるタイミングで処理に行って疲れるのも嫌だったから待ってたのよさ。」
サンドイッチがまずくなる前に食べきるようにとお願いをして体操を終える。
変なタイミングで身体が攣って動けなくなり、死体袋に詰められるのは勘弁だった
ためしっかりと身体をほぐした。軽く跳ねて足の調子を確かめて、武器庫から得物を取り出せる謎機械を使う。一度使えば武器の強さに応じ、再び使えるようになるまで間が生じる。不便で威力が低く、使い捨てであればすぐに使えるようになるが、
便利で強力、何度でも使える武器ならば少なくても一日は使えなくなる。
地下世界では強力な力、便利な機械にはそれ相応のデメリットが使用者に発生する。
もしこの機械を私自身が作っていたらもっとデメリットが軽かったか、違う種類の
ものになっていたかもしれない。人に作ってもらったモノ、使用にはデメリットが
特にない事、効果が高い、この3点があってなお使用するたびに時間が必要程度で
済んでいるのはデメリットとしては軽い方である。そんな風に考えながら
どんな脅威が戦場にあったかを思い返し最適武器を選ぶ。
「取り出したるは
大斧剣。その名の通りデカい片刃タイプの斧である。
材質も機能も特殊な点はなく、サイズも大きいとはいえ人が扱える常識的なサイズ。
金属製の分厚く大きな刃を囲い、様々な持ち方が出来るように配置された
強化樹脂製の持ち手が特徴的な武器だ。…刃の横にはボタンが一つついている。
ボタンの機能以外は特筆するような事はない武器である。
武器庫につながる謎機械の再使用にかかる時間は1時間30分。
逆にそれだけ時間をかければ新しい武器が使えるのだ、とポジティブに考える。
「じゃ、行ってきますわ。」
「おう、サンドを味わいながら応援してるぜ。」
教員の声を背に受けながら戦場に駆ける。流れ弾が飛んでこないようにと
かなり遠い場所で観戦していたが、ちょっと遠すぎたかもなと走りながら思う。
これも準備運動になると納得できる理由を取ってつけて速度を上げた。
最初に出会ったのは殲滅学の生徒たち。上手く背後に出れたので自分に一番近い、
彼らにとってはしんがりの位置にいる者を狙う。暗殺向けの武器ではないがまぁ
乱戦に割り込む想定で選んだので致し方なし。武器の不足は持ち手の私で
補うことにして静かに息を吸う。斧の刃を走らせるラインに首を合わせて
聞き手ではない左手で力任せに振った。斧自体の重さとそれを素早く振り回した速度
二つ合わせて首一つ。体重の約10%の重さが地面に落ちて音を響かせる前に次へと
向かう。流石に全員をサイレントキルする自信も技量もないのでバレる前提、
バレる前にどれだけやれるかに考えを変更する。
左手で流れている血を掬う。人間の中心に線をイメージしてそれに沿わせて斧を
振り、腰より下まで降ろしたタイミングで右上に刃を滑らせ身体ごと前面に向かう。文字でいうならレのように斧を動かしながら身体全体の重さをかけ、腕の筋力で振るった斧をとにかく前へ向けて三人目の胸から肩口を抉る。心臓や脳を潰せたわけではないので急いで左手に溜めた血を顔にぶつける。驚きに支配され顔から
汚れをのけようと夢中になった所にとどめを刺す。ここで周辺の全員に気づかれる。
残り4人。突然現れた所属不明の人物に驚き一瞬硬直し、なおかつ一番近かった__
ダッシュで5歩ほどの距離にいた生徒を狙う。斧が背に隠れるように持って近づく。
まだ固まっていることに安堵しながらさらに距離を詰める。刃を相手の首の右側に
向けて突き出し、首を切られた!という焦りを与える。そのまま相手の背後に回り、
よく強盗が人質を取るときのような位置へと動く。まぁ実際人質を取るから、
ような、ではなくそのものなのだが。
「私は治安維持責任者の打首塚だ!ここにいる全員に武力抗争の停止命令が
出ている。従わない場合、殺害をもって事態を収束させる。いやというなら
今すぐ武器を捨てて投降しろ。」
お決まりの文言を口に出しつつ身分を明かす。これは賭けだ、と自分を落ち着ける
ために考えを巡らせる。応じて武器を捨てるなら上々、従わないなら…
どうしようかとオロオロしている
蹴りつけられ首の落ちたお友達をプレゼントし脳天を斧でなるべくきれいに割る。
動かなくなったのを確認して、ようやくこちらに魔術を放とうとしている二人に向け
じゃあさよならだ!と大声で威圧して恐怖でさらに考えを乱す。
身体を傾け、後方の生徒が魔術を放つと味方に当たる位置に移動する。
味方がひき肉に変わる光景を想像して歪んだ顔を視界の端に移しながら腹、目、脳と一直線に結ぶ断面を作る。振り上げたことにより一番長い持ち手が上になった斧の
斧頭側にある持ち手をしっかりと掴み、思い切り振り、頭へと落とす。
切るのではなく金属の固さで割り、残った一人と向かい合う。
不意打ちや人質でまともにやりあわなかったのは相手の攻撃が一発カスるだけでも
もうこちらは戦えないから。彼らは命中率が終わってるだけで火力は一線級なのだ。
巻き込む味方がいなくなった以上、向こうはなんの遠慮もなく攻撃してくる。
しかもまだ距離があり一撃を与えるには時間が足りない。こちらの攻撃を当てる前に
相手の攻撃が当たってしまう。斧を投げれば距離の不利は消せるが外した時や、
即死させられなかった時にもう打つ手がなくなってしまう。…このままでは負ける。
斧がこの形のままだったなら。斧頭側の持ち手を左手で持ち、長い持ち手を
右手で握る。左の親指でボタンを押し込み、右手を振り抜く。
謎のボタンは斧のロック。長い持ち手は鞘。この斧には仕込みがある。
斧の刃部分に仕込まれた第二の刃、直剣!
