『黒』は『桜』と森を行く

「え?じゃあクロエさんって数千歳ってことですか? え?そんなことってありえるんですか?」


神様から『色』を与えられた生き物たちはその色に

よって寿命に違いがある。

全ての色の元と言われている三貴色で300~500年

程度で、そこから派生した色は100~多くても200年とされる。

そうなると数千年生きていると言うクロエはあきらかに異常である。


「あぁ、『色』による寿命ですか?たしかに僕は

他の色と比べると生い立ちからして特殊なので

そういう意味で色々とあなた達の常識の枠から

はかれる範囲外になりますね。

ただ、『緑』の生き物や『茶』の生き物に属する

人と過去に出会ったことはありますが、少なくとも

その人たちはもっと長生きでしたよ?

千はいかないまでも数百年は生きてたはずです。」


「そうなんですか?クロエさんが言ってるのが

どれぐらい昔のことかはわかりませんが。。。

少なくとも私は三貴色以外で数百年も生きている

人には出会ったことがないですね。」


「なるほど。まぁ数千年も経つと生き物の暮らし

なども変わってきますし、今を生きる人たちは

そこまで長生きではなくなってしまったのかも

しれないですね。」

(あるいは自分達こそが至上などというくだらない

プライドで意図的にそういった情報を三貴色が

流しているか。。。)


「え?なんですか?今なにかおっしゃいました?」


「いえ、ただの独り言です。すみません考えると

独り言がついつい出がちで。気にしないで下さい」


「あー独り言ってつい出ちゃいますよね。

私の知り合いにもそういう人います。」


「僕もそういうタイプですね。お気になさらず。」


「わかりました。ところでクロエさんはこれから

どこに向かわれるか決まっているんですか?

もしよければこのままコミュニティに招待して

助けていただいたお礼をしたいのですが。」


「自由気ままな一人旅なので、特に予定は決まって

ないですね。それに『桜』コミュニティにある

桜の大木を見てみたいと思っていたところなので

そのお誘いはこちらとしても嬉しいです。」


「あ!じゃあ運がいいですよクロエさん!もうじき

旅立ちの儀があるので、その後数日が一番その

桜の木が綺麗に咲き誇るタイミングなんです!」


「旅立ちの儀ですか?それはどういうものですか?」


「えっと、毎年この時期になるとコミュニティから

一人が選ばれて外の世界に旅に出るんです。

そうして経験を積むことで私たちのコミュニティ

では一人前と認められます。

私も今年で18歳になるので、今回の儀には自分が

選ばれるんじゃないかって少しワクワクしている

んですよ!」


「なるほど、では18歳になった時の成人の儀として

その旅立ちの儀が執り行われるんですかね?」


「いえ、誤解を招くような言い方になってしまって

すみません。必ずしも18歳の人が選ばれるって

わけではなくてですね。

去年は私の昔からの知り合いで、その年に21歳に

なるお姉さんが選ばれました。

過去には30歳を過ぎた人が選ばれることもあった

みたいなんです。

ただ、年齢はそのようにばらばらですが比較的

若くてあと女性が選ばれやすい傾向にあると聞いて

います。」


「ふむ?そんなに選ばれる年齢にばらつきがある

ものなんですね。けれど毎年必ず一人が選ばれ

送り出されると。」


「そうなんです。なんでも過去に一度だけ儀を

執り行わなかった年があったそうですが、その年は

コミュニティの桜の木がなかなか花を咲かせず

そしてあたりの生き物がコミュニティを襲った

とかで大変なことになったそうです。

以来、毎年必ず一人はこの儀によって送り出す

ようになったそうです。」


「それはまた、なんというかとても大事な儀式

なんですね。生き物に襲われたのはたまたまだと

しても、コミュニティのような閉鎖された集団で

はそういった迷信というものはえてして大事に

されがちですものね。」


「へ、閉鎖って。。。ま、まぁ迷信はともかく

今はちょうどその旅立ちの儀前なので今から

儀の日まで滞在いただければ、一番綺麗な状態で

桜の木をご覧いただけますよ!」


「それは楽しみですね。でもよろしいんですか?

そのような大切な儀の時期であれば、僕のような

よそものはかえって邪魔者になるのでは?」


「大丈夫です!昔外からクロエさんのように他の

『色』の人が訪れたことがあるんですけど

その時は盛大におもてなしをしました。

残念ながらその人はどうしても大事な用事が

あったとかで儀の翌日には夜が明ける前の早い

時間に旅立ってしまったそうですが。」


「なるほど。そういうことなら遠慮なくお邪魔させて

いただこうと思います。

正直なところ、いい加減草木の枕ではなく布団で

体を休めたいと思っていたとこなので。」


「はい!ぜひぜひいらしてください!

