マリとマリン 2in1  舞花

@tumarun

第1話 舞い踊る

「翔、すごいよ、桜の花が川面に雪崩れ落ちてるよ。うわぁ うわぁ」


河川の土手に植えられた桜が丁度見頃になっているというのできてみた。観光で市外から見にくるほどではないけど地元の名所と言える桜並木。斜めになっている地盤に植えられているお陰で枝が川を覆うように伸びているためか、花が咲くと丁度川面に落ちているように見える。

 土手にある小道を歩いて行く。小道の上にも枝が張っているから、桜の花のカーテン越しに対岸の桜が見える。見応えのある景色が広がっていた。


「すごいねぇ、桜の華に囲まれてるぅ。」

「桜一色だね」


 近くの保育園や養護施設から見にきたのであろう、小さな子や人生の先輩たちが一緒っに桜を楽しでいた。

 すると丁度、土手にある柵が切れているところがあって、土手を降りて下を流れる川まで降りる小道があった。多くの、やんちゃな人たちが歩き、踏み固められてできたもの。


「下に降りる道があるのぉ、降りてみるね」

「おい、足元気をつけないと滑るよ」


 茉琳は、滑ることなく小気味よく下に降りて行った。川も浅いのだろう、足場にできるくらいの石があり、対岸へ渡っていけそうだ。その石を伝って川の中程に立つ茉琳。頭を左右に巡らせている。


「桜の華に埋もれそうだよぉ〜、すごい、すごい」


 手を振り上げ、するりするりと体を回している姿は、何かの舞踊を踊っているように見える。すると川面を滑るように風が吹いてくる。少し強めの風が花桜の花を散らし、舞上げ、吹雪いて行く。茉琳も花吹雪に紛れて見えなくなってしまう。

 桜吹雪の中、茉琳は動きを止めない。まるで茉琳の手足の動きに合わせて桜吹雪が流れて行くように見えた。茉琳が桜の花びらと戯れているように見えるのだった。やがて風も止まり花吹雪も川面に漂うか、風といっしょに去ってしまった。


「翔ぅ、楽しいねぇ」

「はしゃぎ過ぎるなよー、足踏み外して落ちるよ」

「了解だしー 」


 茉琳は行きに使った石を足場につ岸まで返ってきた。最後は翔が手を出して引き上げてあげた。


「えへへっ」

「茉琳、桜の花弁残ってるよ」

「どこどこ、わかんないよぉ〜。翔ぅ、とってえ」


 残って残っていたのは小鼻の上。翔は慎重に指で挟む。茉琳は指先を見てきるから寄り目になってしまう。


「いい顔、笑える」

「ひどいなりぃ」


 花弁をとった下にはコンシーラーでも隠せない窪み。ボディピアス科鼻ピアス目ノストリルの跡。消えるのには時間がかかるようだ。


 実は耳にも跡が残っている。翔にはそんなにまでしてアピールすること自体がわからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マリとマリン 2in1  舞花 @tumarun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