第29話 逆襲の時間


 コントローラを互いに持ち、中断されていた戦いが再開される。


 カグレが操る漆黒のマントを羽織る真紅のガチナイトは颯爽に終点の地面へと降り立ち、ギラりと黄金の剣を携える。その姿は見紛う事無く悪魔の様だ。


「ふぅ……」


 息を吐き、頭の中をリセット。ただただ冷静を保つ。

 そして早期撃墜の事のみに集中し、精密マシーンへと化す。


 今の所、カノンちゃんのダメージは15%でほぼほぼノーダメージに近く即死コンボで十分に持って行ける範囲だ。



 スゥー、地面を滑るように滑空する……ガチナイト。

 ただただ真っ直ぐに。目線はジョーカーJrのみに固定されている。


「ハハァ!? 焦って特攻?見え見えなんだけどw」


 そう笑いつつ、ガンNBで応戦するジョーカーJr。

 上下左右の4方向に連射し、ガチナイトを近付かせないつもりだろう。


 ──だが、今のガチナイトはひと味違う。1度の低空入力のジャンプでNBを難なく躱すのと同時に掴みを成功させる。カグレは既にカノンちゃんの行動パターンは網羅していた。その為、技と技の間に活路を見出したのである。


「あ!?」


 ガチナイトが即死コンボを使うキャラだと言うのは有名。

 そしてその即死コンボが掴みから始まるのが一番シンプルで定番である。


「クぅ!?」


 反射的に即死コンボが来ると判断したカノンちゃんは咄嗟にレバガチャ(コントローラのスティクを高速で動かすこと)を始めたが、カグレの超越した練度にそれはほぼほぼ無意味である。キャラがズレた瞬間から調整を施す為だからだ。


 素早いキャラを連続で蹴りながら投げる下投げからの下シフトを入れた回転攻撃空Nの2つで簡単に場外へと押し出すと、ダメージの管理を頭に入れながらの上180°に振るう斬撃空上で確実に画面端へと繋ぎ、運ぶ。


 いち…………に…………さん……………………よし、出来上がり。


 空上を3回繋ぎ、フィニッシュで吹っ飛ばし率が高い3連袈裟斬り空前で意図も簡単に、そして最速でジョーカーJrは1ストックを失った。



「え………あ……………………はぁぁぁ?」


 カノンちゃんは口を大きく開けて唖然。先程まで大した事が無かったヤツが急に本性を表したのだ。今までの勢いを失ってしまうのも無理は無い。


「おー、カグレちゃん。ようやくカノンちゃんから1ストックをもぎ取ったァァァァ♪さぁさぁ、どうなるどうなる?勝負はここからここからぁぁぁぁ♪♪」


 カグレの実力を前持って知るひばりちゃんは既に大興奮。

 驚きの演技をかましつつ、楽しそうに実況する。


「っ、マグレってヤツ?偶然たまたま即死コンボが繋がったんだな。

 まぁ褒めてやるよ。だけど、さっきはズラしを入れてなかったから簡単に運べただけだからな。ここからが本当に本番だからなァァ!!!」


 「レバガチャしてたやん」………というツッコミは止めておこう。

 火に油を注ぐ事になりかねない。


「マァ、まだストック的には負ケテるから………」

「────黙りやがれ!くそ、〇ねぇぇーーー」


 そしてツッコミの代わりに喋ってみたけど……うん、逆効果だった。

 カノンちゃんは激昂する気持ちが遂に抑えられなくなり……再びのガンNB。更にエイハッ横Bの絡めての弾幕戦法に切り替えて来た。


 その行動にはあからさまな“困惑”が見て取れる。それで……1番信頼し、使い慣れている戦法に頼るという訳か。予測通り過ぎて何か不安だけれども、多分……大丈夫かな。



 画面端にて、ジョーカーJrの復活後無敵時間を待っていたガチナイト。その無敵が切れるのを見計らい、先程と同じようにジョーカーJrへと迫った。


「即死コンボなんて早々にやられるわけねーだろがァァァ!」


 ───────ガシッ。


「「あ……」」


 2人の声が揃う。そして───


「ぐぎゃぁあア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!」


 カノンちゃんの魂からの叫びがZwei配信スタジオA、そして配信に響き渡った。

 コレで互いに1ストック対決。面白くなって来た。


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