命の恩人として、我が家で精いっぱいおもてなし

させていただきます!」


そういって二人で話ながら歩いていると、すぐ近くの茂みががさがさと音をたてて動き出した。


「オウカさん!僕の後ろに下がってください!」


「!?は、はい!!」


茂みの揺れが一度収まったかと思うと、その中から

のそりと赤茶けた『色』の猪が姿を現した。

猪は体から自身の体毛と同じ『赤茶』色した煙を

立ち昇らせ、とても興奮した様子で今にもこちらに

飛び掛かりそうな体制で後ろ足で地面をかいている。


「『赤茶』ですか。先ほどの大蛇のように言葉を

理解する知性を持ち合わせていなさそうですし

とても興奮していますね。

さて、どういった行動をとるか。。。

オウカさん。念のため失礼しますね。」


そういってクロエは後ろにかばったオウカに

向き直ると、その体を持ち上げる。


「え!ちょ!クロエさんこれってお姫様だっこ!?

さすがにちょっと恥ずかしいです!!」


そういって少しあばれるオウカを器用に抱き上げると今まで後ろ足で地面をかいていた猪が動き出す。

体から立ち昇らせた煙が全て猪の体の後ろに噴出

され、通常では考えられないようなスピードで

一直線にこちらに突っ込んできた。


「煙を推進力にしての突進ですか!なるほど、言葉は

理解できなくとも『色』の力を使うだけの知能は

あると。これだから野生の生き物はおもしろい。」


そう言ってクロエは猪が激突するその一瞬前に横に

飛びのき、常人では為すすべもないような速さの

猪の突進を余裕の表情で躱す。


ドーーーーン!!!


すさまじい音が鳴り響き猪はクロエ達が立っていた

後ろの木に激突した。

土煙が晴れるとそこにあった木は無残に半ばから

へし折れてしまっていた。


「ク、クロエさん!あれはやばいです!あんな太い

木があんな簡単に折れちゃって!!」


「おーすごい威力ですねー

真正面から受けていたら体中の骨がボキボキに

なっていたとこですね。」


「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないです!

ほ、ほら!また突っ込んできますよ!」


ぶつかった木がそのような状態なのにもかかわらず

突撃した当の本人?である猪はまったくダメージを

負った様子もなくクロエ達の方に向き直り、先ほど

と同じように体から赤茶の煙を立ち昇らせて次の

突進の準備をし始めた。


「まぁあれぐらいならどうとでもなりますよ。

でもそうですね。手ぶらでコミュニティにお邪魔

するのも悪いので、この猪のお肉はお土産として

持っていきましょうか。

毛皮も使えるだろうし、できるだけ傷をつけずに

仕留めるにはあれがいいかな。」


そういったクロエの体が『紫』色に光りだし

それに合わせて髪と瞳の色が同じく『紫』色へと

変わりだす。


「できるだけ痛くないように終わらせますね。

まぁ最初に襲い掛かってきたのはそっちだし

悪く思わないでくださいね。」


そういってクロエが右手の人差し指を猪に向けるのと猪が地面を蹴り二度目の突進を繰り出したのはほぼ

同時だった。


「クロエさん避けてーー!!」


そう叫びながらオウカはクロエに抱えられているので自身では身動きがとれず、次に来るであろう衝撃を

想像して思わず目をぎゅっとつむる。


ジッ。。。バチィン!!!


次の瞬間、何かがはじける音がしたかと思うと

その後にズゥンと何かが倒れ込む音がした。

そしていつまで経っても予想した衝撃が来ないこと

を不思議に思ったオウカが目を開けると、そこには

体から先ほどの赤茶とは違う白い煙を立ち昇らせた

猪が倒れていた。


「え?え、え、え???」


「もう大丈夫ですよ。仕留めました。

この猪をコミュニティにお邪魔するお土産として

持っていきましょう。」


声のした方を見上げると『黒』い髪と瞳に戻った

クロエがこちらを見ながら微笑んでいた。


「クロエさんあなた。。。

ちょっとその強さ非常識すぎません。。。?

は、はは、ははは。。。」


あらためて非常識すぎるクロエの強さに、オウカは

ただただ乾いた笑いを出すのが精いっぱいだった。

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彩りに満ちたこの世界で旅をする 龍爺 @Ryu_G

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