鞘から抜いた直剣を足に向けて放ち、平面と靴を結ぶ。
意識と視線を下側に向けたら良好。頭まで下げたならそれでおしまい。
そこに
「…打首塚による打首ってワケね。いやこりゃ斬首か。」
一呼吸をいれ次に向けて息を整える。
割と近場にいた植物操作学生徒を枝で傷つけられながらも処理し、すでに倒れていた
エネルギー操作科からエネルギーが充填された箱を拝借した。
まだ生き残っていた機材開発科の生徒に挨拶しつつ斬り捨て、まだ使える銃器を
回収。これにより弾と武器が手に入ったため近距離は大斧剣で応戦、
空中のドローンや獣を銃の乱射で撃ち落とす。こうして使い魔学・ドローン科の
双方を制圧した。その他の勢力は相当遠方にいるかすでに壊滅しているかのどっちか
だろうと見切りをつけ、スーパーメカバトルしているデカブツ二体に目を向ける。
さてどうするかなと一考する。
あまりに巨大な相手は人間サイズの相手をするのが厳しい印象がある。
小回りが利かずいい的になって倒れるのが大体のパターン。
が、それはデカブツを削れる能力なり武器なりがある場合の話。
流石に大きいとはいえ人間が持てる常識サイズの斧と剣だけでは難しい。
「んー、パーリナイをパクって要塞に突撃が丸い…かな…」
鎮圧する側としても消極的な策を練る事しかできなかった。
さてあの光の海をどう越えようかと走って近づきつつ考えていると___、
まずクッキーを型抜きしたみたいにパーリナイの右側面部がズッパリと抉られ、
ッゴオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!
遅れて轟音が平面中に駆け巡った。風が荒れ狂い、
すでに倒れた者、まだ立って戦っている者関係なく吹き飛ばしていった。
私も吹き飛ばされそうになったが平面に斧の刃を全て埋めるように振り下ろし、
長い持ち手にしがみつき風の抵抗が一番少なくなる姿勢、つまりは平面に抱き着いているような形になった。力を込めるべく叫んでいたのだがかき消された。それほどの暴風だった。風が収まるのを待ち、状況を見るべく周囲を見渡すと
ピンク色に輝く直径15mほどの魔法陣が空中に連なって浮かんでいた。
ただ不思議なのは、魔法陣がパーリナイに直接当たっているわけではなく
大分ズレた位置にあったこと。それが魔法の砲弾が命中したわけではなく通り抜けた風圧だけであのパーリナイを抉り切ったのだと後ほどの調査で判明し、冷や汗が
止まらなくなった。射線上にモノがあったら一体どうなっていたのだろうか。
ド派手な脅威は謎の魔法陣によって排除されたがまだ問題は残っている。
一体誰があんな攻撃をしたのか。そしてどうやって要塞君を止めるか。
うるさかったパイロットはとっくに逃げ出しているため、コックピットに
たどり着けば楽に鹵獲できるがもう動かせそうにない。要塞君を相手取れるロボを
動かせなくなってしまった以上戦場の残り物をかき集めてなんとかするしかないが、それもさっきの風で遠くに吹き飛んでしまった。武器の補充は一度使ってしまった
ためまだ使えない。これは最寄りの武器庫に走って直接取りに行った方が速いか…?と考え始めたタイミングで要塞君の動きが止まった。
「…?」
なにか大きな出来事があったようには見えなかったが…これはどういうことだ?
