第3話 瀬戸夏樹
「え、姉ちゃんの旦那さんってこの人なの」
なんでこいつがここにいるんだよ。
え、姉ちゃんの旦那? こいつが? バツイチだろ。しかもすげぇクソ男。
「あれ、浩大の事知ってるの」
「知ってるも何もこいつは──」
は、何あの顔。これ以上喋ったら殺すぞ、みたいな目してるんだけど。やば。
「彼が冬華の弟か。はじめまして。冬華の旦那の平山浩大と申します」
いやいや、きも。初対面のフリかよ。無理すぎる。
「僕、あんたなんかと仲良くする気ないんで」
「あれ、いきなり嫌われちゃったかな」
きもすぎるだろ。喋んなよ。
「てか、花束は?」
「ん? 花束って何が」
あーほら出た出た。またさっきと同じ顔。もうちょっと言ってみるか。
「え、毎週この人僕の店で花束買ってるんだけど」
うわ、目だけで殺そうとしてる。口角ピクついてんじゃん。
「そうなの? 浩大」
「いや、人違いじゃないかな。冬華は花粉症だって、君も知ってるだろう?」
「知ってるうえで買ってるんだろ?」
あー僕明日も元気に生きてるのかな。
「冗談はやめてくれ。仕事終わりで疲れてるんだ」
逃げたし。そんな疲れてる身体で無理して今井さんに嫌がらせをしてるんですね。はー身勝手な身体だこと。
「あ、今日は外で食べてくるけど、浩大はどうする? 一緒に来る?」
「は? また今日も用意してないのかよ。一緒になんて行くわけないだろ」
えー亭主関白かよ。何様のつもり?
「そっか。わかった。じゃあ夏樹行こ」
「え、うん」
流石にこんな奴と永遠誓ってないよな?
「注文決まった?」
結局姉ちゃんが連れてきたのは近くのファミレスだった。むしろ色々聞きやすくて有難いけど。
「姉ちゃんさ、あんな奴と一緒になって良かったの? やばくない?」
「夏樹はさ、か弱い女の子とかに弱いでしょ」
「は?」
「そうでしょ? 離婚して傷付いた女性の事が無性に気になって仕方がないのは、そういう事だよ」
「何言ってんの」
「私は不器用な男が好きなの。ダメ人間ほど魅力的に感じるの」
何を知っててこんな事言ってたんだよ。
「私は全部知ってる。それでも知らないフリして好きな物だけ選んで必要のないものを捨ててるの。あの男の性格もあの女の本性も、夏樹の事だってわかってる。それが異常にならないように私は間に入ってるつもり。夏樹は深く知ろうとせず、ただ表面上で接してればいいんだよ」
何の話をしてるんだよ。あの女って誰。
「さっきから何の話してんの」
「夏樹は知らなくていい話」
意味わかんねー。
「あ」
目線の先には今井さんと悠真くんがいた。
「今井さん」
「挨拶だけでもしといたら」
「うん」
なんて可愛いんだ。屈託のない笑顔。俺には向けてくれないのに。
「今井さん」
「あれ、瀬戸くん」
「仕事終わりですか」
「そう。悠真がハンバーグ食べたいって言うから、買い物するのもめんどくさいなって思って、久しぶりに来ちゃった」
こんな所で会えちゃうなんて、奇跡? 久しぶりに来た人と会えるなんて奇跡でしょ。
「そうだったんですね! 偶然ですね」
「そうだね」
「あーあの、一緒にどうですか?」
「夏樹、迷惑でしょ。早く戻りな」
なんで邪魔すんだよ。
「迷惑でしょ」
「あーだよな。すみません」
「いえいえ、気にしないで。ありがとう」
こんな時でもめちゃくちゃ可愛い。神だな。
「何?」
「そろそろ気付かれるよ」
「何が」
「その異様な執着心。気付いてないとでも?」
は?
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