最終話 ふたり

 影山は淋しかったんだ、ずっと独りぼっちで。

 独りになったから気づける。

 一人になったから理解できる。

 本当はすごく淋しいのに、心細いのに、自分は独りに慣れているんだと言い聞かせて、独りの世界に閉じこもって。本当はそういうキャラじゃないのにクールに振舞ったり、読書をしたりして。

 そんな彼を暗くて冷たい世界から救ってあげることが出来た。

 私の心は、得も言われぬ幸福感で満ち満ちていた。

「一人すっとばして二人になっちゃったね」

この幸せを声にのせて少し明るくなった影山に言うと、彼は可愛らしく顔を赤らめて

「あ、あくまで校外でだけだから……。学校では一人ずつで……」

口調を柔らかくしてそう言った。

 影山もこんな顔をするんだ。素直にそう思った。

 能面のように無表情しか見せなかった影山の照れたような愛くるしい表情。今、そしてこれからも、この表情は私だけのものなんだ。そう思うだけでまたしあわせが溢れてくる。


 これからも私は影山のこういう顔をたくさん見て行けるんだよなぁ。笑顔も、泣き顔も、怒った顔も、照れた顔も。全てが新鮮な一面。

 次は、どんな表情を見せてくれるのかな。考えるだけでニヤけずにはいられない。これからの毎日が楽しみで仕方ない。


 独りと独りでは見栄を張って本当の自分を包み隠して、暗くて怖くても平気そうに振舞っちゃう私たちだけど、今日からは二人なんだ。お互いを支え合って、慰め合って、ケンカしあって、高め合って、そうやって楽しく毎日が進んで、日々成長して行ける。

 そんな風に考えると、これから立ちはだかってくるだろう困難な出来事も乗り越えられる。なんとなく。なんとなくだけどそんな気がした。

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ひとり 三宅天斗 @_Taku-kato

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