地獄変(4)
花によれば、地獄で反乱を起こした陰陽師は、
篁は、その名前に聞き覚えは無かった。
どうやら、その道摩という者は朝廷に仕えている陰陽師ではなく、民間の陰陽師であるようだ。
冥府へとやってきた道摩は、冥府裁判で地獄行きを宣告されたため、地獄へと送り込まれた。地獄の門を通過した時は無抵抗であり羅刹たちに従っていたが、地獄の門が閉じた瞬間に本性を現したという。
地獄の門が閉じてしまえば、冥府側からは地獄で何が起きているのかはわからない。そのことを道摩は最初からわかっていたかのように動いていた。道摩が召喚した式神は通常であれば地獄に呼び出すことはできないようなものであった。狐の姿をした巨大な式神は、九尾の狐を思わせるような化け物であり、次々と羅刹たちを倒していった。
この道摩の動きに呼応したのが、地獄へと送り込まれていた罪人たちだった。罪人たちは羅刹から奪った武器を手に取り、暴れまわった。罪人たちは、地獄へと送り込まれるような連中であるため荒事には慣れていた。
そして、道摩は罪人たちを指揮し、次々と地獄の各地にある羅刹の詰め所などを攻め落とした。
「その道摩は、なぜ式神を持ち込めたのだ?」
篁は率直な疑問を花にぶつけた。
「わかりませぬ。冥府に入った時点で、式神との契約は無効化されるはずなのですが……」
「誰かが式神を使えるようにしたということは?」
篁の言葉に、花ははっとした表情となる。
「まさか……」
「その可能性は無いとは言い切れぬだろう。誰か信頼できる者を使って調べた方が良いぞ」
「そうですね」
花はそう言うと、すぐに羅刹を呼んで何かを告げる。
指示を受けた羅刹は何人かの羅刹を連れて、陣を出ていった。
「して、私は何をすれば良いのだ」
「そうですね……。篁様には、道摩を探していただければと思います」
「道摩の行方は知れないのか」
「はい。罪人たちが徒党を組んで各地の詰所を制圧して回っていることはわかっております。なので我々、反乱鎮圧軍は制圧された詰所を取り戻すということをやりながら動いていますが、どこの詰所にも道摩の姿はありませんでした」
「なるほど、道摩は最前線にいると考えた方がよさそうだな。しかし、反乱軍の最前線がどこにいるかを知ることは難しい……」
「でしたら、こちらをお貸ししましょう」
「これは?」
花の手のひらには小さな
「
「千里の眼?」
「はい。その名の通り、これを身に付ければ、千里先まで見渡すことが出来るようになります」
「そんなことが可能なのか」
「はい。冥府で作られた術具です。こちらを篁様にお貸しいたします」
「これを使って、道摩を探し出すということだな」
篁は花から勾玉を受け取った。
「どう使えばいい?」
「その勾玉を握って念じれば良いだけです」
「そうか」
篁は目を閉じ、そっと勾玉を握りしめた。
漆黒の闇。その中にひと筋の光が現れる。光を見上げると、自らの身体が浮かび上がるような感覚になる。飛んでいる。空高くに身体は浮いている。見下ろす世界は、地獄。真下には花の陣があり、周りには罪人たちの死体が積み上げられている。
少し離れたところへと目を向ける。
小さな砦のようなものが見える。そこには人間たちが武器を持って立てこもっている。周りにあるのは地獄の羅刹や鬼たちの死体だ。どうやら、この砦に立てこもっているのは反乱を起こしている罪人たちのようだ。
ここに道摩はいるのだろうか。
篁はその砦を中心に周りを見て回る。
しかし、そこには陰陽師らしき人間はいない。
考えてみれば、篁は道摩がどのような人物なのかは知らなかった。
勝手に朝廷に仕える陰陽師たちのように
道摩は、どこにいるのだろうか。
その砦を抜け、また違う場所を見に行く。
まるで自分が鳥にでもなったような気分だった。
しばらく周りを見ていると、かなり離れたところに、禍々しい気配があることに篁は気づいた。
行軍。武器を持った人間たちが大勢いるのが見える。
禍々しい気のようなものは、そこから立ち上っていた。
道摩法師。
見つけた。
この男が、道摩に違いなかった。
薄汚れた狩衣に烏帽子姿。
巨大な狐のような化け物の背に跨っている。
ここから数百里離れた場所だ。
「道摩を見つけた」
目を開けた篁は、花に告げた。
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