内田真人【17歳】『リアル人生デスゲーム』<ゲーム終了後の夜・自宅>

 アパートに戻った身も心も疲れ切った二人は、ソファに腰を下ろした。


 真人は言った。

 「もうすぐ旅行から母さんが帰ってくるけど今夜は家に泊まっていけよ」


 「うん。服が汚れたから何か貸してもらえる?」


 「母さんのスウェット貸してやるよ」


 笑顔になれない二人は、真美の寝室へと向かった。


 壁に立て掛けてある姿見を覗き込んだ直美は、疲れ切った自分の顔に触れた。


 「酷い顔……」


 「スウェット、どこにしまってあるのかな?」


 クローゼットの扉を開いてみると、内部は数々の高級ブランド品に埋め尽くされ、目を疑う光景が広がっていたのだ。

 

 シャネル、ルイヴィトン、プラダ、クロエ、グッチ。


 「これは一体……偽物だよな? だってウチにそんな金ないし」


 「偽物って見分けが難しいんだよ。友達が偽物のクロエの財布持ってたけど、ぜんぜん気づかなかったもん。お母さんが帰ってきたら訊いてみたら? たぶん偽物だと思うよ」


 「そうするよ」と返事した真人は、タンスを開けた。するとスウェットが入っていたので、直美に渡した。「これでいい?」


 「ありがとう」スウェットを受け取り、この場で素早く着替え始めた。


 その様子を見ても、ゲームのときのように欲情しなかった。

 「ゲームの最中はぶっちゃけ下半身が疼いた。怒りや食欲も半端じゃなかった。まるで獣だった」


 「あたしもだよ。ゲームがそうさせた。あたしたちを狂わせたのよ」


 そのとき、クーラーボックスを肩に掛けた美由紀の姿が正面の姿見に映った。ふたりは振り返って美由紀を見る。


 「お帰り、母さん」


 「ただいま」と言ったあと、真人に訊く。「クローゼット開けて何してるの?」


 「このブランド品どうしたの?」と、クローゼットの中を指した。


 「恥ずかしいけど、偽物よ。言わなきゃバレないからね」


 「やっぱりそうだったんだ」


 食卓テーブルの上にクーラーボックスを置き、ふたりに言った。

 「おいしいハンバーガーがたくさんあるのよ」


 真人と直美は、美由紀の手と足に視線を移した。左人差し指には絆創膏が貼ってあり、そして右足首には包帯が巻かれていた。


 真人は尋ねた。

 「その怪我、どうしたの?」


 「ちょっとしたことよ。ハツの串焼き食べてて、串を指先に刺しちゃったの。足は階段から転倒したの。ホント、あたしってばそそっかしい」


 「まさか……」と言った真人は直美と顔を見合わせ、美由紀に尋ねた。「コンビニの店長は?」


 「彼なら……好きになった男は食べるにかぎる……」口元に笑みを浮かべた。「うふふ……冗談よ。旅行の最中に喧嘩しちゃったの。そしたらどこかに行っちゃって、捜索願を出したんだけど、行方不明よ。どこに行っちゃったのかしらね? でも別れたからいいわ」


 真人と直美は気づいてはならないことに気づいてしまった。『ローン地獄』は美由紀だったのだ。そして、真人の父親を殺害したのも美由紀……その死体は食べたため、未だに父親は行方不明のままだ。


 真人らが殺害して山に埋めたコンビニ店員の佐久間和樹を、車のトランクに放り込む際、“実はオレも”と、彼が言いかけていたことをふたりは思い出す。


 “じつはオレも”その言葉の続きは、“実はオレも殺人依頼を頼んでるんだ”


 犯罪者同士で秘密を共有すれば、互いに警察には喋らない。喋らないから見逃してくれと言いたかったのだろう。その依頼した殺したい相手は、店長。ボナンザに殺人依頼をし、『ローン地獄』である美由紀が彼を殺害した。


 殺人依頼をして、互いに殺される運命だった。しかし、これはあくまで推測に過ぎない。真相は、雑木林の地中に眠る佐久間のみぞ知るところだが……そんな気がした……


 一番恐れていたいかれた女がまさか自分の母親だとは思わなかった。いままで何人の男を料理し、喰ってきているのだろう……


 (浪費癖があったのは母さんのほうだ。あのブランド品もすべて本物……)


 「さあ、おいしいハンバーガーを食べなさい」と言った美由紀は、クーラーボックスの中から、ハンバーガーをふたつ取り出し、ふたりに差し出した。「すごくおいしいのよ。ミラクルソースが味の決め手なの」


 ハンバーガーを受け取ったふたりは、顔を強張らせた。

 「……」

 (これって……あのコンビニの店長の肉……)


 ゲームの駒の『獣医師』と『食いしん坊』がふたりだと知ってか知らずか、平然とした表情でふたりを見つめた。

 「遠慮しないで食べなさい」美由紀もハンバーガーを手にして、それを包んでいるサランラップをはずし、ひとくち頬張った。すると、美由紀の口元の端から黒い髪の毛が一本垂れ下がった。


 美由紀は口から髪の毛を引っ張り出して眺めた。髪の毛は黒髪で短髪。美由紀は茶髪のロングヘアだ。明らかに自分のものではないのだが、「わたしの髪だわ」と言って微笑んだ。


 一瞬、静まり返った室内に、全員のスマートフォンの受信音が鳴った。


 三人は受信したメールを確認する。


 【本文】


 『リアル人生デスゲーム』お疲れ様でした。


 またのご利用お待ちしております。


 ギャンブルサイト 『BONANZA!』

 

 【END】





 ・・・・・・


 【終わり】


 楽しんで頂けましたか? もしよろしければ、感想お待ちしてます。

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BONANZA ~戦慄のギャンブルサイト・双六人生デスゲーム~ 愛花 @mitutukiayumu777

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