第30話 十人十色

 すると楓がジャーと便器の水を流し何事も無いように出て行った。私は僅かばかりのドアの隙間に身を隠し、乗り切る覚悟を決める。この個室は入り口から一番奥…… 3人からは丁度中までは見えない、死角に位置するのが幸いした。


「あら、これは楓さん、ごきげんよう。随分と失礼しました。いらっしゃったのですね? 」


「えぇ、ギャーギャーと、お蔭で落ち着いてゆっくりも出来なかったけど」


「ふん、流石万年No,3の楓さんですこと。おトイレでサボってらっしゃるなんて余裕ですね? 」


「はぁ⁉ あんた誰に向って口聞いてるのよ!! 」


「あ~ハイハイ。所でこれなのですが、まさか貴女の物では無いですよね? 」

京華は口元を掌で隠し、汚い物から目を背ける様に足元を指差した。


「うぇ、何それ…… 汚なぁ…… それこそ貴女の趣味じゃないの? 私そんな子供っぽい下着、趣味じゃないし。何それウケるんだけど熊さん? 」


 ―――クッ、かっ楓めぇ……


 すると扉がまた開くと、ピンク頭のリリアが現れた。

「お~ちゅッれ~すぅ。お~じゃま~しま~すぅ」


(あんたお兄ちゃんのヘルプどうした? おい)


 ぴんくつむつむリリアちゃん、張り詰めた空気もなんの。ドタドタと所構ところかまわず元気いっぱい奥まで突っ走ってくると、私が隠れている個室に飛び込んで来た!!


 ―――げぇッ⁉


 咄嗟に口を塞ぎり込むと、バタンと扉を鳴らし鍵を閉めた。なにこれ犯罪じゃん…… 私はレイプマンか⁉


 バタバタと鯖の様にビチビチ暴れまわるピンクツムツムの眼前に、指を立て静かにしろと促した。


「楓さん貴女あなたずいぶんと野性的なルージュの引き方をなさるのね。まぁ変人の貴女にはお似合いだこと。スイカでも食べたの? 」


 ―――そりゃあね。ラクダぺろぺろ妖怪垢嘗あかなめ君だし。


「お手数ですが、その汚い物はゴミ箱にお願いしますね」

そう言い残すと京華は金魚のフンとトイレを後にした。


「ちょっ⁉ 何で私が…… チッ」


 ――チッじゃない! 原因は君だよ⁉


 モゴモゴと涙目で訴えるツムツムを野に放つと……


「えぇ~ やだぁ、いちかちゃんて、そう言う感じなんですかぁ?」


「そう言う感じって…… なに?」


「もぅ~ ぐっしょぐしょ~ だぉ~」


 ―――ハイ⁉

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