伝染する、恐怖

「流行病のよう、ですか」


 神父が呟くと、女が「ええ」と答える。


「『恐怖』というのは厄介な物です。訓練された兵の士気を下げ、統率者達から冷静な思考を奪います。こうなってしまっては、王国の方が優位に立ちます。恐怖をもたらすものが、味方なのですから――そして、結末は呆気ない物でした」

「隣国の敗北、と言われていますが」

「ええ。隣国の王の死を以て、この争いは終わりました――この隣国が滅んだ話、良く知られていると思います」


 女に言われると、神父は「ええ、有名なので……」と答える。


「さて、その後王国は滅びの道を辿る事となります……その理由というのは、先程話した『恐怖』が原因になるのでしょうか」

「……何故、王国は恐怖を抱く必要が? その召喚された者は味方でしょう?」

「王国の者はそう思えなかったのですよ」


 きっぱりと、女は言った。


「何処か別の世界から来た者。勝手に呼び出し、戦乱に巻き込み、王国に忠誠を誓っているわけでは無い余所者。その者の力は、称賛に値しますが、恐怖をもたらす物でもあります。何時、自分達にその牙を剥くか。王と周囲の者達は恐れたのです。いくら周囲の守りを固めようとも、その者がその気になれば何の意味もありません。囲まれ、守られた中で死体が出来上がるのです」

「そんなことが――」

「あるんですよ。隣国の王は末期、とにかく腕の立つ者達で周囲を固めていましたが、結局は首のない死体へと変わったのですから――王と周囲の者達は悩みました。その者へ報奨を出す、とこの争いに参加させる時約束したのです。しかしその報奨を惜しんだ。また、その者を元の世界へと送り返す術も無かった。姫は召喚喚ぶ事は出来ても、送る元の世界へ返す事は出来なかったのです。このままでは、何時自分達に反旗を翻す事があるかもわからない。そうして、王と周囲の者達は、ある選択を取る事にしたのです。それが、最悪の選択だとは思わずに――」


※今回も短く申し訳ないです。

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死を喚ぶモノは懺悔する 高久高久 @takaku13

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