第10話 お出迎え
非常に面倒臭い事態になった。
結界邪魔だなぶっ壊そ〜とか考えてそれを行動に移した結果、僕が侵略者みたいになってしまった。
考えるに、恐らくこの結界を
警戒すべきは、真夜と
大丈夫、僕の顔を見せれば……と思って何となく自分の顔を触り、当然の事実に気付く。
「僕燃えるから顔出せないじゃん!」
くそ、逆に気付かないとかアホかよ僕は。
仮面を外して顔を外に晒せば、日光によって即座にイグニションだ。痛覚を遮断できるから僕に痛みはないけど、炎が邪魔をして顔が見えなくなる。
そうなれば真夜と小夜の二人に、僕が兄弟である
まずい。最悪なのが真夜と小夜の二人と敵対することだ。多分真夜だけじゃない、小夜も異常な能力を持っている筈だ。言葉のキャッチボールじゃなくてドッジボール……命のやり取りに発展する。
僕達三人で勝てるのか……?
「……ま、いいか」
散々悩んだあげく、思考を放棄した。別に諦めるという訳ではなく、どうにかなるだろうという楽観的思考の結果である。本来であれば非常にイケナイ方向なんだけど……今の僕は吸血鬼だし。
そもそも室内で会えばいいだけの話だ。室内までちゃんと付き合ってくれるならだけど。
「よ〜し取り敢えず町に入ろう」
「そんな適当で大丈夫なの?」
「まあ多分大丈夫でしょ」
既に完全に修復された結界を背に、町に向かう。町の住民達にはどんな言い訳をしようか。この結界を張った時に恐らく真夜と小夜は町人達と会話しただろうし、二人の名前を出せばいけるかな。
「よ〜し、レッツゴー!」
「あ、待って」
「お待ちください」
意気揚々と一歩目を踏み出した瞬間、同時にレイとティアに呼び止められた。
「どうしたの?」
「町から誰か来る」
「え、マジ? 真夜と小夜かな」
「いえ、どうやら集団のようです」
集団? 町人が大人数連れてゾロゾロとこっちに近付いてきてるってこと? ヤベッ、捕まるかも。
目を凝らすと、僕にも動く影が見えてきた。
「結構いるな……ニ、三十人くらい?」
「そのようですね」
追いかけ回されても面倒なので、こちらから集団の方へ近寄って合流しようと歩く。
互いにかなり近付き、先頭にいる人間がどうやらシスターのような恰好をしていることに気付いたのと同時に、そのシスターさんが大声を上げた。
「──そこの三人! 止まりなさい!」
高いがしっかりとした女性の声。なかなか強い喉をしてらっしゃる。威圧感も十分あるし。
「分かりました〜!」
同じくらいの声量で返事をして、立ち止まる。
少しして、僕達から十メートル程離れた所でその集団は進行を止めた。
シスターさんの後ろには、白い服を着てヘルムを被った兵士達が並んでいた。少し装飾の違う鎧を着た一人が、シスターさんの斜め後ろに立っている。
あの人だけは何か特別なのかな?
「あなた達、何者ですか?」
シスターさんは眉根を寄せた表情のまま、僕達の見た目にも怖じ気付かず気丈に話しかけてくる。
「別に、見た目以外は怪しい者じゃ──!」
「そんなはずがないでしょう!」
シスターさんは速攻で否定してきた。
「この結界は、マヨ殿が張った邪悪なる存在のみを弾く結界です! それをわざわざ破壊して侵入するということは、結界に弾かれた存在ということ!」
……う〜ん、ヤバい。正論だ。
まさかそんな効果付きの結界だったとは……真夜め、面倒なことをしやがって。お前の兄弟が邪悪な存在として転生してくるとは考えなかったのか。
ま、普通考えないよな。僕も考えない。
さて、それはともかくどう言い逃れようか……。
「ショウ様、ここは私が」
「レイ。何か案があるの?」
「全員殺します」
「ダメに決まってんでしょーが」
離れててよかったよ。僕達がポソポソと喋ってるから不審がってるくらいで済んだけどさ。
いやでも本当にどうしようか。いくら僕でも流石に殺しゃしないけど。そこまで人間辞めてない。
「えっと、別に危害を加えるつもりはないので!」
「そんな言葉は信用できません!」
デスヨネー。
「じゃあ、真夜と小夜を見つけたらすぐに出ていきますから! 僕の姉妹なんです!」
「…………そう来ましたか」
シスターさんはそう呟くと、後ろに控えた鎧の人と何かこそこそと話し始めた。
吸血鬼になってから、どうやら聴覚が強化されたみたいだけど、その話の内容は聞こえなかった。
「何か面倒臭いね。無視して逃げちゃう?」
「いや、執拗に追い回されるよりはマシだよ」
暇になったらしいティアと適当に話していると、話を終えたシスターさんがこちらを向いた。
「名前を聞かせてください!」
「ショウです! 大蜘蛛宵!」
その質問に、片手を上げて答える。本当は両手を上げたかったけどティアを抱いてるので仕方ない。
シスターさんはもう一度、鎧の人と何かしら話をこそこそとして、悩む様子を見せてから僕を見た。
「……いいでしょう。こちらに近付いてください」
「いいんですか?」
「いいと言っているでしょう。ただし、妙な真似をすれば即座に、彼女があなた達を斬り伏せます」
くいと親指で背後を示すシスターさん。どうやら鎧の人は女性らしい。だから何だというところだけども。僕はそこまで異性に飢えてないよ。
「マヨ殿とサヨ殿にご兄弟がいるのは、確かに事実のようです。しかし、だからと言ってあなた達を町に放置することはできません。なので、私と彼女があなた達の監視をします。その場合も何か妙な真似をすれば、彼女が斬り伏せます。いいですね」
シスターさんはこちらの話を聞こうともせず、頭ごなしに話を進めていった。まあ、仕方ないか。
「分かりました。ではそういうことで」
よろしくお願いしますと差し出した手を、無視はできなかったのか怪しみながら取るシスターさん。
ここまで近付くと流石に不安なのか、視線を僕の顔やら足下やら鎧の人やらキョロキョロさせながら手を握ってきた。……骨が軋む音が……。
兵士側に回った方がよさそうな怪力だな。
「町に入りましょうか。皆さんも戻ってください」
僕の手を離して振り返ると、シスターさんは兵士達に命令を下した。兵士達は敬礼をすると、列を崩すことなく帰っていった。よく統率されている。
「行きましょう」
「は〜い」
シスターさんの後を追って、町に行く。異世界に来て初めての人間の居住地。そういえば、シスターさん達が初めての現地人ってことになるのか。
その辺のことを考えると改めて思うことがいくつかあるけど、物思いにふけってる暇はないし。
は〜ぁあ。ちょっとぐらいゆっくりしたいよな。異世界に転生したと思ったら、吸血鬼だし燃えるし潰れるし蹴られるし食われるし燃やされるし。
それもこれもクソ女神のせいだ。あー、な〜んか苛ついてきた……後でレイでストレス発散しとこ。
まったく、早く真夜と小夜が見つかってくれれば安心してゆっくり休めるってのに。
どこいったんだよアイツらは。
とか何とか、心の中でぐちぐちと呟いていると、町の入口である門の前に到着した。兵士達が通った後なので、大きな鉄格子の門が上がっている。
「さあ、マヨ殿とサヨ殿を捜しましょう」
町に入り、中世ヨーロッパとは似て非なる町並みに僕が感動する隙も与えず、シスターさんが言う。
ん? そういえば……。
「ところで、監視とは言え、どうしてそんなに真夜と小夜の捜索に乗り気なんですか?」
「はあ」
僕の疑問に、シスターさんはさも当然であるかののように、サラッと答えた。
「私達もちょうど、マヨ殿とサヨ殿を捜すように国から言われてるんですよ。先程の兵士達も、今現在お二人を捜索中ですし」
「え、アイツらも何かやらかしたんですか?」
やっぱりそうか。そうだと思ったんだよな〜。
「いえ。保護という名の独占のためです。何せマヨ殿とサヨ殿は、非常に強力な天使と精霊ですし」
…………あーね。そっち……。
不死王はスローライフができない 裏蜜ラミ @kyukyu99
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