第4話 瀬戸冬華

「その異様な執着心。気付いてないとでも?」

 あー怒ってる。

 夏樹は、好きだと感じた人、またはか弱く思わず手を差し伸べたくなる人に異様なまでに執着する。それは恋愛感情などではなくただ、なんというかストーカーのような執着心なのだ。本人はそれに気づいていない。元々保育士志望だった夏樹が花屋で見かけた今井咲良へ好意を持ったことをきっかけに専門学校を辞めて、あの花屋でバイトをし始めた。しかも浩大が来るのを分かった上で火曜日にシフトを入れているのだ。『自分が今井咲良を守ってあげている』という勘違いが余計に夏樹をおかしくさせている。

 そしてまた、あの今井咲良も同じく執着心が強い。『自分なんかを愛してくれた』という気持ちが浩大へのストーカー行為に発展している。あの日浩大が持って帰ってきたハーバリウム。あれには盗聴器が仕掛けられている。きっとまだどこかにも盗撮カメラが仕掛けられているが、未だに見つけられない。そんな彼女は夏樹からの態度を好意だと感じている。これ以上夏樹が今井咲良へアタックをすれば夏樹にもその行為がなされるだろう。

 浩大はステータスへの執着。『俺は社長の息子』ただそれだけしかない男なのに、それ1つであそこまでいきがっているのだ。

 そして私はそんな"ヤバい奴ら"に執着している。浩大に目をつけられたのは偶然に過ぎないが、色んなところが繋がっていき今に至る。今井咲良がここにいるのも計算済み。自宅での会話を盗聴器で聞いていたのだろう。どこに行くかの想像は出来なかっただろうが、あの女は私の家を完璧に把握している。そして私の趣味嗜好を把握しきっているのだ。これまでの会話で行きそうなところを把握されていた。つもり私もいつの間にか彼女にストーカーされていた可能性がある。それもこれも夏樹からの好意を確認するため。今日の態度ではっきりと好意を感じただろうから明日から行動に入るだろうけど、浩大へのストーカーがなくなるのならそれもいいかもしれない。ただそれでも浩大は2人の関係に気づくまで、花屋通いをやめないだろうからこの関係は永遠に続くかもしれない。

 でもそれが堪らなく楽しいのだ。狂っている。私もこいつらも。でもそれが普通なんじゃないかって思い始めた頃から狂っている。

「なんでもないや。皆普通だわ」

 この世界は狂ってる。

 だから私の夫は来週も私の為に元妻に花束を作らせる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

元旦那は今妻の為に私に花束を作らせる 青下黒葉 @M_wtan0112

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