新たな問題にどう対処するか決めあぐねていると、デカブツをそれぞれ動かなくした
張本人たちがやってきた。
「まじかよ、出てくるかよ2トップさんよぉ…!」
連日の研究疲れが表に出まくっている白衣の美人。
それがどんな攻撃であれ確実に命中させる脅威の標準
科学研究棟最高責任者 実験院 ロジカルサイエンスラボ 質実。
「チッ、相変わらず停止以外の効果なしか。また計算のやり直しだな…」
よくわからないパーツがゴテゴテと付けられた銃に見える武器を降ろしながら
そんなことを言う質実最高責任者。他にも効果をつけていたらしいが、
効果が出ていたらどうなっていたのだろうか?
粗暴な態度だがそれを塗りつぶすカワイイコスチュームに身を包む魔法少女。
既存の法則を越える機能を引き出す力、
魔術修練校特別統括長 修練園 マジカルアーツメイカー アダバナ。
「ああ~~~???まぁた外れたかああ!これ撃つの疲れるんだけどなあああ。」
当たらずとも風圧だけでパーリナイのみならず戦場の全ての光と音を吹き飛ばした
魔法陣を操る、アダバナ特別統括長。直接命中した光景を目にした誰かは本人以外にいるのだろうか?
この二人が今ここでやりあってしまったら事態の収束が出来なくなり、私の仕事が
未達成になってしまう。そうなったら…一体何が起こるのが謎だ。しかし間違いなく
恐ろしい目に合う。あの謎に包まれた人員管理責任者に何をされるのかなんてのは
考えたくもない。
謎パワーで宙に浮かぶ二人に向け急いで声をかける。
「どうも!脱走・逃走防止及び校内治安維持責任者の打首塚 畜生道です!
お二人さーん!!!一体どういう事情で出てきたんですかー!」
科学者は苛立たし気に、魔法少女は無気力そうに、面倒そうな顔を向けてきた。
「バカどもが騒がしいから出てきたまでだ。」
「ええっとぉ。皆が盛り上がってたからああぁ…」
…つまり二人の知らない所で彼らは抗争に踏み切ったのだ。
どちらか片方だけが代表に気取られることなく突発的に相手に仕掛けだした、
なら理解できる。単純にそういう機運だったのだろうと。そんな速度で研究や修練をしている連中が構想の準備が出来るかはさておき。
あんなに見事に合わせたかのように、お互いに構想に踏み切る…のは偶然にしちゃ
タイミングが合いすぎている。…妙だ。ランダムでイカれた連中だとは言えそんな
ことがあるだろうか?
「お二人に全く知られず、かつせーのでタイミングを合わせて仲良しこよしに抗争を開始できますかねぇ?」
確証はなかったがとにかく『目の前のタイプの合わなそうな思想の全く違う相手』と
二人がぶつかり合うことを避けるべく全力で二人が食いつきそうな話題を用意した。
「…まぁ確かに。」
「ん~?なにか仕組まれていたってことぉぉぉ?」
「…そう考えるのが自然だと思いますよハイ。」
とりあえず話に乗っかってくれたので肯定して一緒にこの問題をどうにかしましょという方向に話を誘導する。
「誰かさんがお二方の仲間や部下を騙くらかして喧嘩させたんですよきっと!」
「それは、誰が、どうやって、なんのためにやったんだろうな。」
「そぉねぇ…意味も考えもなくこんなことしないよねえええ…」
「そおですよ!だからこの三人で協力して犯人を…」
科学と魔術の双方が能力を合わせれば一瞬で見つけられる…
「だがそういうことを言いだす奴ほど怪しい…という事はわかっているな?」
あ???もしかして、墓穴った?
「…てなことがありまして。じゃあお前が犯人を見つけろ~となりまして。
仕事を解決するために仕事が増えましたとさ…」
「は~。まぁお前の方はまた厄介ごとしょい込んだみたいだけどよ。
ま、それはそれとして。すげぇモンは観れたよ。観れたけどさ、
結局なーんで俺の事呼んだの?」
不思議そうに私の顔を見る今込教員。
「まぁ、聞きたくもなりますよね。」
面倒ごとが増えた、と落ち込む心を押さえつけ、
さりとてやけになりかけつつ、今込教員と話を続ける。
「まぁヒマそうだったってのと…」
「おい失礼だなおい」
「人に見られてる方がさ!仕事ってのは真面目にできるもんじゃん!?
だから監視役として…さ…」
「んだそりゃ。監視カメラでも置いてライブ中継でもしとけよ。」
「いやいやカメラて!いや意識はするけどさぁ!まぁ監視はともかく
生でこういうの見た方が楽しかったっしょ?サンドも食えたしさぁ!」
「いやサンドは旨かったが…」
…なんてことを言いあいながら職員室へ向けて歩き出した。
また面倒な事情こそ増えてしまったが、まぁまだ先はある。と。
朧げで、空ろで、儚さまみれの未来ってやつに期待と自分の命運をぶん投げて、
とりあえず今夜の配信はどうしようかとない頭を考えながら自宅へと向かった。
ひとまずこれにて一時打ち切り!次回にご期待!
治安最悪!地下世界録!!! 打首塚 畜生道 @utikubiduka
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