第30話 プレイスタイルが定着した瞬間
余りにも早い撃墜。そして先程とは余りにも違う
嘘……でしょ?だって、だって…………
考えれば考える程に、頭は混乱する。
そして『敗北』の2文字が脳裏に確実にチラつく。
絶対に勝てる勝負だって、言われたのに………だからっだからスマファミで挑んだの二ィィ!!!そしてそして、謝罪させてカグレにVTuberとしての真髄を一から叩き込んでやるつもりだったのにィィィィ!!!!
既にカノン自身に冷静さは存在せず、ただただ込み上げる怒りの感情に身を委ねざるを得ない状態だった。キッ( ≖_≖)、と
『即死エッグ………』
『えぇっ!?さっきまでと動きが違い過ぎないか?』
『そ、それなあからさまに動きが違う?……という事はワザと力を抑えていたのか?』
『確か、ガチナイトの即死コンボってムズいんじゃなかったか?』
『即死コンボ自体がそもそもムズいで。並大抵のプレイヤーは出来ないからな』
『つまり………?』
カノンは最後に嫌なコメントを見付けてしまった。
『────カグレがガチでやり込んだプレイヤーで、カノンがカグレに勝つのは最初っから不可能だったってことさ』
☆☆☆
「ウァァァァァ、くっそぉオォォォォ!!!!!!!!!!!」
ジョーカーJrの奥義 ────〖ベルゾナ〗
架空の存在として生まれた悪の心 ベルゾナを解放し、ジョーカーJrの後ろに蒼い妖艶を放つ化身が立つ。
装備はジョーカーJrと同じ……いや、それ以上の禍々しさと邪悪さを持ち、仮面の奥から溢れ出る大量の殺気を周囲に撒き散らしていた。
「ヤット出て来た?随分とオソカッタネ」
そもそも、ゲージが堪らないように立ち回っていたからだけど。
「ア?煽ってんのか?こっからが…本番だろうがぁぁ!」
そう言いながらも、強化された
だけど、当たらなければどうということはないのだ。
ガチナイトは数回スティックを下に倒し、しゃがみながらエイハッをリズム良く避けた。ガチナイト自体は身体が小さい為、こんな避け方も出来るのである。
────だが、この。たった数回の屈伸行動が、今後のカグレに酷く影響を与える事になってしまう。
「ふ、ふざけるなよ。
なんだそれ!あ、煽ってんじゃねェェェェェ!!!」
決してカグレ自身、煽った訳では無かった。反射的に行なった最前のプレーの筈だった。だけど………カノンちゃんからは煽り認定をされてしまった。
「ア、えと………あー、」
ごめんなさい………そう言おうと思うのに────言葉が出ない。
陰キャとかコミュ障とかの問題では無い。ただただ不可思議な感情に襲われたのである。
なんなのだ、この高揚する気持ちは?
なんなのだ、この揺さぶられる感情は?
「このやろぉォォォォォォォォ!!!!!!」
怒号と共に迫るジョーカーJr。
だが、その音はカグレには聞こえない。
───ギュイン、ギュインギュインギュウイイン!!
戦場に、聞き慣れない衝撃音が響く。
「は!?」
ジョーカーJrは強化された
──────────ギュイン、ギュギャギャギャ、ギュイン!!
この音はジャストガード(以下ジャスガ)を決めたタイミングでしか鳴らない効果音であり、ジョーカーJrの攻撃全てを避けず真正面から受け切っている確かな証明であった。
「ははっ!?超連続ジャスガ!?連打エグすぎw♪」
繊細なガードの連打。予測、予習そして適応。
これはカグレがカノンの思考を完全に掌握したと同義であった。
ひばりちゃんは笑い転げ、カノンちゃんは呆気に取られる。
ジャスガとは高度なプレーであり、魅せプレイでもある。
確かにジャスガを決められれば多大なリターンが得られるが、その分リスクが大きいという欠点があり、大事な試合などではまず狙わないプレーだ。
だが、敢えてそれをする事により圧倒的実力差を目で相手に訴えることが出来る。
「く、クッソー!煽られて負けられるかァァ!!!」
ジャスガも煽り認定されたようだ。だけど、しょうがない。
カグレだって、これからのVTuber人生の為に少しでも良いものを魅せたいのだ。
遠距離攻撃では意味が無いと判断したカノンちゃんは白兵戦へと作戦を変更する。
DAの高速横回し蹴り(ベルゾナとの2連撃)を当たり前のようにジャスガ。続け様に横強の3連のナイフ刺突(ベルゾナ支援付き)もタイミングを合わせてタンタンタンとジャスガ────
「じャぁ〜行くヨ!」
掛け声に合わせ、ジャスガで生まれた大きな隙の間に悠々とジョーカーJrを掴んだガチナイト。
「うわ、嫌、嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
数秒後。“ゲームセット”……そう画面に現れ、3ストック目をノーダメージで〆たカグレは、スマファミとしての真の実力を世界に証明したのであった。
だが、そんな勝利の余韻よりも、喜びよりも……………カグレはこの感情の謎が知りたかった。
勝負で勝つ、スカッとする爽快感とはまた別な稀有な感情。
自分の嗜虐心をグジリと逆撫でする新たな喜びだと言えば適当なのだろうか………
『うっはァ~カグレ煽ってんじゃん!』
『でも、スゲぇぇぇ魅せプだったわ』
『凄く面白い!!!!!!』
『なんか、煽るVTuberって新鮮だった』
『カノンも散々バカにしてたし、自業自得。ナイスゲームでした!』
『カグレお前は最高に面白いぞ!』
ようやく一息し、コメント欄を見ると…………中々の好評であった。
え、つまり、こういうのが良いって事なのかな?
ダメだから“こそ”いいのかな?
これが、自分だけの唯一の武器になり得るのかな!?
「ナニ、この矛盾……………オモシロ」
多分、リアルの時雨も怖いくらいに笑顔だったと思う。
だけどそれぐらいのドキドキする感情に出会ってしまったのだ。
もう、それに沼るくらいハマってしまう程に。
勝負が決着し、項垂れるカノンちゃん。
「クソが、クソが……」と、小声を吐くが覇気は無い。
そこに悠々と目線を向けるカグレ。
「ザ、ざっコ。下手クソ過ぎテ、ワロタw
コラボ、アリガトねェ!」
ぎこちの無い煽り構文。だがこれがカグレの精一杯。
だけど、最大限自分の被虐心を擽られる言葉を吐き出した。
そしてこの時、この瞬間がこれからのVTuber業界に“革新”という名の“汚名”を晒し続ける天月カグレのプレイスタイルが定着した瞬間であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます