第7話

「ムーヌスさん」道端で偶然出会ったようなとぼけた声。

「ムーヌスさん、じゃねえよ。何でこんなとこにいるんだよ」

「何故って、神変えですよ。理由はご存知でしょう」と当たり前だと言わんばかり。


 この世界に神はいない。

「どの神に鞍替えする気なんだ」何を選んでも基本的に代わりはない。

「彼は17神教の教徒になられるそうです。最近聞くなですが、そんななんの恩恵も与えてくださらない神を何故奉じるのか私には理解できません」と神官。

 17!

「最近聞くと言ったな」つい彼を掴んでしまった。

「ちょっと、何なんです」

「すまなかった」慌てて手を離す。


「ムーヌス殿、貴方も17神の教徒になろうとお考えで」

「いや、くだんの友人の恋人が教徒になってしまった途端姿を消してしまったんだ」

 神官達の誤解をそのまま利用させてもらう。友人というのが俺自身だと思っているなら

「そうだったのですか。それで神を捨てるなどと」俺を見る目が変わった。

 思ったように、俺が恋人を探そうとしていると考えてくれたようだ。これでこっちは色々と聞きやすくなるはずだ。


「ムーヌスさんはいつも人を探していますね」とケイン。

 そうだよ、だが今一番なのはケインお前だ。今度は逃さないぞ。

「田舎に戻ったと聞いたんだが」

 ケインが苦笑い。

「そう思ったのは本当ですよ。でも出来なくて」

 言葉の外に、何処に田舎があるのか自分でも知らなかったと物語っている。

「そうか」

「ケイン殿には語りたく無い過去が有るんですね」とは俺達の会話を聞いていた神官だ。

 違う、語る過去そのものが無い。街に入る前に彼は存在しなかったのだから。

 ケインは自分に過去の記憶が無いと気づいた時どう思ったのだろう。そうして何をしようとしたのか。


「会えたのか?」あえて誰とは言わなかった。

「いいえ」一瞬間があった。

 ここか、ここでなのか。

 ここに来る前に会っている可能性もあるが、それでもこんな所にいる理由が有るはずだ。

 その後のケインとの会話は、神官もいたので当たり障りの無い表面的なもので終わってしまった。


「17神教とは?」別室に案内された俺はすぐに聞いた。

 神官は俺を憐れむそぶりを見せ

「さっきも言いましたが、ここ数年で聞くようになった流派です」あくまでも12神が主神でその他が増えたとでも思っているのだろう。

「聞いたはなしですが、17神と言っても神に名は無く。世界の真実をあばき魂の救済を目的としたものらしいです」

 始まりの17人は自分達を神になぞらえたのか、いや違うな彼らは神が存在しない事を知っている。これは皮肉まじりの隠語だ。

「また神から何の恩恵も受けないのだそうです。何故そんな神を奉じるのか私には理解できません。教徒になろうとする者が言うには、恩恵が無いのが正しい世界なのだと」

 小声で「わからない」と繰り返す神官。

 そんな彼の疑問を無視し「教徒は多いのですか」と俺は知りたい事を質問する。

「いいえ、ここに神変えに来るのは1年に10名もいません。そういえば最近減ってますね、今は教会にいるのはケイン殿だけです」

「17神教の教会というか拠点は何処に?」教会でない可能性が高い。

「無いそうです。神の使いである伝道者が旅をして然るべき者を導くのだと言っていました」


「はぁ〜」

 宿に戻り、硬いベッドの上に身を放り出す。

 聞いた話の中に'始まりの17人'に近づく情報はなかった。

 ケインには見張りを付けている。虫嫌いな人なら悲鳴を上げる手乗りサイズの蜘蛛。カメラとマイク内蔵。

 2台を運営から借り受けた。NPCやプレイヤーキャラは存在もしらない。意識をそちらに向けると蜘蛛の体に乗り移る。

 もう1台はパランが使って教会内で'始まりの17人'らしい人物を探している。


 ケインに変わりはない、教会で規則正しく生活をしていた。

「ケインのやつ、なんか変だったな〜。まあ俺には見つかりたくなかったんだろうが」

 誰かに向けての言葉ではない、完全な独り言だ。ただ部屋に耳が大きく良く聞こえるのがいた。

「以前のケインの言動パターンからのズレ28%」とパラン。

「それは高いのか低いのか」数字で言うな、わからん。

「気分のパラメータでの揺れ範囲ギリギリ。結構高い」


 今日会ったケインに俺は違和感を感じていた。

 何というか気力を感じられなかった。よく似た双子の弟が成りすましているとか、魂が違うみたいな印象を受けた。

「今日俺に見つかるのは想定外で少なくともケインにとって気まずいはずだが」そんな感じを受けなかった。

「その状況をパラメータに加えると、本人がとらない行動を選択している比率が多い」

 NPCならアレンジを変えて再登場という事もある世界だが、彼はプレイヤーキャラだ。

 キャラメイキングできるパラメータもNPCと違い専用、まして以前にいたキャラに近い造形は却下されオリジナルの存在だ。似た人物は存在しない。


「確かめてみるか」

「死ぬよ」

「そうならないようスーパーレアアイテムの申請を頼む」


 1時間後俺はケインのいる教会に忍び込んでいた。

 ケインの他には2人、NPCなのに改宗する人って思っていた以上に多い。

 真夜中でみんな寝ている。

「はっ」寝ているケインに切り掛かるが、流石はプレイヤーキャラ飛び跳ねる。剣は誰もいない寝具を切り裂く。

「だれだ」

 俺は認識不能が付与された仮面を付けている。姿がモヤモヤとなり正体を完全に隠せる。

 返事の代わりに剣を振り回す。

 ケインは人かよという動きでかわし、部屋の隅に有った箒を手にする。

 三流ヤラレキャラならここで「そんな物をもってどうする」と高笑いしてフラグを立てる所だが、俺はしない。

 彼は箒に魔力を流し俺の剣を受け始めた。これ一応ミスリル製なんだがな。プレイヤーキャラの強さに呆れる。

 かと言って俺を制圧できていない、手を抜いているのか。


 剣を地面に刺し。

「獄火の焔よ我声に...」と呪文を唱え始める。誰でも集まる異常な魔力量で強力な魔法を組み上げていると気づくだろう。

 ケインは耐えられても、同じ部屋にいる逃げ遅れた2人は無理だ。どうするケイン。


「スマッシュ」剣技名を叫びながらケインが飛び込んできた。

 強烈な一撃を俺に与えるが、無傷。

 '絶対防御'。プレイヤーキャラにも与えられる防御スキルで動けなくなるが3秒間いかなる攻撃にも耐える。

 俺のはズルで無制限。呪文詠唱を始めた時から無敵状態になっていた。

「ウィングカッター」ケインの呪文。

 'スマッシュ'や'ウィングカッター'は強力だがNPCも使える技。やはり本気を出していない。


 俺は呪文を中断、GMコマンドで集めた魔力をそのまま剣身に流す。赤く萌え上がった炎はオレンジ、そして青白くなり光の束となった。

 GMはプレイヤーキャラだって矯正対象にするのが仕事、本気を出せばケインだって倒せる技はある。

「シャニング・ブ...」俺が技名を言い終える前に、ケインが視界から消え後ろから横殴りに俺を真っ二つに。

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