第31話 天月カグレ爆誕


「───────ザ、ざっコ。下手クソ過ぎテ、ワロタw

 コラボ、アリガトねェ!」


 その言葉を発した瞬間、羞恥心は物凄いものだった……だが、これまでの我慢の集大成がそれにはあった。


「うっはぁ~言うねぇ♪」


 あからさま過ぎるカグレの豹変を面白がるひばりちゃん。


「ちっ…………つ、次は、次こそは絶対。負けないからッ!」


 捨て台詞を言いつつも、カノンちゃんは涙目の様子。配信上でもカノンちゃんのアバターが涙を流す演出が施されていた。





「──で、勝負も一段落した所だし、視聴者さんたちもさぞご期待の罰ゲームの時間ですよ!」

「あ!?うぅ、あ、あれは………なんて言うか、ノリって言うか………」


 ノリノリで司会進行を行うひばりちゃんに対し、声のトーンが一層下がるカノンちゃん。元々勝つ気でしかいない為、現実を正しく受け止めきれないのだろう。


「ダメだよ~、そもそも罰ゲームの内容を考えたのはカノンちゃん、言うタイミングもカノンちゃん。全部カノンちゃんが段取りしたんだからね♪」


 確信を付かれ、たじろぐカノンちゃん。

 でも、謎のプライドから中々言葉に出来ずにいた。


「ほらほらぁ~♪」

「うぅうっ……」


 追い込まれたカノンちゃんは苦虫を噛み潰したような表情で一言。


「ご、め………………ぃ、」

「───────ナンテ?聞こエないよカノンセンパイ?」


 手を耳元に送り、聞こえないアピール。

 そしてニッコリとリアルで笑みを送る。


「くっ…………っぅ。うぅ。はぁっ……………」


 多分、怒りと羞恥心。そしてプライドがズタズタであろうカノンちゃん。更なる追い込みを食らうと、顔を真っ赤にさせながらプルプルと震える。


 そして、最後に。



「───────ご、ご、ごべんなざいぃぃぃぃぃ!!!!!」



 そうして今回とコラボはカノンちゃんの盛大な大号泣謝罪で幕を閉じた。これは伝説のコラボ会と言われ、多くの再生回数&切り抜きが行われ、カグレの実力とプレイスタイルが世に初めて発信されたのであった。



「フフ、良く出来マシタ、よしよし」

「 ……ぁっ♡はひぃぃぃぃ!!! 」


『あ、』

『あっ!?』

『あっ…(察し)』

『えぇ(困惑)』


 などなど、沢山の伝説を作ったコラボ会であった。


 ☆☆☆


 そうしてこの日の配信は早々に終了し、時雨に戻る。

 天月カグレという第2の自分が抜け、主人格が戻って来る。


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」


 まぁ、叫ぶ。今の状況にただただ叫ばざるを得なかった。


「な、何を?やってるの?私。意味わかんないよ。どうして?なんであんな事やったの?」


 頭を抱え、配信での散々な行動を振り返る。

 煽り。絶対にダメなことだとは重々承知しているつもりだった。

 だけど、本能的なものに抗えなかったのだ。


「これじゃ……悪役じゃん。嫌われ者じゃん。こんなの…………こんなの、私が思い描くVTuberじゃなぁぁぁぁぁい!!!!!!」


 天月カグレはまだまだ新人VTuber。これから様々な人と出会い、様々な経験をし、成長しチャンネルは伸びて行く………だが、彼女は最初の1歩目から大きく踏み外した半端者だ。


「────ウッワ、ざっコぉぉぉ、」


 やめようと思ったけど、結局今のスタイルをやり通して進む。

 それが彼女の見つけた最初の武器で、茨の道。だが、確かな道はある。彼女だけの険しく儚い、過酷な道が。







 そうして、天月カグレというVTuberが爆誕し───────

 声バレしてしまうあの日に、行き着くのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

煽り系配信者のワイ、成敗されて美少女バレする かえるの歌🐸 @kaerunouta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