第43話 気持ちは騙せない

「追わなくていいのかしら? 」


「…… 」


「そう、貴女あなたはノンケさんって所かしらね…… 」


 Barの美しい年増の女性が語る。きっと此処のママさんなのだろう、落ち着いた雰囲気から物悲し気な哀愁が溢れだし、更にその美しさを妖艶なまでに包み込んでいる。そっと視線を交わすと、まるで心を見透かされたように思えた……


「叶わぬ恋に貴重な時間を捧げたのね彼女…… 」


「―――!! 」


「好き? 嫌い? 必要? 不必要? この先が怖い? じゃあ辞める?彼女を捨てる? 必死に支えて来た彼女を傷つけてまでも…… 今は答えが出ないかもしれない、でもその先に答えが有るかもしれないのよ? 」


 俯いた瞳から自然と涙が溢れ、握った拳を濡らす―――


 多分、分かっていた、この抑えきれない気持ちの意味を。でも怖かった、認めてしまう事で追い込まれてしまうのではないかと…… でも、その答えを出すのは今じゃない―――


 ―――溢れだす涙の意味が今分かった。


 一万円をカウンターに叩きつけ店を飛び出す!! 


「若いっていいわね~ 手を離したらダメよ」


 



 急げ、きっと大丈夫、此処はゲイが多い二丁目。女の子に絡む危ない奴は少ないはずだから…… 女の子らしくない性格で良かった、スニーカーとデニムがその機動力を底上げしてくれる。走れ―――


 ―――お姉ちゃん⁉


 入り組んだ路地の脇、ヒールが散乱している。楓のだ!! 若い男達に囲まれ、からまれてる。多分追い掛けられて転んでしまったのだろう、気の強い彼女が弱々しく涙に憂いでいる。


 泣かせてる―――

 ―――私の大事な人を此奴らが……


 鼓動が一気に跳ね上がると感情がうねりを上げた。


 ――ゆるさない ゆるさない ゆるさない――

 

 不甲斐ない自らの愚かさと、情けなさが込み上げ、心で化学反応を起こし怒りが爆発する。


「彼女から手を放せ――― 」


「何だぁ? 随分ずいぶんと可愛らしいおチビちゃんが出て来たな? お嬢ちゃんも遊んでやるよ、こっちにこい」


「五月蠅い! 今すぐ彼女から手を放せ、じゃなきゃ只じゃおかないぞ! 

私の彼女から手を放せ!! 」


 楓は涕乍なみだながらにびっくりした表情を見せる。


「は⁉ 聞いたかよお前ら、此奴らビアンカップルだってよ、笑うぜ。なら大事な彼女を守ってみろよホラどうした? かかってこいよ」


「わっ私の彼女に手を出すな!! 手を今直ぐ離せコノヤロー」


 殴り掛かろうと覚悟を決め、飛び掛かった刹那、目の前の店のドアが開き、怒号が辺りに轟いた―――


「るっさいわね、人の店先で何よ? ヒーローごっこか何かかしら? いい加減にしないとぉ…… 殺すわよ? 」





 中から口紅を塗った毛むくじゃらのメカゴジラが現れた。

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